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マルセルの章 ③ 君に伝えたかった言葉

「マルセル、君はお酒を飲むのが好きなんだろう?今夜付き合って貰えないか?」


仕事が終わり、退社しようとした時に上司のブライアンが声を掛けてきた。…別に俺は酒が好きというわけでは無かった。ただ、アゼリアに何もしてやれなかった自分が不甲斐なく、酒に逃げているだけだった。しかし、何処かで俺が毎晩飲み歩いている話が社内で伝わったのだろう。


「ええ。いいですよ」


1人だと、つい深酒になってしまう。たまには誰かと一緒に飲むのも良いかもしれない。


「そうか、良かった。それじゃ一緒に行こうか?」


ブライアンは笑みを浮かべて言った。その笑顔は若々しく…とても42歳の男性には見えなかった―。




****


 連れられて来たのは会社の近くにあるバーだった。2人でカウンター席に座り、それぞれウィスキーを注文した。



「すまなかったな。突然誘ってしまって…」


2人の前にウィスキーが置かれたところでブライアンが口を開いた。


「いいえ、ですがこうして俺を誘ってきた…という事は何か話があるのですよね?」


「ああ。そうなんだ…実は婚約者のイングリットの事について相談に乗ってもらいたくて…とりあえず飲もうか?」


「ええ、そうですね…」


突然出てきた名前にドキリとした。俺は一度もブライアンにイングリット嬢の話をしたことは無かったのに。


「「乾杯」」


2人でグラスを合わせ、俺とブライアンはウィスキーに口をつけ…尋ねた。


「それで婚約者の方についてという話でしたが…」


「君は確か彼女と顔見知りなんだろう?」


「え、ええ…何故その事を?もしかすると…イングリット嬢が話されたのですか?」


「ああ、そうなんだよ。俺の両親と彼女の両親は…何としても俺たちを結婚させたいと思っているんだ。その為に半ば強制的に月に2度は必ず会うように言われているんだ。…俺としてはもう少し頻繁に彼女に会いたいのだが…イングリットの方が拒絶していてね。…現に彼女は好きな男性がいたようなんだが…最近どうやら終わりになったらしい」


ブライアンはウィスキーを飲みながら静かに語る。


「え…?」


俺は何と返事をすれば良いか分からなかった。イングリット嬢がベンジャミンと言う男に好意を寄せているのは知っていたが、その事をブライアンも気付いていたなんて思いもしていなかった。それに第一、俺はイングリット嬢と知り合っていた事を伏せていたのだから。


「驚いているか?俺が彼女に別に好きな男がいることを知っていた事に。…君はその事を知っていたんだろう?だから俺にイングリットと知り合いだった事を伏せていたのだろう?」


人の良いブライアンは俺がイングリット嬢と知り合いだったことを伏せている理由をその様に取っていたのだろうか…?だが、俺が話せなかったのはそんな理由じゃない。ただ、単にブライアンが俺とイングリット嬢の事を勘違いされては面倒だと思ったから黙っていただけなのに…。


「イングリットが恋人と別れたということを知って…ようやく俺との結婚を前向きに考えてくれるようになったのだと密かに喜んでいたけれど…やはり俺とは婚約解消したいとこの間久々に会った時に言われてしまってね…」


ブライアンは寂しげに言う。


「そう…だったのですか…」


それ以上の言葉が出てこなかった。


「だが…俺は情けないことに、イングリットの事が好きで…どうしても考え直してもらえないかと頼んだんだ。すると彼女が君のことを話しだしたんだよ」


「え?一体…それは何故ですか?」


「君は婚約者がいただろう?だけど、婚約破棄をし…身を引いたという話を聞かされたんだ。しかも、つい最近元婚約者は病気で亡くなってしまったという事もね」


「…!」


俺はその言葉に息を飲んだ―。




 

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