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ケリーの章 ⑪ 待ちわびていたプロポーズ

「ポールさん、どうぞー」


診察室に患者さんを招き入れた私はお会計待ちのキティおばあちゃんを呼んだ。


「キティさーん。お待たせ致しましたー」


腰の曲がったキティおばあちゃんが受付までやってきた。


「はい、キティさん。本日のお会計は10オルトになります。お薬は朝と夜に飲んで下さいね」


手書きの領収書とヨハン先生が処方してくれた粉薬を渡しながら言うと、キティさんが声を掛けてきた。


「ケリーちゃん、今日はどうかしたの?何だか元気が無いようだけど?」


「え?そんな事無いですよ?」


慌てて否定するもキティおばあちゃんは首を振る。


「いいえ、私には分かるわ。だって3年もケリーちゃんを見てきてるんだから」


キティおばあちゃんは私がヨハン先生のお手伝いを始めてからずっと通院している患者さんのうちの1人だ。


「何かあったんじゃないの?」


心配そうに尋ねてくる。


「別に何もありませんよ?」


そう、あるとしたら…今夜トマスさんとお食事に行く約束をしている位だ。


「そう…?でも何か悩みがあるなら相談してね?」


「はい、ありがとうございます」


そしてキティおばあちゃんはお金を支払って、お薬をもらうと帰って行った。

やっぱり…見る人が見ると、今日の私は元気がないように見えるのだろうか?それならヨハン先生も?先生も…私の様子が違うことに気づいてくれていますか…?


私は診療所の扉を見つめ…ため息をついた―。


****


 昼休みになった。今日は診療所が忙しくて、途中お昼ごはんを作る為に診療所を抜け出す事が出来なかったので、すぐ近所にオープンしたパン屋さんに買いに行くことにした。


「ヨハン先生。どんなパンが食べたいですか?」


診察室の隣りにあるお薬の調合室で仕事をしていたヨハン先生に声を掛けた。


「そうだな…それじゃチキンサンドイッチとエッグレタスサンドイッチを頼もうかな?」


「はい、分かりました。ではすぐに買ってきますね」


「ああ、宜しくね」


ヨハン先生は笑顔で返事をしてくれた。


診療所を出た私は先程私に見せてくれたヨハン先生の笑顔を思い出していた。


ヨハン先生…。


 最近の私はおかしい。トマスさんとのお見合い話が持ち上がってから、急激にヨハン先生を意識するようになっていた。

私はこのままずっと先生のお側で暮らせると思っていたのに…。こんな事思いたくは無いけれども、ヨハン先生が今迄私をあの診療所に置いておいてくれたのはアゼリア様がいてくれたからでは無いかと思うようになっていた。

3年前にアゼリア様は無くなってしまったけれども、当時の私はまだ17歳。

まだ未成年だった私をヨハン先生は追い出してくても追い出せなかったのかも知れない。けれど、私ももう20歳。成人女性になってしまった。


「だからですか…?だから先生は私を…」


パン屋を目指して歩いていたけれども、不意に目頭が熱くなってしまった。俯いて歩いていると、不意に前方から声を掛けられた。


「あら?ひょっとして…ケリーじゃないの?」


「え?」


顔を上げるとそこにはオリバーさんの奥さんが一番下の女の子、アメリアを連れて立っていた―。



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