アゼリア&カイの章 ⑨ また…会えたね(アゼリアside)
「アゼリアーッ!!早く早くっ!バスが来ちゃうわ!」
『リンデン』の空港に到着し、荷物を受け取った私とケイトはバス乗り場へと急いでいた。
「ね、ねえ…ケイト。何もそんなに慌てる事無いんじゃないかしら?」
大きなキャリケースを引きずりながら私は隣を歩くケイトに尋ねた。
「だって、早くホテルに荷物を置いて観光巡りしたいんだもの」
ケイトは笑みを浮かべて私を見る。
「フフ…ケイトって旅行好きだったのね」
「うん、そうなのかしら…?でも何故かここ『リンデン』は私にとって特別思い入れがあるのよ…こう、何だか…胸がキュッて締め付けられるような…不思議な感覚」
「そうなの…?」
生憎私にはその様な感覚は全く湧いてこなかった。ただ「カイ」「マルセル」と言う名前を聞いた時は、激しく感情を揺さぶられたのだけど…。
空港を出ると、正面出入り口にバス停が何箇所もあった。
「アゼリア、私達の乗り場にバスが到着してるわ。急ぎましょう!」
「え?ええ。そうね」
私達は更に急ぎ足でバスへと向かった―。
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「はぁ〜…バスに間に合って良かったわ…」
2人で並んで座り、バスが発車するとケイトが安堵のため息をついた。
「ええ、良かったわ。ホテルのある10番街までは30分位かかるみたいね」
私はタブレットを操作しながらケイトに話しかけた。
「…」
しかしケイトからは返事が返ってこない。
「ケイト?どうしたの?」
見るとケイトはじっとバスの中から窓の外を見つめている。その目はとても真剣だった。
一体何を見ているのだろう?
私も外に視線を移すと、ケイトは町中を流れる運河をじっと見つめていた。運河には数隻の渡し船が浮かんでいる。
「あら、あれね?ケイトが話してくれた運河の渡し船って」
「…あるわ…」
ケイトがポツリと呟く。
「え?どうしたの?何があるの?」
するとケイトは真剣な眼差しで私を振り返ると言った。
「ねぇ、アゼリア。デジャヴュって信じる?」
「え…?確かデジャヴュってあの…『既視感』の事?初めて見るのに、何処かで見たり、体験したことがあるような…不思議な感覚の事よね?心理学で以前教わったわね」
するとケイトが頷く。
「うん。それよ。私…今まさにデジャヴュ状態よ。あの船の上で誰かと食事した事がある気がする…。でも余り楽しめなかった気がするの…きっとその人との食事は気乗りがしなかったのね…他に誰かの事考えていた気がするわ…」
「まぁ…そうなの?それで?良かったら続き、教えてくれる?」
ケイトの話に興味を持った私は先を促した。
「え…?こんな私の話…信じてくれるの?」
ケイトが目を見開いて尋ねてくる。
「ええ、勿論よ」
すると―。
「アゼリアッ!」
ケイトが私に抱きついてきた。
「ど、どうしたの?」
「ううん…嬉しくて。こんな私の変な話を真剣に聞いてくれようとするんだもの…。アゼリア、大好きよ!」
「ええ…私も貴女が大好きよ。ケイト」
私はそっとケイトの背中に手を回した―。