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ヤンの章 ⑭ アゼリアの花に想いを寄せて

  翌日―



 「おはよう、ヤン」


教会を出ると、いつものようにメロディがアゼリアの植えてある垣根の側で僕を待っていた。


「おはよう、メロディ」


そして2人で歩いて高校へ向かう。

僕とメロディが通う高校はこの教会を通り過ぎて10分程先にある。毎朝8時20分にこの教会の前で待ち合わせをして一緒に登校する。何となくそれが入学当時からの決まりになっていた。そして決めたのは勿論メロディからだった。


「ねぇ、ヤン」


並んで歩き始めるとすぐにメロディが話しかけてきた。


「何?」


「昨日…何か変わった事無かった?」


「変わった事…?」


「そう。何かあったんじゃないの?」


何故かメロディが期待に満ちた目で僕を見つめてくる。


「う〜ん…。特に無いけどなぁ…」


本当はベンジャミン先生がやってきて僕に養子縁組の話をしてきたけれどもメロディに話すつもりはなかった。そんな話をすれば絶対にそうするべきだと言って、僕に断りもなくベンジャミン先生に僕が養子になりたがっていると言い出し兼ねないから。


「え?そ、そうなの…?本当に何も無いの…?」


するとメロディが何故か落胆した様子で僕を見る。


「う、うん。何も無いよ」


「ふ〜ん…そう…」


それきりメロディは酷く落ち込んだ様子になってしまい、僕が話しかけても覇気のない返事しか返って来なかった―。




****


「おはよう」


「おはよー」


僕とメロディは同じクラスだった。2人でいつものように教室に入ると、友人のネロと彼のガールフレンドのリタが声を掛けてきた。


「相変わらず仲がいいな」

「フフフ、私達と一緒ね」


「うん。僕とメロディは幼馴染だから」


「そうね…」


メロディはそれだけ言うと、さっさと自分の席に行ってしまった。普段と違う様子に気付いた2人は尋ねてきた。


「どうしたんだ?喧嘩でもしたのか?」

「何だかメロディ、元気ないけど?」


「うん…それが僕にもさっぱり分からないんだ。迎えに来たときはいつもと変わらない様子だったのに」


「何か怒らせることしたんじゃないのか?」


「え?そんな…」


ネロの言葉に戸惑っていると、リタが言った。


「ヤンがメロディを怒らせるような事言うはずないでしょう?ネロじゃあるまいし」


「あ、何だよ。その言い方」


そしてネロとリタはその後2人で言い合いになってしまった。けれど2人は仲の良いカップルだ。放っておいてもいつの間にか仲直りしている。

僕はそんな2人から離れると自分の席に着席し、僕から少し離れた席に座ってクラスメイトの女子と話しているメロディの様子をそっと伺った。


そこにはいつもと変わらないメロディの姿があった―。




****


 放課後―


ホームルームが終わり、帰り支度をしているとメロディが声を掛けてきた。


「ヤン」


「あ、メロディ。それじゃ一緒に帰ろうか?」


立ち上がりかけた時、メロディが言った。


「ごめんなさい、今日はこの後少し寄る所があるから…一緒に帰れないの」


「え?そうなんだ」


珍しい事もあるものだ。登下校は必ずいつも一緒だったのに。


「うん、それじゃまた明日ね」


「うん、また明日」


メロディはそれだけ言うと教室を飛び出して行った。


「…随分急ぎの用事があるんだな…」


立ち上がるとカバンを持って、僕も教室を後にした。



この時の僕はまだ知らなかった。


メロディが何故先に帰ったのかを―。

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