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アゼリア&カイの章 ⑫ また…会えたね(カイside)

 翌朝―


ホテルのレストランで朝食を食べ終えるとラルフが早速僕に言った。


「カイ。それじゃ…悪いな。俺、出掛けてくるよ」


「うん、いいよ。それに僕に悪いなんて思う必要は無いからね?元々は僕がラルフを今回の旅行につきあわせてしまっているようなものなんだからさ」


「何言ってるんだよ。俺が勝手についてきてるんじゃないか。…よし、それじゃ行ってくるよ」


ラルフは席を立つと、急ぎ足でレストランを出て行った。


きっとまず最初はホテルの中を見学するのだろう。何しろここは元々はマルセルが住んでいた邸宅なのだから。この建物も『リンデン』の重要文化財の指定を受けているし、ホテルと言っても、所々は博物館として見学出来るようにもなっている。


「今夜ラルフと会ったら、このホテルの感想を尋ねてみようかな」


そして残りのコーヒーを飲み終えると、僕は席を立った―。




****


 ホテルを出ると、僕は最初に花屋へ向かった。これから久しぶりにアゼリアのお墓に行くのだからお供物の花ぐらい持っていかないと。

きっと今も変わらず『アゼリアの丘』には美しいアゼリアの花が咲き乱れているだろう。


あの丘の上で眠るように静かに息を引き取ったアゼリア…髪にはヤンがさしてあげた一輪のバラの花が揺れていた。その口元には笑みを浮かべながら…。


「やっぱり、持っていくのはバラの花束かな」



大通りに面した歩道の両サイドには様々な店が立ち並び、多くの人々が行き交いしている。そんな人々の間を縫うように歩き、花屋へ到着した。



「いらっしゃいませ」


店内へ入るとすぐに男性店員が声を掛けてきた。


「大輪のバラの花束を作って貰えますか?」


僕は迷う事無く、花束を注文した―。




****


「…」


大輪のバラの花束を抱え、僕はタクシーに乗っていた。


「お客様」


不意にタクシー運転手が声を掛けてきた。


「何ですか?」


「ひょっとしてこれから大切な用があるんじゃありませんか?」


タクシー運転手は楽し気に声を掛けてくる


「どうしてそう思ったのですか?」


「いえ、あまりにも見事なバラの花束を持ってらっしゃるし、これから『アゼリアの丘』に行かれるんですよね?」


「はい、そうです」


「あそこはお墓でありながら、とても美しい場所と丘の上から見える景色が最高ですからね。しかも永遠の愛を誓った夫婦のお墓と言うことで、プロポーズの場所としても有名ですからね」


「え?そうなのですか?」


知らなかった…まさか『アゼリアの丘』がそんな場所として利用されていたなんて…。だけど、永遠の愛を誓った夫婦のお墓…。まさか僕とアゼリアがそんなふうに思われていたなんて…。思わず顔が赤くなる。


「あ、やっぱりお客さんもプロポーズをされるんですね。きっとうまくいきますよ。応援しています」


タクシー運転手はバックミラー越しに僕に笑顔を向けてきた。



プロポーズ…。


でも、アゼリア…。もし、あの丘の上で偶然出会えたなら…僕は君にプロポーズをしてしまうかもしれない…。



****


「ありがとうございました」


運賃を支払い、タクシーを降りた僕は迷うこと無くまっすぐ『アゼリアの丘』を登っっていく。やがてアゼリアの花に囲まれた3つのお墓が見えてきた。


真ん中にあるのはアゼリアのお墓。右にあるのは彼女の両親のお墓で…左にあるのは前世の僕のお墓だ。


「アゼリア…150年ぶりに君に会いに来たよ」


そっと墓標に触れ…傍らにある自分のお墓を見つめる。


「まさか…自分のお墓を目にすることになるとは思わなかったな…」


その時―。



パキッ


背後で小枝が折れる音が聞こえた。


まさか…?!


僕はゆっくり後ろを振り返った―。





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