缶コーヒー “不死” 医薬部外品
パンデミックで人類が激減し滅びかけた時代に、大手企業から発売された缶コーヒー、“不死”。
前世紀の規則をきっちりと守った「医薬部外品」表示をつけたこの缶コーヒーは、海外でも非常に売れている。
このネーミングに惹かれて買っている人間が多いらしい。
俺もそうだ。
オンライン勤務がまだ全盛だったころは必ず仕事前に、人口が激減しネット環境が保てなくなってからは、通勤まえに必ず一本。
もちろん「不死」というネーミングと「永遠に生きられるコーヒー」というキャッチフレーズを本気で信じているわけではない。
いまさらこの名に願をかけている人もいないだろう。
人類が種としてほぼ滅亡しかけた時代に、こんなネーミングをつける企業の開き直りに惚れこんだというか。
その製造している企業も、数年前から社員が減って、かなり縮小したと聞く。
ほとんどの飲み物が自販機の補充も人手不足でままならなくなり、「売切」表示のままになって何年も経つが、それでもこの缶コーヒー “不死” は、いつでも補充されていた。
社員が少ないながらも奔走して頑張っているのか。そんな風に想像し力づけられている。
無人の東京駅。
俺は今朝も缶コーヒー “不死” を自販機で買った。
「売切」の表示が出る。
最後の一本だったか、珍しい。
でもこの缶コーヒーだけは、すぐに社員が来て補充が。
そう思った俺の目の前で、「売切」表示が消えた。
もう補充されたということか。俺は驚いた。
中で何やらガタガタと音がしている。中身の入った缶が大量に転がるような音。
缶コーヒー自身が自分で補充してるとか。
“不死”とは、飲んだ人間ではなく──。
まさかな。
かすかに鳥肌を立てながらも、俺は改札口に向かった。
終