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18② ー罠ー

 周囲がざわめいた。大口を叩いたマリエルは周りが騒ぎ始めるのを待っていたかのように、演技をしめにくる。


「口付けだって、済ませておりますもの!」


 大勢いる場所での爆弾発言にざわめきはピークに達しただろうか。演技を終えたマリエルは顔を覆った指の隙間からヴィオレットを見遣って、にやりと口角を上げた。


「では、あなたはファビアンが刺された場所にいたということね」

「当然です。廊下で待っていたのですもの」


 マリエルは堂々と頷く。隣にいたクロエも同じように頷いた。


「だ、そうです。簡単に犯人が分かりましたわね。二人で共謀したのでは?」

「……、何を言って……?」


「手紙を私の部屋の扉に出したのはあなたたち二人のどちらかかしら? ファビアンをどう言い包めて古い校舎の教室で待ち合わせるようにさせたか分かりませんけれど、あなたたちはそこで待つファビアンと口論にでもなって、ファビアンを刺したのでは? 婚約はできないと断られでもして、カッとなって……。それで私になすろうと?」


「……何を、何を馬鹿なことを言っているの! どうして私が婚約できないと断られると言うんですか!!」

「当然でしょう。ファビアンの婚約は王が決めたこと。王はあなたのことをよくご存知よ。良からぬことを企む令嬢がファビアンに付きまとっていると」


 マリエルは呆気に取られて目を見開いた。さすがに王の話が出てくるとは思わなかったようだ。隣で聞いていたクロエも目を泳がせる。


 口から出まかせだが王のことは嘘ではない。マリエルは信じられないような顔をして、ぶるぶると体を震わせた。


 マリエルの計画ではファビアンが命を落とすことはないのだろう。ファビアンが本当に死んだら婚約どころではなくなる。


 ヴィオレットが校舎に入り扉を開けるまで二人は見ていたのかもしれない。それから警備騎士の部屋に駆け込んだのだろう。古い校舎から警備騎士の部屋は近くにある。だからヴィオレットがファビアンを見付けてすぐに警備騎士を連れることができた。


 扉を閉め二人が警備騎士を呼びに行っている間にヴィオレットが逃げたと言いたいのだ。


 誰に何を吹き込まれたか。とにかくヴィオレットをファビアンを襲った犯人に仕立てたい。そうすればヴィオレットは暗殺未遂になり、婚約者の座を引きずり下ろされる。


「ヴィオレット嬢は僕と共にファビアン王子の部屋に行ったのに、どうやってファビアン王子を刺せるのか。ファビアン王子の部屋からこの校舎は距離がある。廊下で待っていた君たちがファビアン王子を刺したという方が納得できるのでは?」

「嘘をつかないでください! どうして私がファビアン様を刺さなければならないのですか!?」


 エディの言葉にマリエルが反論する。しかし顔は青ざめて蒼白だ。婚約者になれるはずだったのに当てが外れそうで動揺している。


 クロエに至っては何かに助けを求めるかのように視線を泳がせていた。


 話を聞いていた警備騎士が、そろりと手を上げてエディとマリエルの睨み合いを制止する。


「令嬢たちは二人が争うのを見て我々の元に応援を呼びに来られた。でよろしいですか?」

「そうよ! ファビアン王子に掴みかかってナイフを振り上げたの!それを見て恐ろしくなって、すぐに警備を呼びに行ったわ!」


 クロエがここぞとばかりに肯定した。マリエルも同様に頷く。そこで止めに入ろうとは思わなかったらしい。二人で仲良く警備を呼びに行ったそうだ。


「ラグランジュ令嬢はファビアン王子の部屋に行く途中、その彼に会われたと」

「ええ。バダンテール様に会って、ファビアンの部屋で彼が戻ってくるのを待っていたの。手紙が本物だとしてもしばらく待っていればファビアンも私が来ないと思って部屋に戻ってくるでしょう」


 ヴィオレットが警備騎士に説明すると、聞いている皆がヴィオレットを信じ始めていた。マリエルの噂が悪くなっているので、ファビアンとマリエルの痴話喧嘩の方が納得しやすいのだろう。


 残っていた警備騎士たちが困ったような顔をしていると、一人の警備騎士が口を挟んできた。


「では、バダンデール様以外にどなたかヴィオレット様にお会いした方はいらっしゃいますか?」


 ファビアンの部屋は男子寮内とはいえ、他の者たちがいる部屋と違い人の通らない奥の部屋だ。他の生徒たちが簡単に近付けないように専用の階段もある。

 部屋へ行くまでに誰にも会わないことがあってもおかしくなかった。


 警備騎士は念の為聞いたのだろうか。

 帽子を深く被っていて顔はよく見えないが、マリエルが湧き上がる笑いを抑えきれないように歪んだ顔を見せる。クロエも証人は出ないだろうと安心したか、微かに引きつった笑いをした。


 警備騎士に手引きした者がいる。それの見当も付きそうだ。


(笑っちゃうわね。私が教室からから抜け出して、鍵を閉めて逃げたとでも思っているのかしら)


 そんな時間がなかったことは、二人が一番よく分かっているだろう。

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