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6① ー遠乗りー 

「ヴィオレット!」


 神殿を出てお互いの寮に戻ろうとした時、遠くから大声を上げた者が足速に近付いてきた。


 ファビアンだ。


 廊下でやたら会うのだが、何をうろうろとしているのだろう。


「その男は、誰だ!?」


 再び挨拶もなしに、無遠慮な問いをしてくる。そんな大声を出して問うことだろうか。

 眉を逆立てて、ファビアンは気色ばんでいる。王子たる者、もう少し表情を出さぬように練習した方がよいのではないだろうか。


「彼は、友人ですが?」

「男と二人、神殿にいたのか!?」


 怒っているのはそれか。その言葉はそのままファビアンに送りたくなるのだが、自分は例外だとでも言うのだろうか。


「神殿ですから他にも生徒がおります。二人きりと言うのは語弊があるでしょう。それを言うならば、あなたも女生徒と一緒にいるのでは?」


 我慢できずにそれを口にすると、ファビアンは、ぐっと口を閉じた。


「そ、それは……」


 呪いのせいだけでなく、ファビアンは前からヴィオレットへの態度を横柄にしていた。学院に入ってそれはひどくなったが、ヴィオレットに張り合うために偉そうにする様は前々から見られていたものだ。


(婚約者として、結婚する相手として、私と対峙する気は元々なかったのかもしれないわね)


 張り合って、下に見ようと荒を探しているようだ。

 マリエルに好意を持っているとしても、ヴィオレットに冷たく当たるのは話が違う。


「部屋に行ったら、アメリーからヴィオレットは神殿にいると言われたから来たんだ。その男と何をしていた!?」

「神殿ですから、祈りをあげていただけです。彼が先に神殿にいただけですが、他に何があるのですか?」


 そう問えばすぐに口をつぐむ。何を想像しているやら、ファビアンは息を止めたように、頬を赤くした。


「何の用だったのですか?」

「何って、用がなくて部屋に行ってはいけないのか!?」


 普段用があっても部屋になど来ないだろうに。何を思って部屋に訪れたのか。ファビアンは顔をさらに真っ赤にさせると、もういい、と言って踵を返して戻って行ってしまった。


「何しに来たのよ……」

「少しはおかしいと感じているんじゃないか?」

「無関心のままで良いのだけれど」


 そのまま自由にしていればいい。ボロを出して面倒になるのはファビアンの方だ。


「その方が僕もやりやすいな……」


 ボソリと呟く声が聞こえたが、聞こえないふりをしよう。

 エディとは身分的に友人関係は問題なくとも、それ以上は難しいところがある。


「そういえば、呪いのせいだろうけれど、最近馬に乗っていないのでは? 入学当初は馬に乗った姿を見掛けたけれど」

「そうね。しばらく乗っていないわ」


 突然の会話変更だが、突っ込むまい。そして問われてふと考える。呪われてから馬に乗ることはなかった。学院に入る前や入ってすぐの頃は乗馬を楽しんでいたのだが。


 学院でも馬に乗ることができる。乗馬の科目もあるので練習ができるのだ。自分の馬を連れることはできないが、学院の馬を借りて遠乗りに出掛けることも可能だ。


「良かったら、軽くご一緒しませんか?」


 エディの提案に、ヴィオレットは二つ返事で頷いた。





 乗馬は得意な方で、学院に入る前から良く遠乗りをしていた。昔はファビアンと共に練習をしたが、最近では当然馬に乗って遊ぶなどしていない。


(軽く森へ走りに行ったりもしたわね。よくこっちに対抗してスピード出して、危ない目にあったり、懐かしいものだわ)


 あの頃は、ただ弟が姉に勝ちたいがための張り合い程度に思っていた。

 こちらが手を抜けば怒るくせに、勝てないと頬を膨らませる。成長してそれなりに走られるようになれば、さも当然とした顔を見せていたが、それはそれで可愛らしいものだった。


 劣等感まではいかないが、ヴィオレットに対抗するのはいつものこと。男として婚約者として勝ちたいという気持ちは強く表れていたので、それをたしなめる真似はしなかった。それなりに矜持があると思っていたからだ。


 それがいつしか厭う心に変わっていったのか、今でもただ張り合っているだけなのかよく分からないが、憎たらしく嫌味を口にするようになったわけである。

 文句ばかり耳にすれば、こちらだって気分も悪くなる。顔を合わせれば格好や態度に難癖を付けてくるのだから、当然ストレスが溜まった。


 避けるつもりはないが、言葉を交わせば素気なくなる。優しく諭そうとしても口うるさいと言われるのならば、適度に返した方が楽だからだ。


 相手をするのが億劫になったのは学院に入る前からだが、呪いが解けた今、面倒としか思えなくなっている。

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