第9話 密猟の黒幕
エルフの警備隊に囲まれ、ルルに半ば恫喝された状況で、急にトッドが笑い始めた。
「は、甘いな、お前らは」
随分と威勢が良いが、この状況から逃げる気でいるのだろうか。
「なんだ、まだやるのか?」
ルルは面倒臭そうな顔をしているが、今はトッドの様子を見るつもりのようだ。
「つまり、お前は俺が黒幕の名前を言うまで俺を殺せないって訳だ」
確かに、今のトッドは証人でもある。犯罪者とはいえ、下手な扱いはできない。
「ならば何だというのだ?」
それはルルも分かっているのだろう。それでも今のトッド達はエルフの警備隊に囲まれている。
「殺せるなら、殺してみろ!」
そう叫んで、トッドが逃げ出した。
警備隊の何人かは弓を構えたが、ルルがそれを手で制した。殺すなという事だろう。
確かにトッドは腕や足に矢を受けていたが、逃げる事は出来たようだ。
とはいえ明らかに足を庇うような、不自然な走り方をしていた、あれでは長距離は移動できないだろう。
「やれやれ、まだ動けたか。もう少し痛めつけておくべきだったな」
そう言いながらも、ルルは慌てる様子は無い。
「おい、どうするんだ?」
トッドを追うにも、この場には負傷したトッドの部下が残っている。彼らは皆一様に矢を受けて地面に倒れている。
それはエルフ達の手加減の賜物なのか、瀕死の重傷を負っている者は居ないように見えるが、トッドほどの元気が残っている者は居なかったようだ。まずはこいつらをどうにかしないといけない。
「貴様たちは密猟者どもに縄をかけておけ」
ルルがエルフの警備隊に指示を出した。
「お前なら、トッドを死なない程度に射る事も可能だったんじゃないのか?」
一昨日のルルの弓の腕を見た俺は、そう思ってしまう。
「手負いだ、逃げられるはずが無い」
随分と自信のあるような言い方であるが、わざと逃がしたのだろうか。
「追いかけるのか?」
この場で取り押さえた方が早かったような気もするが。
「そうだな、捕まえるのにそう時間はかからないだろう。丁度良い。何故私が尾行に成功したのか、貴様に見せてやろう」
●
トッドは手負いであり血を流していた。追跡するのは簡単だった。
そして、この森の中で行動するのに慣れているルルが先導してくれた。
トッドの姿を視界に捉えるまでに、そう時間は掛からなかった。
「いたぞ!」
ルルは煽る様に、わざと声を上げる。
それに釣られたかのように、トッドがこちらを見て、そしてまた直ぐに逃げる。だが足を負傷している以上、あまり早くは走れないようだ。
「お前、わざとやってるよな?」
わざわざ大声を出したところで、今トッドを追っているのは俺とルルだけだ。警備隊はまだ来ていない。にも関わらず大声を出すと言うのはトッドにあえて聞かせているとしか思えない。
「あの密猟者が、大人しく本当の事を吐くと思うか?」
今の俺にとって、トッドを捕まえる事も大事だが、トッドから黒幕の名前を聞き出すという事も同じぐらい重要だった。
「難しいだろうな」
密猟者に限らず、犯罪者は嘘の証言をする事が多い。いくらルルが黒幕の名前を知っているとはいえ、仮に捕まえたところで本当の名前を言うかは分からない。
「なら私に任せろ」
そう言いながら、ルルは早歩きでトッドのいる方向に向かっていく。もう走る必要も無い。それだけでルルとトッドの距離はどんどん縮まっていく。
任せろと言われたため、俺はルルの少し斜め後ろから付いて行ったが、走ればすぐにロッドに追いついただろう。
あえて追いつかない速度で追跡して相手を疲れさせる魂胆なのだろうか。
トッドは度々こちらを振り返りながら逃げるが、やはり足を負傷しているからか不自然に足を引きずりながら、走ると言うよりは飛び跳ねるような動きで強引に前に進むがそれでもルルを振り切は出来ていない。
いつの間にか武器も捨てていたようで、今のトッドは完全に手ぶらだ。一体この後ルルはどうするつもりなのか。
そんな事を俺が考え始めた頃に、それは起った。
逃げるトッドから見て、ルルが丁度木の陰に隠れる位置に入った瞬間、忽然とルルの姿が消えた。もちろん、俺の位置からはルルの姿は直前まで見えていて、遮る障害物は無かったのだが、それでもルルの姿は消えた。
トッドも異変に気が付いたのか思わず足を止めた。そして一瞬俺の方を見た。一体何が起きたのか聞きたそうな顔だが、それは俺も同じだった。
そういえば、先ほどルルは一昨日どうやって尾行したのか見せると言った。これがその方法なのか。
つまりルルは姿を消す魔術を使える。それが答えか。
では一体ルルはどこに行ったのか。
そう思った直後に、再びルルが俺の視界に現れた。トッドの背後だ。
今トッドは片足を庇うようにして、怪我をしていない方の足に重心を乗せて立っていた。その膝に、ルルが後ろから蹴りを入れた。
実質片足で立っていたトッドはその衝撃に耐えきれずその場に崩れ落ちた。
天を仰ぐように地面に倒れ込んだトッドは、直ぐにルルと目が合いルルが後ろに回り込んでトッドを転倒させた事を理解したようだ。
「てめえ、今のどうやった?」
それでもトッドはルルが姿を消して回り込んだという事は理解できないようだ。
「貴様は知る必要の無い事だ。」
ルルも今の仕掛けを教えるつもりは無いようだ。
「調子に乗るなよ、必ず後悔させてやる」
トッドは悪態を付くが起き上がろうとしない。やはり体力が限界のようだ。
「だったら、さっさと起きたらどうだ? 上納金の支払期限は今日なのだろう? 期限を過ぎると制裁があるから、今日密猟をするしかなかったんだろう?」
それは恐らく一昨日ルルが聞いた話なのだろう。
「ほ、本当に聞いてやがったのか」
どうやらトッド本人もその話をした記憶があるらしい。
「今からもう一度仕切り直して、今日中に密猟ができると思うか?」
朝の密猟はエルフの警備隊に阻まれ、今のトッドは手ぶらだ。このまま逃げかえったところで上納金を払う事はできないだろう。
「てめえらのせいだろうが」
確かにルルが密猟を阻んだのは事実だが、トッドがそれに対して恨み言を言っても自業自得だ。
「そもそも、その足で人間の国まで戻れると思うのか?」
確かにトッドの移動速度はかなり遅かった。このまま俺たちが追わなくとも、無事に人間の国まで戻れるかは怪しい。
「てめえに心配されることじゃねえよ」
それがただの強がりである事は明白だが、トッドはまだ態度を変えようとしない。
「そうか、この森に何回も来ているなら知っていると思うが、野性の肉食動物も出る」
それを聞いたトッドの表情が若干強張った。今のトッドは武器を持っていない。さらに足頭を負傷している。エルフはもちろん、野生の動物に襲われたら抵抗する方法は無いだろう。
「それが何だって言うんだ」
ルルが何を言おうとしているかは、最後まで言わなくとも分かりそうなものだが、それでもトッドは反抗的な態度を取り続けている。
「大人しく白状して、犯罪者として人間の国に引き渡されるのと、この森で逃げ回って肉食動物の餌になるのはどっちがいい?」
やはり、そういう話になるのだろう。
「は、手ぶらで戻ったら制裁を受ける事になる。刑務所の中だって安全とは限らねえ。それなら動物の餌になった方がマシだ」
騎士団から密猟品を持ち出すという事は、騎士団の内部に裏切り者が居るという事。その名前を正直には居たら、当然その関係者から報復かあるだろう。逮捕後に不審な死を遂げた犯罪者は数知れない。
つまり、トッドからすれば刑務所に入るのは野生動物の餌食になるのは大して変わらないという事だ。
「知っているか? 肉食動物は普通相手を殺してからその肉を食うが、飢餓状態の場合は相手を殺さずにその肉を食う事がある」
ここで死んだ方が良いというトッドに対して、ルルは冷酷な事実を突きつける。
「は、嘘をいうな」
流石にトッドの表情が強張った。生きたまま食べられるという事態は想定していなかったようだ。
「言っただろう。私は既に答えを知っている。貴様がここで吐くか吐かないかは大した問題では無い。お前が遭遇する肉食動物が飢餓状態でないといいな?」
そう言ってルルはトッドから目線を外して、俺の方に歩いてきた。
「戻るぞ。こいつの部下が何か知っているかもしれん」
それはトッドではなく、俺に向かっての言葉だった。もうトッドと話すことは無いと言う事だろうか。
「放っておいていいのか?」
流石にこのままにするというのはどうなのだろうか。本当に野生動物の餌食になるかもしれない。
「放っておけ、あの足ではそう遠くには逃げられない」
それはそうだが、話す気が無いなら死んでも構わないという事だろうか。
「ま、待て」
このまま放置されるとは思っていなかったのか、トッドが声を上げる。
「貴様の部下が何も知らないようなら、また戻って話を聞いてやる。それまで好きに逃げ回ると良い」
ルルは首だけ軽く振り返りながらそう言うが、足を止めない。待つつもりはないようだ。俺を追い抜いて、先ほど密猟者達を捕らえた場所まで戻ろうとしている。
「わ、分かった!」
トッドが切羽詰まったような声を上げる。
ようやくルルはが足を止めて、トッドの方に向き直った。
「分かった? ふざけているのか? 次に、名前以外の言葉を言ったら交渉は決裂だ。これが最後の機会だぞ。黒幕の名前は?」
その時のルルは、まさに獲物を追い詰めた狩人の目をしていた。
●
エルフの森でトッドを捕まえた俺とルルは、そのまま騎士団長に報告しに王都に戻っていた。
団長室には団長とマリーがいた。二人同時にいるというのは好都合だ。
何か話をしていたのだろうか。
こちらに気が付と団長の方から俺達に声を掛けてきた。
「今日は遅かったな」
昨日は朝一に報告に来たのに、今日はもう日も暮れようとしている夕方だ。そう言いたくなるのも無理は無いだろう。
「はい、ですが成果はありました」
俺がそう言うと、団長は俺が今日一日何をしていたのか興味を示したように先を促す。
「具体的には?」
俺は今日起きたことを正直に口にする。
「密猟の実行犯を捕まえました」
それを聞いた騎士団長は驚きを隠せないようだった。
「トッドか?」
ここ最近活発に密猟を行っていたのだ。団長も名前ぐらいは把握しているだろう。
「はい。俺の相棒を殺したあのトッドです」
そして、俺と因縁のある相手でもある。
「今どこに?」
団長室まで来たのは俺とルルだけだ。普通犯人を団長室まで連れて来るような事はしないが、捕まえたという報告を聞いたからにはどこに居るのか気になるのだろう。
「まだエルフの森にいます。後からエルフの警備隊が護送してきますので、受け入れの準備をお願いします」
密猟者の一団は例外なく全員負傷している。移動させるには時間が掛かる。よって、護送はエルフの警備隊に任せて、俺とルルは先に戻る事にしたのだ。
「エルフの森?」
おれの言葉を聞いた団長が意外そうな顔をしている。そういえば、俺たちがエルフの森に行くという話は、団長にはしていなかった。
「はい。エルフの森で張り込んでいたら、網にかかりました」
あの状況を張り込みというかは微妙なところだが、嘘ではないだろう。
「つまり、密猟の現行犯で捕まえたというのか?」
流石は団長だ。話が早い。
「その通りです。私の目の前で密猟をしましたので」
殺してはいない。生かして捕まえた。
「何故一緒に連れてこない?」
そういえば、密猟者達を負傷させた事をまだ話していなかった。
「捕縛時に負傷しましたので、連れて来るには時間が掛かります。なのでいったんエルフの警備隊に預けました」
これも特に隠す必要は無い。俺はありのままを話した。
「生かしたまま捕らえたのだな」
負傷したという事を気にかけているのだろうか。
「はい、生きています」
あの傷であれば、移送中に死んだりはしないだろう。
「お前なら殺すかと思っていたが」
団長は俺とトッドの因縁を知っている。現場でトッドが抵抗するようであれば、俺が殺してしまうと考えていたのだろう。
「私怨で殺すような真似はしませんよ」
俺にも騎士としてのプライドがある。相手が犯罪者とはいえ、自らの復讐目的で相手を殺すような事はしない。
「他の者は?」
いくら俺でもトッドだけ生かして、その部下は殺すなんていう真似はしない。
「現場に居た者は全員捕らえました。それにしても、騎士団長も人が悪い」
それよりも、俺は団長に言いたい事があった。
「何の話だ?」
本当に俺が何を言っているのか分からないのだろうか。ならばハッキリと言ってしまおう。今はマリーも居るが、マリーは副団長だ。特に隠す事も無いだろう。
「エルフの領地内でも、騎士に逮捕権を与えたなら、私にも一言言って欲しかったですね」
俺の皮肉めいた言葉に応えたのはルルだった。
「あれは切り札となる可能性があった。だから使う時までは伏せておくようにとの約束だったのだ。騎士団長を責めてやるな」
知っていれば、もっと他に方法があったのかもしれない。ルルからすれば、俺を信用できるかどうか分からなかったため迂闊に話せなかったという意図があるのかもしれないが、それにしても団長から俺へは話しても良かったのではないかという思いはある。
「そうか、あれを使ったのか」
しかし、団長からすれば特に語る事はないようだ。団長という立場としては事前に話す事はできなかったという事だろうか。
「はい、トッドもあれは予想外だったみたいですね。だからこそ捕まえる事ができたという言い方も出来ますが」
トッドはルルがあの書類を見せた時にかなり動揺していた。エルフの領土内で捕まるとは思っていなかったのだろう。
「では、これで一件落着という事か?」
密猟の実行犯であるトッドは捕まえた。だがまだ終わりでない。
「いえ、残念な知らせがあります」
トッドはただの実行犯であり、裏で糸を引いている人物がいる。
「何だ?」
それをここで話さないといけない。
「トッドは騎士団の中に協力者がいると言っています。名前も吐きました」
とはいえ、一昨日の密猟品強奪未遂から、騎士団の中に協力者がいるであろう事は、皆が察している事であった。
それでも団長は、俺がトッドを捕まえたと言った時以上に、驚きの表情を露わにした。
「密猟者の言う事を鵜呑みにするのか?」
直後に、騎士団長は表情を曇らせた。騎士団の中に裏切り者が居ると信じたくないのだろう。それにトッドが口から出まかせを言っている可能性もある。
「ですが調べないわけにはいかないでしょう」
一昨日の密猟品強奪未遂は、何者かが手引きをして、保管庫にトッド達を招き入れないと不可能だ。
「誰の名前を言った?」
だから俺は裏切り者の名前を言わなければならない。
「マリーです」
俺はそう言いながらマリーを指さした。
「馬鹿な! 私が密猟を手引きしたというのか!?」
俺に名指しされたマリーが声を荒げた。
「トッドはそう証言している」
当然マリーは否定すると思っていたが、ここで引く訳にはいかない。
「そんなのは、口から出まかせに決まっている。証拠はあるのか?」
犯罪者が罪を逃れるために嘘を言うというのは良くある事だ。窃盗犯が盗品を友人からもらったと証言したり、殺人犯が相手が襲ってきたから仕方なく正当防衛したと証言したり、最初から金を返すつもりの無い詐欺師が、近いうちに金が入り返す予定だったの証言する。
だからこそ、騎士は犯罪者の証言を鵜呑みにしたりはしないが、それらの嘘は犯罪者本人が罪を逃れる場合につく嘘だ。
「嘘を付いて、お前に罪を着せる理由がトッドにあるのか?」
トッドが嘘の黒幕を名指しして何の得があるというのか。それに一昨日の密猟品の持ち出しは、騎士の協力無くしては不可能という点は変わらない。騎士団の中に裏切り者が居ないというのはあり得ない。
「まさか、その証言だけで私を逮捕するつもりか?」
犯罪者の証言は信憑性が低い。それは俺も同意する。だから俺もそれだけでマリーを逮捕するつもりはない。
「そこまではしない。まずは協力した証拠があるか調べさせてもらう」
それでも、証言があった以上は調べなければならない。
「何を調べるというんだ?」
こういう場合は、証言だけではなく、物的証拠があった方が確実だ。
「まずはマリーの家に、トッドとの関連づける証拠があるか調べさせてもらう」
証拠があるとしたら、マリーの家が一番怪しいだろう。
「何も出なかったらどうするつもりだ?」
容疑を掛けられたマリーは、不快感を露わにしている。
「別にどうもしない。お前の身の潔白が証明されるだけだ」
それはトッドの証言が嘘だったという事が明らかになるだけだ。もっとも家以外に証拠を隠しているという疑惑は捨てきれないが。
「お前、よくもそんな事が言えるな」
騎士であるならば、それぐらいは理解してもらえるのかと思ったが、どうやら気に入らないらしい。それとも動かぬ証拠が家に残っているから、今捜査されたら困るという事なのだろうか。
「疑惑がある以上調べるのが筋だろう」
犯人が責任逃れのために嘘の証言をする事はよくある。しかしそれでも、嘘である事を証明しなければならない。
「本気で私の家を調査するつもりか?」
俺がこんなことを冗談で言うと思ったのだろうか。
「いいからまずは、お前の家に案内しろ」
ここで押し問答をするつもりは無い。今はまずマリーの家に行く事が先決だ。
「団長、これを認めるのですか?」
マリーが団長に視線を移す。
「トッドから直接話を聞いてからでも遅くはないのではないか?」
団長もトッドの証言には懐疑的なようだ。犯罪者の言葉を鵜呑みにするつもりは無いという事だろう。
「その間に証拠を隠滅される危険があります。今直ぐ許可を下さい」
こういう捜査は時間との勝負だ。おれは先ほどよりも強い口調で、団長に嘆願した。
「分かった、許可する。行ってこい」
団長としてもそこまで言われれば拒否する事は出来なかったのだろう。ようやくマリーの家に対して捜査をする許可をくれた。
「団長!」
一方のマリーは抗議の声を上げる・
「トッドからの証言があった以上、調べるのが妥当だろう。本当に無実であれば下手に禍根を残すより、大人しく捜査を受け入れた方が良い」
それでも団長の意見が変わることは無かった。
「何もないなら調べられても困る事など無いだろう?」
俺はそう言いながら、マリーに外へでるように促す。
「本当に私を疑っているのか?」
反発しながらも、マリーは渋々団長室の外に向かって歩き出す。
「恨むなら、トッドを恨め」
●
実際の所、エルフの森から、王都に戻るまでの間に、俺はルルから事細かに今までの経緯を聞いていた。
具体的には、ローグ商会でルルがいなくなったのは、エルフの森で見せたのと同じ方法で姿を意図的に消しており、ローグ商会内を捜索しており、そこでローグ商会の商人が密猟の黒幕について話していたという事だ。それでも俺が本当に白が分からなかったために俺にはそれを黙っていたらしい。
さらに重要な話として、トッドのアジトには、黒幕とトッドのつながりを示す証拠があるらしい。
幸いにも、今日トッドの一味は捕らえていた。よって今トッドのアジトは誰も居ないはずだ。その上ルルは一昨日の尾行の結果トッドのアジトを知っている。
だから今、俺はトッドのアジトに来ている。
そして決定的な証拠を押さえ、さらなる決定的な証拠を待っている。
足音が近づいて来る。ルルからも、トッドからも黒幕の名前は聞いていた。物的証拠は先に抑えた。そこに記されている名前はルルとトッドの証言と同一の人物だった。だから今ここに来る人物は一人しかいない事は分かっている。
俺たちが灯りを消した部屋の中で待っているとは知らず、その人物が部屋の中に入り灯りを付けた。
目が合った。
俺がいるとは思っていないのだろう。当然だ。俺はその人に、マリーの家を捜査しに行くと言ったばかりだ。
そして、俺はその人物に声を掛けた。
「わざわざ現場に来るなんて珍しいですね。団長」
没案:マント紛失
ルルが途中でマントを紛失して大慌てになる展開を入れようとしていたが、入れるタイミングが無かったために没になった。