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潜入捜査官はエルフ  作者: 月ノ裏常夜
1/12

第1話 騎士の日常

新作です。今作もファンタジーですが、どうぞよろしくお願いいたします。


全12話で完結まで書き上げておりますので

毎日更新で投稿します。


あとがきには没になったネタを記載しますので

本編と合わせてお楽しみください。

 罠だった。

 その状況を一言で言い表すならば、そうなるのだろう。

 密告された情報によれば、そこには密猟者がいるという事だった。だから俺は相棒と二人で、その場所へ向かった。密猟者を捕らえるために。

 確かに密猟者は居たが、まるで俺たちが来ることを分かっていたかのような対応だった。

 建物に入った直後、高所から矢の雨が降り注いだ。最初から待伏せされていたとしか思えない。

 その場にいた騎士は俺と、俺の相棒の二人だけだった。

 俺は難を逃れたが相棒の体には無数の矢が突き刺さった。

「ロバート!」

 思わず俺は相棒の名を叫んだ。

 頭上を見ると、二射目を諦めたのか、射手たちが逃げていくのが見えた。

 その中に、明らかに異質な人物がいた。片目に眼帯をしている者。密猟の主犯格トッド。その特徴から何度か目にしたことはあるが、捜査の網を掻い潜る術に長けており、中々捕まえる事ができない犯罪者。

 遠ざかる足音を聞きながら、俺は矢を浴びて地面に倒れ込んだ相棒の元に駆け寄った。

「お前は、無事だろうな」

 俺の特技を知っていた相棒はそんなことを言った。

「しっかりしろ、すぐ助けを呼んでくる」

 動転している俺に対して、相棒の方は冷静だった。

「大した傷じゃない、いいから、聞け」

 俺から見ればどう見ても致命傷だったが、口は利けるようだ。

「なんだ?」

 口が利けるという事は意外と軽傷なのではないか。俺の頭の中にそんな楽観的な考えが頭に浮かんだ。後から考えればそれは誤りだった。

今俺が助けを呼びに行ってしまえば、相棒はそのまま息を引き取っていただろう。だから俺を呼び止めて死ぬ前に言っておきたいことがあった。そう考えるのが妥当だ。

「奴らは、俺とお前の両方を殺すつもりだった」

 そう言った相棒の口からは、血が溢れ出ていた。肺に血が入ったのかもしれない。

「ああ、そうだな」

 結果的に無傷だったが、俺にも矢は浴びせられた。

「だから、お前の特技を知らない奴が、これを仕組んだ。その特技、誰が知っている?」

 確かに俺の特技を知っていたら矢を射かけるなんて行為はしないだろう。

「お前だけだ」

 この特技は切り札になる可能性がある事は分かっていた。だから相棒にしか話していなかった。

「そうか、じゃあ、これを仕組んだ容疑者はたくさんいるな」

 そこまで言うと、相棒は全く動かなくなった。

 俺はその日心に決めた。必ず相棒の仇を取ると。


 ●


「お前を逮捕する」

 俺の足元には膝の高さ程度の壺がある。

その中にはアマダケというキノコがぎっしりと入っている。

「何故私が逮捕されなければならない」

 俺の言葉を聞いた商人は納得できないと言った表情をしている。

「この国では密猟品の販売は違法行為であり、お前が密猟品を販売したからだ」

 法を犯した者は逮捕される。それは当然の結果だ。

「騎士団はエルフの言いなりか!?」

 突如として商人は声を荒げた。

「密猟品を取り締まるのは法律に従っているだけだ」

 俺にしてみれば、商人の怒りは見当違いの意見だ。何故なら俺は法に従って違法行為を取り締まっているに過ぎない。それをエルフの言いなりと言われる筋合いはない。

「ふざけるな! エルフの圧力に屈して法改正をしたんだろうが!」

 エルフの森は自然が豊かだ。

 エルフの森から、動物、植物、鉱石等ありとあらゆるものが人間の手によって持ち出され、エルフからこの国に対して苦情が来ていた。

 協議の結果、エルフの森から無断で物を持ち出す行為は密猟という事になり法律で禁止されたのだ。

「密猟を正当化するつもりか?」

 犯罪者が良くやる行動だ。例え違法行為であっても、自分の行為は正当であり、間違っているのは法律だと主張する。

 生憎と俺は騎士であり、法律家でも政治家でもない。

「お前は人間よりも、エルフの味方をするつもりか?」

 これも最近よく聞くようになった。エルフの森からの密猟を取り締まる行為は、エルフの利益になる一方で、人間の利益にならない。

 つまり人間である騎士が、エルフの味方をするのは間違っているという理屈だ。

「騎士は犯罪者の味方じゃない」

 一体何故騎士が犯罪者の味方をしなければならないのか理解に苦しむ。

「森の資源を取って何が悪い!」

 こういう反応をするという事は、密猟品の売買が違法である事は知っていたのだろう。それでも儲かるからと言う理由で手を出した。

「善悪の話はしていない。違法行為だと言っている」

 こういう輩の話は取り合うだけ無駄だ。俺はそれを身に染みて知っている。

「証拠はあるのか?」

 追い詰められた者が良く言う台詞だ。目の前に密猟品があるというのに、それを証拠として認めないらしい。

「アマダケはエルフの森にしか自生しない。密猟してきた証拠だ」

 アマダケは天然の砂糖と呼ばれている。

 この国では数少ない甘味の一つであり、愛好者も多い。

 その栽培は難しく現在は自然界で自生している物を採取するのが一般的な入手方法である。

 しかし、最大の問題は、生息するアマダケを人間が取り尽くしてしまい、現在はエルフの森にしか残っていない。

 エルフの森はエルフが管理しており人間の出入りは基本的に禁止されている。そしてエルフからの苦情が度重なり、現在エルフの森からアマダケを持ち出す行為は密猟と見なされ違法行為扱いだ。

「そんな理由で俺たちを逮捕するのか? アマダケが自生してるのはエルフの森だけじゃない。持っているだけで逮捕なんておかしいだろう。」

 どうやらこのアマダケはエルフの森から密猟してきたのではないと言いたいようだ。

「おかしいも何も、この前法改正がされただろう」

 残念ながら、その言い訳は通らない。

 度重なる密猟に対して、エルフからも再三の抗議があり、採取地不明のアマダケの流通は、エルフの森からの密売品とみなし、取り扱っている業者は逮捕する事となった。アマダケを取り扱う真っ当な商人がこの法改正を知らないはずがない。

「だからといって俺がエルフの森に入ったという事にはならないだろう」

 確かに、エルフの森以外での採取は未だ合法とされている。

「ならどこで採取してきた?」

 しかし、その場合は産地の説明が必要になる。

「教える訳が無い。せっかく見つけたアマダケの自生地帯を他人に荒らされたくない」

 アマダケの密猟者は決まってこういう。エルフの森以外の場所で採取してきたが、その場所を教えたら他人に横取りされるから口外したくない。理屈としてはそれは正しいのだろう。

 だが実際問題、エルフの森以外のアマダケは取り尽くされている。エルフの森以外からアマダケが取れる等と言う事はあり得ない。ただのハッタリだ。

 そういうハッタリをする者が多いからこそ、産地不明のアマダケは密猟品扱いになったのだ。

「ふざけるな。この量のアマダケがエルフの森以外で取れると、本気で言っているのか?」

 これだけの量をエルフの森以外で採取できるはずが無い。

「ああそうだ」

 だが相手も一歩も引かない。あくまで密猟品ではないと主張するつもりのようだ。

「だったらその場所を言え。そうすれば無罪放免だ」

 無駄だと分かっているが、最後通告として再度同じ質問をする。

「教える訳が無いと言っただろう」

 結果は同じだった。このまま押し問答を続けていても仕方がない。

「そうか、なら仕方がない。逮捕する」

 教えないという事は産地不明になる。つまりは密猟品扱いだ。

「横暴だ!」

 俺の判断に納得がいかないのか、商人は声を荒げる。

「横暴? 法律に従っただけだ。」

 俺の行っている行為に、違法な事は何もない。密猟品を販売している商人を見つけ、摘発した。それだけの事だ。横暴と言われる筋合いはない。

「か、金か?」

 俺の態度が変わらないのが分かったのか、急に商人の口調が変わった。

「ふざけるな」

 俺を金で買収しようと言うのか。とはいえ、そういった取引に応じる騎士も多いらしい。だが俺は死んだ相棒の為にも、そんな事はしない。

「やってるのは、俺だけじゃない」

 良く聞く言い訳だ。周りもやっているのに自分だけ捕まえるのは不公平。

「ほう、他にも仲間が居るのか。名前を言ってみろ」

 そんな事を言うのであれば、ぜひともその周りが誰なのか詳細を聞きたいところだ。

「教えると思うのか?」

 そうだろう。仲間を売った事がバレれば後で報復される。それが犯罪者達の流儀だ。そう簡単に口を割る事は無い。

「では大人しく一人で牢屋に入るんだな」

 今更仲間の名前を言ったところで見逃すつもりもないが、教えないというならば、このまま連行するだけだ。

「税金で生きている分際で」

 そう言いながら商人が服の中に手を入れる。中に護身用のナイフでも仕込んでいたのだろう。

「やめろ」

 俺は素早く商人との間合いを詰めて剣を抜き、商人の首筋に当てた。

 戦闘訓練を受けた騎士に、一介の商人が正面から挑んで勝てる道理はない。

 刃物を首筋に当てられた経験は無かったのだろうか。商人の服の中から、ナイフが床に落ちて音を立てた。

「わ、分かった」

 観念したのか商人は大人しくなった。


 ●


 逮捕者が出たら、騎士団本部に連行する必要がある。

 他の誰かに任せるという手もあるが、そうすると手柄を横取りされる可能性もある。信頼でいる仲間がいるならば、任せるという手もあるが俺にはそういう仲間は居ない。

 相棒と呼べる存在。そういう相手がいると少しは仕事が楽になるのかもしれない。以前は居たが、居なくなってしまった。

 そして密猟者狩りというのは恨みを買う事も多い。

 なぜなら密猟される物というのは当然ながら需要がある。それを取り締まるという事は、密猟物の買い手からも恨まれる事になる。

 一般的には密猟とは犯罪であり、悪い事だとされている。その一方で密猟はいつまで経っても無くならない。人間の感情はそこまで単純ではない。

 犯罪だと分かっていても密猟に手を出す者もいるし、密猟された商品だと知った上で購入される者もいる。

 犯罪を取り締まる事は正しい事。それは誰も否定しないだろうが、犯罪を取り締まる事で不利益を被る層も一定数存在する。

 俺は先ほど捕らえた密売人を勾留所に引き渡す。

 現場にあった密猟品は俺が呼んだ応援の騎士が証拠品として回収している。処罰は避けられないだろう。

 逮捕者を勾留所に移送したついでに、団長に報告をしに行った。

 すると、団長室の中から何やら声が聞こえる。聞きなれない声。女の声だ。どうやら口調からは怒っているように聞こえる。

 女がいるのは珍しい事ではない。

 団長がわざわざ一市民のクレームを取り合うとは思えない。一体何を騒いでいるというのだろうか。密猟者狩りに対してクレームを入れに来る市民も度々いる。密猟者を取り締まればその分密猟物の流通量は減り、正規品の価格も上がる。

 だからといって騎士団に密猟者狩りを止めろというのは筋違いの意見だと思っているが、そういう意見を言う者は密猟者との繋がりがある事が多い。つまり情報を引き出せれば今後の捜査に役立つことになる。

 そう思って俺は先ほどの報告も兼ねて、団長と話している相手に探りを入れに行く事にした。

 それが、全ての始まりだった。

没案:タイトル

初期タイトルは「奴隷を買ったら奴隷にされました」であり、エディがルルを買うところから始まる予定だった。

しかし、エディが奴隷を買うに至る経緯がうまく思い浮かばなかったため、設定変更を重ねた結果今の設定となり、ストーリーはほぼ全て書き直しとなった。オチだけは一部そのままになった。

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