ヤンの章 ⑰ アゼリアの花に想いを寄せて
オリバーさんが僕の所へ来てから数日が経過していた―。
「おはよう、ヤン」
「おはよう、メロディ」
今朝もメロディは教会まで僕を迎えに来ていた。
「それじゃ行こうか?」
「ええ。行きましょう」
そして2人で一緒に学校へ行く。
「今日も良いお天気ね〜」
メロディが空を見上げた。
「うん、そうだね」
そんなメロディの横顔を見ながら僕は思った。
…メロディは何を考えているのだろう?
オリバーさんが訪ねてきた翌日、メロディはいつものように教会の前で待っていた。そして一切、昨日の事には触れずにピアノの話や新しく町にオープンしたカフェの話をした。ひょっとして、メロディは僕の養子の話に触れたくないのかもしれない…。
だから僕からも何も話をしないまま…今日に至っている。
「ねぇねぇ、今日の私…いつもと違うと思わない?」
不意にメロディが尋ねてきた。
「え?いつもと…?」
僕は改めてメロディをじっと見た。
「あ!」
「何?!分かったの?!」
メロディが嬉しそうに声をあげた。
「ひょっとして髪留め変えた?」
「え?え、ええ…変えたけど…ってそうじゃなくって!ほら、いつもより…少し何と言うか…雰囲気が違う…とか?」
「雰囲気…?」
改めてじっとメロディを見つめると、何故か顔を赤らめて視線をそらされてしまった。
「…ごめん。僕には同じに…見えてしまうんだけど…?」
「…そう」
どこか落胆したようにメロディはため息をついた。
「ごめんね…分からないから教えてもらえないかな?」
「仕方ないわね…教えてあげる」
何故か嬉しそうにメロディは言う。
「実はね…昨日、クルトに告白されちゃったの!」
「クルト…え?クラスメイトの?」
「そうよ、他に誰がいるのよ」
「う、うん…クルトか…そうか、彼が…」
クルトはここ『リンデン』の地主の息子でお金持ちだった。
「クルトが言ったの。卒業まで後2ヶ月しか無いから、どうしても気持ちを打ち明けたかったんですって。入学した時から私の事好きだったって言うのよ。でも遠慮して告白できなかったんですって」
「遠慮?誰に」
「え?」
不意にメロディが足を止めた。
「…メロディ?どうしたの?立ち止まったりして…」
「ねぇ…クルトは誰に遠慮しているのか…分からないの?」
「う、うん…」
「ヤン。貴方によ」
「え?僕に?何故?」
メロディの言葉に驚いた。
「…それを…私に聞くわけ…?」
メロディは肩を震わせて僕を見ている。
「聞いたら…駄目だったのかな?ごめん…。謝るよ」
「謝らないでよっ!何よ…どうせヤンは未だに亡くなったアゼリア様の事が忘れられないんでしょう?!」
「うん。だってアゼリア様は僕にとって大切な方だから…」
「ヤンのバカッ!もう知らないっ!いいわよっ!私…クルトと付き合うからっ!」
「え?メロディ?」
メロディは叫ぶと、走り去ってしまった―。