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ヤンの章 ⑪ アゼリアの花に想いを寄せて

 僕達は全員食堂に集まっていた。


最初に口火を切ったのはシスターアンジュだった。


「ヤン、ベンジャミンさんとの話が聞こえてしまったのだけど…養子にならないか誘われたのよね?」


「はい…」


頷くとディータが尋ねてきた。


「やっぱり本当の話だったのかよっ?!」


「ヤン…ここを出て行ってしまうのか?」


「ヨナス…そ、それはまだ分からないよ…」


すると…。


「ど、どうしてよ…」


突然マリーがガタンと席を立った。その様子に僕達は驚いた。


「どうしたの?マリー」


シスターアンジュが声を掛けた。しかし、マリーはそれには答えずに肩を震わせながら言った。


「何でなの…?何でヤンなのよ…」


うつむくマリーの目から涙が落ちて、テーブルを濡らす。


「マリー…ひょっとして…泣いているの?」


僕は驚いて声を掛けた。


すると―。


「ええ、そうよ!泣いてるわよ!でも、泣いちゃ駄目なのっ?!」


マリーは顔を上げると僕を睨みつけてきた。


「何でなのよ…ヤンは男の人で…もうすぐ18歳で、後2ヶ月でこの教会を出ていくのに…なのに…どうしてよ…私はまだ12歳で女の子なのに…」


「マリー?お前、何言ってるんだよ?」


ディータが尋ねた。勿論僕を含め、その場にいる全員が首を傾げている。


「どうして養子にしたいって言われたのがヤンなのよ!何故私じゃないのよっ!」


マリーは顔を真っ赤にさせ、大粒の涙をボロボロとこぼすとそのまま食堂を飛び出してしまった。


「マリー!待てよっ!」


ディータが慌てて立ち上がり、マリーの後を追いかけて行った。僕も2人の後を追いかけようと立ち上がった時―。



「待ちなさいっ!ヤン」


シスターアンジュが僕を引き止めた。


「シスターアンジュ…」


「ヤン…とりあえずマリーのことはディータに任せましょう。あの子も…もう16歳なのだから兄として…話をしてくれるはずよ。それよりもヤンは今ここで話し合う事があるでしょう?」


シスターアンジュはじっと僕の目を見つめている。


「分かりました…」


椅子を引いて座り直すと早速シスターアンジュが言った。


「ヤン。まずは…マリーの事だけど…あの子はずっと養子にして貰えることを願っていたのよ。ここの教会の子たちが誰かの養子に貰われても自分よりも小さい子たちが貰われていっていたから諦めていたみたい。でもその度に1人で泣いていたわ。誰にも泣き顔を見られないように…。だから私も気づかないふりをしていたのよ」


「そうだったのですか…?」


知らなかった…。マリーが人知れず養子に選ばれなかった事で泣いていたなんて…。ヨナスも神妙な顔で話を聞いているが、カレンはまだ何も分からないのだろう。キョトンとした顔をしている。


「だけど今回養子縁組の話が持ち上がったのがヤン…貴方だったからマリーはかなりショックを受けたのでしょうね」


「で、ですが…僕の場合は…」


「ええ、そうよね。他の子供達と違って、ヤンの場合は違うわ。貴方は養子と言っても…ベンジャミンさんは後継者として貴方を育てたいと思っているようだったもの。だけど、マリーにはまだその事は理解出来ていないと思うのよ…」


そしてシスターアンジュはため息をついた―。




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