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90 ノアの結界7


 ライラもそれは疑問に思っていた。人を傷つけられないノアが、どうやって帝国軍と戦うのだろう。

 不安な気持ちでノアを見つめていると、ノアは優しくライラに微笑みかける。


「心配するな。ライラは俺のことだけ考えていてくれ」

「はいっ」


 ノアはこれから力を大量消費するようなことを言っていた。ライラも少しでも手助けできるように、今からでも祈るに越したことはない。

 ライラが祈りを捧げ始めると、ノアはシーグヴァルドに視線を戻した。


「一つだけ聞く、お前らは俺の信者か?」

「まさか。他国の守護神を信仰する帝国人なんていないよ。――あぁ、なるほどね」


 理解したように笑みを浮かべるシーグヴァルドを見て、オルガは眉間にシワを寄せる。


「何が『なるほど』なのよ。わかるように説明してくださいませ」

「つまり、オルガが生き残れるかどうかは、日頃の信仰心にかかってるってことかな」

「意味がわかりませんわ。 わたくしのことは、殿下が守ってくださいますのよね?」

「盾の使い方は教えたでしょう? 自分の身も守れないような妃は、帝国にはいらないよ」

「そんなぁ……。見損ないましたわシーグヴァルド殿下!」

「それで結構。貴女に付き合っていたら、日が暮れてしまう。――精霊神が相手なら掟の作成はいらないね。すぐにでも始めよう」


 オルガとの会話をばっさりと切ったシーグヴァルドは、それだけノアに言い残して、兵の元へと戻っていった。

 その後をオルガを乗せた馬車もついていくが、彼女はシーグヴァルドへの不満をぶちまけており、御者は面倒くさそうな顔をしている。


 どうやら彼女にとって、皇太子妃としての生活は幸せに満ちたものではないだようだ。

 オルガが皇太子妃となった経緯をライラは詳しく知らないけれど、あのような恰好で戦場にまで引きずり出されるのは気の毒だと、ちらりと視線を向けながら思った。


 辺りが静かになると「アウリスはここに残るのか?」とノアが問いかける。


「はい。元をたどれば俺の不始末ですので、せめて見届けさせてください」

「好きにするがよい。だが、お前まで守る余裕はないぞ」

「誰かに守られること望むようならば、そもそも戦場へは来ていません」


 アウリスはそこらの兵より、よほど強い。それでも少し心配になって、ライラは声をかけた。


「アウリス様、お気をつけて。先ほどの約束を忘れないでくださいませ」

「お気遣いに感謝いたします、ライラ様」


 他人行儀な彼の笑顔には慣れそうにないけれど、『命と引き換えに』と言っていた時の悲壮感はもう、彼からは漂ってこない。

 ライラがにこりと笑みを返すと、ノアは上空へと移動し始めた。




 上空から見下ろした帝国軍は攻撃の準備を始めているようで、陣の形が変化している。

 そして、大多数の兵士が弓を構えていることにライラは気がついた。


「ノア様……。こちらで浮かんでいたら、良い標的になってしまうのではありませんこと?」

「別に良いだろう。あいつらにも少しは戦わせてやらねばな」


 不安を訴えてみたのに、ノアは呑気な返事をする。

 大丈夫なのだろうかと思いながらもう一度、地上を確認した瞬間――。


 ライラ達に向けて一斉に放たれた弓矢は、ビュンっとここまで音が聞こえてきた。


「きゃぁーー!!」

「俺達には当たらないから、心配するな」


 ノアの首に思い切り抱きついたライラは「え?」と辺りを見回した。

 いつの間にかライラ達は透明な球の中にいたようで、そこに当たった弓矢は呆気なく落下していく。

 弓の攻撃が二度、三度と繰り返されても、透明な球はヒビの一つも入らないようで、ライラはほっと息を吐いた。


 弓矢ではノアを撃ち落とせないと、察した様子の帝国軍。

 弓の攻撃が止むと、次は鳥型の魔獣に乗った兵士たちが、こちらに向かって飛び立ち始めた。


「ノア様!」

「大丈夫だ。そろそろ始めるか」


 ノアの言葉が終わると同時に、地面からはノアが得意としている植物のツタが勢いよく生え出した。

 ツタは素早く鳥型魔獣に絡まり、上空から引きずり落としていく。


 それとは別に、帝国軍の中央からは大きな悲鳴が上がる。

 ライラがそちらに視線を移動させた時には、陣の中央がまるで足場が崩れたようにして兵士達が落下しているように見える。


 何が起きているのだろうと目を凝らしていると、それは湖のようなものが出現したことにより、兵士達がそこに落ちているのだとわかった。

 その湖のようなものは兵士達を巻き込みながら、徐々に大きさを増していく。

 湖のようなものが見やすくなってきたところで、ライラはハッと気がついた。


「あちらは、異空間への入り口ですのね」


 湖面のように見えていたのは、隠し部屋の入り口と同じく水の膜のようなもの。

 兵士達は溺れる様子もなく、膜を通過するように消えていく。


「あぁ……」


 ノアの顔を見てみると、話している余裕はなさそうに顔を歪めている。

 どうやら異空間を開くには、相当な力を必要とするようだ。

 ライラは心の中でノアを応援しながら、再び地上へと顔を向けた。


 帝国軍の陣形はすでに崩れており、兵士達は四方八方に逃げまどっている。

 しかしその多くは、逃げ遅れて異空間に飲み込まれ。運よく逃げ延びた者は、しかしツタに絡めとられて異空間へと引きずり込まれている。


 そんな中で一人だけ、ノアの攻撃を受けることなく帝国軍側から逃げ延びようとしている者がいた。

 彼女は、何度も転んでは体中を傷だらけにしながら、アウリスの元へ走っている。


「アウリス様ぁ~! 助けてくださいませぇ~!!」

「オルガ!」


 馬で駆け寄ったアウリスは、力尽きて地面に座り込んでしまったオルガを抱き上げる。

 彼女を馬に乗せてから自らも馬に跨ったアウリスは、勢いよく馬を走らせた。


 しかしその方向は、国軍側ではなく帝国軍側。


 すでに全ての帝国兵士を飲み込んだ異空間の入り口は、徐々に縮小し、閉じようとしている。

 そこにアウリスは向かっていた。

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