ライラのクッキーリベンジ2
精霊神聖堂内のサロンではお茶会の準備が進められ、後はライラとオルガが作ったクッキーを待つばかりとなっていた。
「俺のために、ライラがクッキーを作ってくれるなんて。俺達はやはり、想い合っているんじゃないかな」
お茶を飲んでから、そうアウリスに話しかけたシーグヴァルドは、無表情ながらも勝ち誇ったような雰囲気を醸し出している。
それに対してアウリスは、客人をもてなす笑顔を絶やさない。
「シーグヴァルド殿下はご存知ないかと思いますが、ライラは皆に優しいんです。クッキーは俺達皆のために作ってくれているのですよ。殿下はオルガの第二夫ですし、彼女のクッキーを食べたらいかがでしょうか」
第二夫と呼ばれて、シーグヴァルドはぴくりと眉間にシワを寄せる。
重婚状態のオルガは、アウリスを第一夫、シーグヴァルドを第二夫と勝手に名付けたのだ。
夫婦として過ごした期間は、圧倒的にシーグヴァルドとのほうが長いが、順番としてはアウリスと先に結婚している。なによりオルガは、シーグヴァルドに対して鬱憤が溜まっていたので、単に腹いせとしてそう呼んでいる節があった。
「いやいや、第一夫のアウリス殿下を差し置いて、俺がオルガのクッキーを食べるわけにはいかないよ」
「気にしないでください。俺とオルガの夫婦関係は名ばかりで、今はただの同居人に過ぎませんから」
傍から見ていると、優雅にお茶を楽しんでいる王子と皇太子にしか見えないが、その内容がひどすぎてオリヴェルは苦笑いをする。
「この中でライラちゃんのクッキーを食べたことがあるのって、アウリスだけだよね。どんなクッキーだったの?」
「あの時は俺への愛が強すぎたせいか、焼き過ぎてしまったようだね。幸せの苦みだったよ」
オリヴェルの素朴な疑問に対して、アウリスは昔を思い出しているのか、幸せそうに微笑む。
しかしその発言に、疑問を感じたオリヴェルとシーグヴァルド。どうやら、ライラのお菓子には問題があるようだ。
シーグヴァルドとオリヴェルは、顔を見合わせた。その時――、カチャリと扉の開く音がして全員がそちらへと注目する。
「皆様、お待たせいたしましたわ! クッキーが焼き上がりましたの!」
満面に笑みをたたえたライラが、大皿に赤いクッキーを載せて部屋へと入ってきた。
ライラはイチゴが好きだから、イチゴクッキーにしたのだろう。誰もが同じ感想を抱きながら、笑顔で迎え入れる。
ライラの後にはオルガも普通のクッキーを大皿に載せ、エリアスは落とさないよう深皿に自らが型抜きしたクッキーを一つだけ載せている。
「パパ! ぼくもクッキーつくったの、たべて!」
「ありがとう、エリ。うまくできたね、美味しいよ」
息子から差し出されたクッキーを、嬉しそうに食べるアウリス。そこだけ和やかな雰囲気が漂っているが、周りの者達はどう反応したら良いのかわからない顔つきでいた。
なぜなら、甘い香りが漂うはずのクッキーからは、それを掻き消すほどの辛そうな香りが充満しているのだから。
「お姉様にご指導していただいたおかげで、今回は成功いたしましたわ」
「本当だね、ライラの上達ぶりには驚かされるよ」
自信作のような顔つきのライラに対して、アウリスがすかさず褒める。
ここでも和やかな雰囲気が漂い始めたが、オリヴェルとシーグヴァルドは顔色が悪くなるばかり。
「……ライラちゃんのは何味なのかな? 色々なものが入っているように見えるんだけど」
「気がついてくださって嬉しいですわ、オリヴェル様。今回は、皆様への日頃の感謝を込めまして、皆様がお好きなものを一つずつ入れさせていただきましたわ。きっと、幸せな味に仕上がっていると思いますの」
「ライラって、意外と独創的な発想力の持ち主だったんだね……。お菓子の趣味が合うと思っていた俺の考えが浅はかだったよ」
「シグったら、そんなに褒めないでくださいませ。照れてしまいますわ」
早速クッキーに注目が集まり、上機嫌で席に着いたライラは、全員を見回してからにこりと微笑んだ。
「それでは、シグの歓迎お茶会を開催いたしましょう!」





