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マルセルの章 ⑨ 君に伝えたかった言葉

「さぁ、俺にはさっぱり分りませんね。何故年齢差を気にされるのか…」


肩をすくめながら言うと、イングリット嬢の視線がますます厳しくなる。


「ならお伺い致しますが…マルセル様ならどうです?親子ほど…それこそ20歳以上年齢が離れた年上の女性を婚約者にされてしまったなら」


少しだけ考えると答えた。


「…そうですね。俺は子供が好きなので、自分の子供は欲しいと思っています。俺は今24歳ですから、仮に相手の女性が44歳…子供を産めなければ…断るでしょうね」


いや、それ以前に男の俺にはそんなに年上の女性との縁談話すら持ち込まれないだろう。


「ほら、御覧なさい」


「え?」


俺の言葉にイングリット嬢が勝ち誇ったかのような笑みを浮かべた。


「マルセル様だって同じではありませんか。結局、相手の方は若くなければ駄目と言っているようなものです。子供が欲しいから?そんなのは言い訳です。月の物があれば妊娠、出産は可能なのですから」


「な…っ?!」


あまりの物の云いように唖然としてしまった。本当に彼女は独身の貴族令嬢なのだろうか?」


すると俺の言いたい事が伝わったのだろうか?イングリット嬢は口を開いた。


「何ですか?その目は。まるで未婚女性が独身男性の前で何を言っているのだ?と言わんばかりのお顔をされていますよ?」


「…」


確かにその通りなので、思わず黙っているとイングリット嬢は続けた。


「マルセル様は子供の事を引き合いにしていますが、結局結婚相手は自分の年齢に見合う若い女性で無ければ受け入れられないと言ってるのも同然なのです。不公平ではありませんか?何故女性だけ我慢を強いられなければならないのです?」


「我慢て…それは余りの言い方ではありませんか?何故そこまでブライアンを拒絶するのですか?たかだか年齢の事位で…」


するとイングリット嬢は反論してきた。


「たかだか年齢の事?それが何を表すのかお分かりなのですか?」


「…」


思わず言葉につまるとイングリット嬢は言った。


「…年齢が違い過ぎると言う事は…何もかも合わないと言う事なのですよ?」


「え?」


「好きな音楽の種類も…愛読書も…食べ物や飲み物の趣味だって…何から何まで合わないんですっ!それが何を意味するかご存じですか?話も続かないし、気まずい雰囲気になるだけなのですから。私がブライアンと会う日が…どれだけ辛いかマルセル様にはお分かりにならないのでしょうね?」


イングリット嬢の言いたい事は何となく理解出来る。出来るのだが…やはり賛同は出来なかった。


「趣味が合わないのであれば、お互いの共通の趣味を話し合えば良いでしょう?会話をすれば…おのずと共通点が見つけられるはずですから」


しかし、自分で言っておきながら説得力に全く欠ける事は自覚していた。何故なら俺はアゼリアと話し合う機会すら設ける事が出来なかったのだから。


「そう言うマルセル様はどうですの?アゼリア様と…お話すらしておりませんよね?」


「う…」


だ、駄目だ…俺ではイングリット嬢を説得する事すらできないじゃないか…。


「それで…ですか?」


「え…?」


「それで貴女は…ブライアンと言う婚約者がいながら、あの若い弁護士と交際していたというわけですか?」


「そ、それは…!」


雨はいつの間にか、窓を叩きつける程に…酷く降り始めていた―。





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