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マルセルの章 ⑤ 君に伝えたかった言葉

 4月―


 その知らせは突然だった。


いつもと同じ様に仕事帰りにアルコールを飲んで帰宅すると、珍しい事に母がエントランスまで出迎えてきたのだ。


「お帰り、マルセル」


こわばった表情で出迎える母に違和感を感じ、尋ねた。


「ただいま帰りました。…どうしたのですか?もう23時を回っているというのに…まだ起きていらしたのですか?それに何やら顔色が悪いようですよ?」


「マルセル…聞いてちょうだい。実は…昨日アゼリアのお母様が昨夜亡くなったそうなのよ」


母が声を震わせながら言った。


「え?!ほ、本当なのですか?その話は!」


あまりに突然の話で、にわかには信じられなかった。


「ええ本当よ。私も耳を疑ったわ。ずっと体調を崩して寝たきりだと言う話は聞いていたけれども…昨夜急激に悪化して…そのまま息を引き取ってしまったそうなの…」


「そ、そんな…」


「やっぱり…アゼリアを亡くしたショックで心労がたたったのかもしれないわ…」


「そう…ですね…」


それは当然の話かもしれない。赤子の時に生き別れ…とっくに死んでしまったと諦めていた娘が20年ぶりに見つかったのに、病に冒されて既に余命半年の命だった。ようやく一緒に暮らせるようになった矢先にアゼリアは亡くなってしまったのだ。ただでさえ普通の人間だって絶えがたい状況なのに、ましてやエテルノ侯爵夫人は身体が弱かったのだ。それ故、寿命を縮めてしまったのかもしれない。


「まさか、アゼリアのお葬式でお会いするのが最後になるとは思いもしなかったわ…」


「…ええ…」


俺はそれ以上の言葉が何も見つからなかった。


「明日、アゼリアと同じ教会でお葬式をあげる事が決まったらしいわ。葬儀は親しい人達のみで行われるそうよ…」


「そうですか…俺も参加して良いでしょうか?明日は仕事も休みですし…」


「ええ、私達は明日お葬式に参加するわ。10時から葬儀が始まるそうだから…今夜は早く休んだほうがいいわ。既に喪服の準備は出来ているから」


「…ありがとうございます。では一度部屋に戻ります」


母に頭を下げ、重い足取りで自室へと向かった―。




****



 翌朝9時半―



俺と母は馬車で教会へ向かっていた。


「…エテルノ侯爵夫人は、心不全で亡くなられたそうよ」


喪服を着た母が馬車の中でポツリと言った。


「心不全…ですか…」


「ええ。まだ44歳という若さだったのに…本当にお気の毒だわ…」


「そうですね…」


父は学会で海外に行っていた為にエテルノ侯爵夫人の葬儀に参加することは叶わなかった。


「…今にも雨が降り出しそうな天気ね…」


母は馬車の中から空を見上げて、ため息をついた。そう、今日の空模様は…アゼリアの葬儀の時と同じ、空模様だった―。



****


ゴーン

ゴーン

ゴーン


馬車から下りると、教会の鐘の音が響き渡っていた。教会の前には既にエテルノ侯爵にカイ、スターリング侯爵、そして…。


「あ…」


そこには、イングリット嬢の姿もあった。


「マルセル様…」


イングリット嬢も俺の姿に気付いたのか、こちらを振り向く。



「「…」」


鐘の鳴り響く教会の前で見つめあう、俺とイングリット嬢。



ポツ…


ポツ…



鐘の鳴り響く空の下。


いつしか、小粒の雨が振り始めてきていた―。






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