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17② ー手紙ー

 ほとんど人が入らない教室や実験室のある古い建物の一角。


 廊下も通る者はおらず、掃除をしているのかも分からないほど古く汚れている。


 倉庫がわりにしているのか、机を引きずったような跡もある。建物出入り口は錠が鎖にからまっていたがこじ開けたように見えなかった。管理しているのは警備騎士だ。仲間がいると言うのもあながち嘘ではなさそうだ。


 明らかに怪しい手紙には、使われなくなった古い校舎の一室に来てほしいと書いてあった。差出人はなく、手紙は一文で短かったが、ファビアンの筆跡に間違いなかった。


 ファビアンをどう言いくるめてこんな手紙を書かせたのか。とても興味深い。


(言い合った件で謝らせたらどうだとかかしらね)


 あとは呪いについてファビアンに伝えでもしただろうか。噂を耳にして、真実を人気のないところで聞いたらどうか。そんな誘い文句をつけてファビアンに手紙を書かせただろうか。


 ————今すぐ一人で来てほしい。大事な話がある。————


 そんな文に鼻で笑いそうになる。これを本気で書かせたのならばそれなりに罠があり、ヴィオレットも警戒して来るだろうと考えるはずだが。


 本当に一人で来ると思っているのかも謎だ。


(どんな罠が待っているやらだわね)


 待ち合わせ場所の教室は三階廊下の一番奥だ。歩いていると廊下の窓から隙間風が入ってきて、ヒューヒューいっている。

 他の教室も使われておらず、廊下を歩くとヴィオレットの足音だけが聞こえた。


 周囲に人の気配はない。息を潜めているのか分からないが、誰の姿もなかった。


 ヴィオレットは扉の前で足を止めた。扉はしっかり閉まっており、中は見えない。閉じられた古い扉の向こうに人が動く気配はなかった。


 誰もいない可能性は高い。扉に魔法でも掛けて爆発するような仕掛けがあるだろうか。そんな物騒なことを考えて、エディからもらったブレスレットに軽く触れる。役に立つようなことがなければ良いのだが。


 そっとドアノブに手を伸ばし、ヴィオレットは古びた扉をゆっくり開いた。


 教室の中は薄暗く埃っぽい。カーテンが閉められているか、隙間からちらちらと光が入って時折教室の中が見え隠れし、そこが広い講堂であることが分かった。


 目が慣れてくると階段下の広い空間が見える。


 ヴィオレットはぎくりとした。黒板の側の教壇にもたれて、足を広げ座っている者がいる。


「ファビアン!?」


 急いで走り寄りると、そこにはぐったりとしたファビアンが荒い息を吐いて座り込んでいた。


 顔色はよく見えないが頬に触れると冷や汗をかいている。いつからここにいたのか、体温が低くなっているのが分かった。


 瞬間、がちゃり、と、扉が閉められる音がした。


(閉じ込められた!?)


 一瞬立ち上がりそれを確認しようと思ったが、ファビアンの状態の方が心配だ。


「ファビアン、ファビアン!」


 頬を軽く叩いて名を呼んだが、返事がない。ただ息荒く、はあはあと浅い息遣いが聞こえるだけだ。


 しかも何か生臭い香りがする。


「血……? ファビアン?」


 影になっている横腹あたりがやけにドス黒い。そこに恐る恐る触れると、ぴちゃり、と生暖かい液体が指につくのを感じた。


 横から刺されたのか、柄の部分が体から飛び出している。


 まだ、ナイフが体に刺さったままだ。


「ファビアン……、ファビナンしっかりして!」


 コームは何をしているのか。誰か呼ぶべきか考える間もなく、扉の向こうから大声が聞こえた。


「早く! ファビアン様の悲鳴が……! ヴィオレット様とファビアン様が、争って!!」

「こちらです。早く!」


 マリエルとクロエが叫びながら、大勢の足音と一緒に近付いてきた。


(やられた!!)


「ここです! ここにファビアン様が!!」


 叩きつけられるように開かれた扉は、騎士たちの体当たりで蝶番が外れるほど無理にこじ開けられた。

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