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12 ー陰謀ー

「何をされているのですか!? その部屋がラグランジュ家ヴィオレットお嬢様のお部屋だと分かって侵入しているのですか!?」


 学院の警備騎士たちがヴィオレットの部屋に勝手に入り込んでいるのを見て、アメリーが激しく怒鳴りつけた。


 一体何事なのか。扉の鍵が壊され、無理に開けられたようだ。ぞろぞろと警備騎士たちが入り込み、部屋の中をごちゃまぜにして何かを探している。


「誰の許可を得て、このような真似をしているのですか!!」


 アメリーが怒鳴っても警備騎士たちは見向きもしない。一体何を探しているのか、ドレスや小物が床に散らばっていた。


「あった!あったぞ!!」


 途端、一人の騎士が茶色の袋をベッドの下から取り出した。小さな袋できつく締められている物だ。


「これは一体何なのでしょうか。ラグランジュ令嬢」

 いきなり問われてこちらが問いたくなる。警備騎士がその袋をヴィオレットの目の前にぶら下げた。


「何の話をしているの? 人の部屋に勝手に入り、何の権利があって私に質問しているのかしら?」

 嫌な予感がする。王妃との面会中に警備騎士が入り込むなど、偶然にしてはタイミングが良すぎた。


「情報が寄せられました。ラグランジュ令嬢が毒殺を謀ったと」

「何を馬鹿なことを言っているんですか!? どうしてヴィオレットお嬢様が!? 一体誰を!?」

「それを聞いているのです。この袋には一体何が?」


 誰を毒殺するつもりだと言うのか。毒殺を謀ったとあれば何が入っていると思っているのか。しかし、その袋はヴィオレットの見知らぬ物で、見たこともなかった。


 ヴィオレットの部屋に誰かが侵入し、袋をベッドに忍ばせたとしたら、王妃が呼んだのはそのためか?


(まさか、王妃に謀られた!?)


「中を改めさせていただきます」

「ちょっと、待っ……」

「ただのお茶ですよ」


 ヴィオレットが止めようとした矢先、集まってきた生徒たちの中から聞き慣れた声が届いた。


「ただのお茶です。僕が送ったものなのですが、お送りしたものが一部ベッドの下に落ちたのかもしれませんね」

「エディ……」

「お茶などと、そのような世迷言は後にしていただきたい」

「本当です。アメリーさん、茶葉は入れずお茶の用意していただけますか?」


 エディの言葉にヴィオレットはアメリーへ頷いた。アメリーが急いでお湯の入ったポットとカップを持ってくる。

 警備騎士から袋を奪ったエディは袋を斜めにして、そこから中身をぱらぱらとポットに入れた。

 そうして、無造作にカップに入れると、ごくりと飲み干したのだ。


「ほら、何でもありません。ヴィオレット様もいかがですか?」


 エディは言いながら、もう一客のカップにそれを注いでヴィオレットの前に差し出した。

 色は琥珀色で暖かい湯気から紅茶の香りがする。ヴィオレットはそれを手にして、ぐっと飲み干した。


「……美味しいお茶だわ」

 本当にお茶だ。ヴィオレットがエディを見上げると、隠れた前髪の下でぱちりとウィンクしてくる。


「一体、どういう了見でヴィオレットお嬢様の部屋に侵入したのですか!! ラグランジュ家のお嬢様と知っての行動ですか!? 誰の命令で行ったのか、はっきり仰ってください!!」

 アメリーが大声を上げた。警備騎士たちがびくりと肩を上げてお互い顔を見合わせる。


「じ、情報があったのです。ラグランジュ令嬢が妙な輩から怪しげな袋を手にし、カミーユ様の毒殺を仄めかしていたと」

「はあ!? ヴィオレットお嬢様がカミーユ様を狙うなどと!! どこのどなたがそのような情報をあなた方に渡したというのです!!」

「そ、それは……」


 警備騎士たちはやはり顔を見合わせるだけで、誰とは口にしない。知らないのか、口止めされているのか、とにかくその情報を得て勝手に部屋に入り込み、部屋の中をあさったのだ。


「これは、厳重に抗議したほうがよさそうですね。勝手に部屋に入り込み、令嬢の部屋をあさるなど」

「も、申し訳ありません!! 我々の勘違いで、ラグランジュ令嬢に失礼を!!」


 エディの言葉に騎士たちがたじろぐと、一斉に頭を下げた。しかし、謝罪程度で終わらせるわけにはいかない。ヴィオレットを陥れる罠に、警備騎士たちが賛同して部屋に入り込んだのだから。


「警備騎士の管理はどうなっているの? このことは王宮に連絡します。調査することになるでしょうから、このようになった原因と証拠を全て詳らかにするように。隠し立てをすればラグランジュ家が黙っていないことを、覚えておくのね」


 警備騎士たちは震え上がったが、彼らは次の職を探すことになるだろう。

 エディは王宮には既に連絡をしてあると言い、警備騎士たちや集まった生徒たちに解散するよう追い払った。


「さて、ひどい有様だね」

「ひどいわね。鍵も直させなければ」


 部屋の中は物が散乱しており、アメリーが急いでそれらを拾い始める。エディは持っていた紅茶袋をこちらに開いてみせた。

 中に入っているのは粉になったもので、先ほどのポットに入っていた物と違い、お茶の匂いがしなかった。


「これは……?」

「毒でしょう。危なかったよ」

「先ほどは、どうやって?」

「手品が得意なんだ。こうやって」


 エディが拳を握ると、ぱらぱらと紅茶の茶葉が小指の下から落ちてきた。

 エディは袋の中身を出したのではなく、手のひらから紅茶を出してポットに入れたのだ。魔力が多いと宣言するだけあるか、その辺の魔術師では行えない難しい空間移動の魔法を行ったのだ。


「……器用な真似を……」

「間に合って良かったよ」

「……話を、聞きましょうか。王妃の命令なの?」

「そうだね。王妃から連絡があった。ヴィオレット嬢を陥れる計画があるため、それを阻止しろと」


 どこからどこまで計算していたのか。王妃はヴィオレットをわざと王宮に呼んだ。お茶をするという理由で足止めし、その間に警備騎士たちがやってくる。毒と思われる袋はいつから置かれていたのか分からないが、エディがその袋の中身を別物に見せた。


「タイミングが合わなければ、私は暗殺未遂の犯人として仕立て上げられたかもしれないのね。けれど、とても無謀な計画に思えるわ。どうして私に、先に教えてくれなかったの!?」

「君は僕を疑っていただろう。王妃に身分を隠して会うような男だと。僕からの助言を信じてもらえるか分からなかったのと、いつ毒が部屋に入れられるかも分からなかった。騒ぎが起きてそれを邪魔するしかなかったんだ。それに、犯人が警備騎士たちに情報を与えなければならない」

「初めから教えてくれる? あなたは、何を知っていたの?」


 エディはヴィオレットがエディを調べていたことは知っていたのだ。アベラルドが王妃と会うエディの話をヴィオレットにしたことも知っている。

 アベラルドの手が気付かれていたわけだ。


 王妃に関わる者ならば、警戒して当然か。

 だが、毒の話は一体どこから手に入れたのか。王妃はどこまで情報を持っているのだろう。


「僕が敵ではないことは信じてほしい。こちらも王妃主体で調査していることがある。僕はたまたまこの学院にいて王妃の手伝いをしているだけだけれど、王妃はずっと前からヴィオレット嬢のことを心配していたよ。僕が気付いた魔法に関しても、魔導士は王妃から遣わしてもらったからね」

「王妃様が……?」


「僕が今君に伝えられることは、王妃はジョナタン王子殺害の犯人を探しているということ。その犯人が君を狙った可能性があるということ。ヴィオレット嬢にはまだ危険があるだろうから、僕は君を守るということだ」

「それも、王妃様命令?」

「それは自主的にかな」


 エディはにこりと口角を上げる。ちらりと見えるエメラルドグリーンの瞳はヴィオレットをしっかりと見つめていた。


「分かったわ。今日のことは、王妃様によって計画されたもので、私は囮ということね」

「あ————、それを阻止するのが僕の役目だった」


 エディは間伸びした声を出す。

 王妃はヴィオレットをわざと呼び出し、ヴィオレットをカミーユ暗殺未遂の犯人として陥れられるのを待った。

 ヴィオレットを呼び出した際、王宮から王妃の馬車が目立つように学院前にやってきた理由はそれだ。


「王妃様の計画通り、犯人は警備騎士たちにカミーユ様暗殺未遂の情報を与え、私を犯人に仕立てようとした。誰の情報なのか言わなかったけれど、どうしてそれを信じて部屋に入り込んだのかしら」

「ファビアン王子の名を使われたのだろうと思っている。手紙を警備騎士の待機部屋に出した者がいたようだ。警備騎士たちは急いで君の部屋に走っただろう。情報者の名を言わなかったのは、王子の垂れ込みなんて口にできないからじゃないかな」


「そんな稚拙な手紙を信じるなんて」

「カミーユ王子が狙われたことに繋がるような手紙だったのかもしれない。警備騎士たちが慌てたところを見れば、罰についても書かれていたかもしれないね。どちらにせよ、その手紙は証拠として出るだろう」


 王宮からはとっくに調査隊が出ているため、調べは始まっているようだ。

 用意周到な話にヴィオレットは脱力しそうになる。こちらはこちらで調べていたのに、王妃の手の中で転がされた気分だ。


「私がカミーユ様暗殺の毒を持っていれば、呪いを掛けられていたこともうやむやにできるし、ファビアンの婚約者を脱落させることができるから、犯人はそんな真似をしたのかしら」

「犯人の狙いはまだ分からない。だが、君は呪いを掛けられていて、再び狙われる可能性が高かった。カミーユ王子暗殺未遂の犯人を仕立てる計画は事前に確認できたため、おそらく君が狙われるだろうと」

「確かに、ファビアンに執着していた時期があって、毒が部屋から出たら、私が犯人だと疑わない者も出てくるわね」


 問題は証拠なのだから、陥れられてもそれを証明できなければ犯人に仕立てられる。


「まだまだ、警戒してほしい。だから、これを君に」

 エディは取り出したネックレスをヴィオレットにかけた。青色の小さな宝石が付いたネックレスだ。


「これは、ブレスレットとは違うお守りだから、肌身離さず持っていてほしい。魔法が掛かっているから」


 輸入品なのか何なのか、再び贈り物をくれるそうだ。前にくれたブレスレットは治療魔法がかけられていた。こちらにも何かあるのかと問うと、エディはゆっくりとネックレスに掛けられた魔法について説明をしてくれた。

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