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マルセルの章 ⑪ 君に伝えたかった言葉

「た、確かに…年端もいかない少女が…大の大人に初対面でそんな台詞を言われたら…気持ちは分からないでも…ないですね…」


別にイングリット嬢を擁護するつもりでは無かったが、自分の感じたことを正直に述べた。


「ええ、その通りです。ようやく少しは私の気持ちが理解出来たようですね?」


「し、しかし…貴女は年齢差ばかり上げていますが…何かしら2人の間に共通点を見出すことはしようとしなかったのですか?ブライアンと2人で話し合ったり…」


するとイングリット嬢は俺に言った。


「先程…申し上げましたよね?私が何故ブライアンに嫌悪感しか感じなくなったのか…」


「え?ええ」


「子供の頃に植え付けられた嫌悪感がずっとトラウマとして引きづられているのですよ?マルセル様はご存知ないでしょうけど…正直、ブライアンと2人で会っていると吐き気が込み上げてくるのです。会った翌日は具合が悪くなって寝込むほどなのですよ?父も母も私のそんな状況を知りながら…どんなに婚約解消をしたいと言っても聞く耳すら持ってくれない…まさに地獄です。だから私は家にいたくないので外で様々な社会活動をしているのです。そして私が心置きなく相談できた相手がベンジャミンだったのです。私が彼に惹かれた理由…お分かりになりますよね?」


「…」


俺にはこれ以上言葉が見つからなかった。


「マルセル様。何故私が貴女にここまでの事を話したのか…もうお分かりになりましたよね?私がブライアンに対してどのように思っているのか、はっきりあの方に伝えて頂きたいのです。…もうベンジャミンには…頼れませんから…」


「ベンジャミン…そうだ。貴女はブライアンとの婚約を真剣に考える為に彼と別れたのですよね?」


「それは語解です。私はベンジャミンの事を一方的に好いていただけで、恋仲だったことはありません。ですが…私はもうベンジャミンを思うのはやめにすることにしたのです。言っておきますがブライアンが原因ではありませんよ?」


「では何が原因なのですか?」


「それは彼が…弁護士という立場にありながら私に嘘をついていたことです。いいえ、それだけではありません。彼は…卑怯者です…」


その言葉はどこか寂しげだった。


「嘘をついていた…?それに卑怯者とは一体どういうことですか?」


「はい。アゼリア様と知り合って…私は初めて彼が本当は平民出身だという事を知りました。彼は…生まれながらの貴族では無かったのですね…」


「ええ、そうですね。彼はヨハン先生や…新聞記者のオリバーと同じ教会の出身ですから。もしかして彼が本当の貴族ではなかったから…ですか?思うのをやめにしたのは…?」


「いいえ、そんな事ではありません。あまり私を見くびらないで頂けますか?」


イングリット嬢は強い口調でピシャリという。


「なら何が原因です?」


「ですから彼が私に自分は初めから貴族の生まれだと嘘をついたことが要因です。それどころではありません。オリバーさんに聞いたのですが…ベンジャミンが貴族の家に養子に貰われていった後で彼は2人に言ったそうですね?自分が孤児で教会出身だと言うことを世間に知られたくないから、こちらから連絡するまでは関わってこないでくれと。私は…アゼリア様とお会いすることになるまではその事実を知らなかったのですから。私は隠し事一つせずに、ベンジャミンに自分の全てを話したののに…彼は私に嘘を…」


「それで…ベンジャミンに恋するのはやめにしたのですね…?」


「ええ、そうです。」


「なるほど…」


俺はすっかり生ぬるくなったコーヒーを口に入れた。


「私の話は以上です。それで?マルセル様のお話したい事とは一体何でしょう?」


「いえ…もう結構です」


イングリット嬢の話を聞かされ、俺はどうでも良くなってしまった。ブライアンから何故彼女が俺とアゼリアの話を持ち出したのか…理由は既に彼から聞いていたからだでもあるが。


「そうですか…?」


イングリット嬢は首を傾げたが、それ以上追求することは無かった。そして窓の外を眺めると言った。


「あら?雨…いつの間にかやんでいますね?」


「え…?」


見ると、確かにあれ程激しく降っていた雨はいつの間にかやみ、外は青空が広がっている。


「話も終わった事ですし…もう出ましょうか?」


「ええ…そうですね」



そして俺とイングリット嬢は喫茶店を出た―。



「マルセル様、ご自宅までお送りしましょうか?」


イングリット嬢が尋ねてきた。


「いいえ、雨もやんだことですし…大丈夫です」


「そうですか…それではブライアンに先程の件、どうぞよろしくお伝え下さい」


彼女は頭を下げてきた。


「ええ、分かりました」


笑みを浮かべて返事をした。


「本当ですか?ありがとうございます。本当に感謝致します」


イングリット嬢は嬉しそうに言うと、何度も俺に頭を下げて馬車に乗りみ、走り去っていった。


「…」


俺はその後姿を見届けると、ブライアンに電話をかける為、近くに公衆電話が無いか周囲を見渡すと幸い目と鼻の先に電話ボックスが見つかった。


「…あった」


急ぎ足で電話ボックスに入ると、受話器を持ってブライアンの番号をダイヤルした。


…悪いな。イングリット嬢…。おれはブライアンを尊敬しているので彼の味方をさせて貰う。


俺が間に入って、ブライアンとイングリット嬢の関係を改善させるのだ―。

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