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08 ノアの離宮1

 ノアがライラを抱きかかえたまま魔法陣へ戻ると、何の前触れもなく一瞬にして辺りの景色が切り替わった。


(えっ……、ここは……)


 辺りを見回すと、ここは屋内であることがわかる。ノアが住む神殿のような内装だ。

 そしてライラと同じく、驚いた表情の者達がノアとライラに視線を向けていた。

 彼らは皆、白いローブを身にまとっている。金色の刺繍は離宮に仕えている聖職者の証。


 王宮の奥にある、ノアをもてなすためだけに作られたという離宮――


 ここがその離宮であると、ライラはすぐに思い出した。


 ライラは一度だけ、ここへ来た記憶がある。

 幼い頃から神話が大好きだったライラのために、アウリスがこっそりと連れて来てくれたのだ。

 この儀式場へ入ってすぐ聖職者達に見つかってしまい、追い出された後に国王からこっぴどく叱られたが。

 アウリスと婚約を結んで間もない昔の話だが、あの時の精霊神に少しでも近づけたという喜びは今でも覚えている。




 ライラが昔を思い出している間にも聖職者達からはどよめきが起き、その中の一人がノアとライラに近づいてきた。


「ノア様! と……、ライラちゃん!?」


 驚いたように叫んだ彼を、ライラはよく知っていた。

 彼はオリヴェル・マキラ。マキラ公爵家の次男で、この離宮に仕えている聖職者の一人。――そして、アウリスの親友でもある。


 オリヴェルとの久しぶりの再会に、ライラは喜びよりも何よりも先に、悲鳴を上げざるを得なかった。


「きゃぁーーーー!!」

「ライラどうした?」

「ライラちゃん!?」


 ノアとオリヴェルが同時に声をかけたが、ライラは二人の顔を見ることなくノアの肩に顔を埋める。


「ノア様ひどいですわ……。わたくし、寝間着姿ですのに……」

「あ、すまん……。人間は衣服の種類を気にするのだったな」





 とりあえず緊急事態だと察したオリヴェルは、素早く二人を離宮内にあるサロンへと案内した。


「俺のローブでごめんね。今、ライラちゃんの着替えを用意させているから」


 ソファーの上に降ろされたれたライラは、ノアに隠れるようにしながらオリヴェルが身にまとっていたローブを受け取った。そしてぎこちなくオリヴェルに微笑む。

 寝間着姿を見られたのも恥ずかしかったが、大人げなく悲鳴を上げてしまったことも恥ずかしかったので、何となく気まずい。


「神聖な離宮で騒いでしまい、申し訳ありませんでしたわ」

「まぁ……、驚いたのはライラちゃんだけじゃないから心配しないで」


 なんともいえない表情で微笑んだオリヴェル。

 彼の言う通り、儀式場へ瞬間移動したノアとライラを見た聖職者達は、異様なほど驚いている様子だった。


 メイドにお茶を用意させたオリヴェルは、ライラ達の向かい側に腰を下ろすとノアに視線を向ける。


「お聞きしたいことは山ほどありますが、本日はどのようなご用件で?」

「ライラが腹が減ったというので、食事をしにきた」


 その言い方はなんだか恥ずかしく感じたライラ。またお腹が鳴らないようにお腹に力を込める。

 ライラの向かい側では、オリヴェルがぽかんとした表情になっていた。


「え……、それだけですか?」

「あと、ライラが神殿で生活するための道具を一式そろえてくれ」


 ライラは原始的な生活も辞さない覚悟だったが、ノアはその辺りも考えてくれていたようだ。


 ノアの用件を理解したオリヴェルは、緊張の糸が切れたように肩の力を抜く。


「そういうことでしたかぁ……、承知いたしました! いやぁ、俺はてっきり結婚式へ乗り込んできたのではないかと、ハラハラしていましたよ!」


 ライラはそこで気がついた。今日は自分の誕生日だと。非現実的なことが立て続けに起きていたので、すっかりと忘れていた。

 ――そして、アウリスとオルガの結婚式がおこなわれる日でもある。


 どうやらオリヴェルは、その結婚式にノアとライラが乗り込んできたのかと勘違いしたようだ。

 他の聖職者達の驚きようも、同じことを思っていたからなのかもしれない。

 ライラは急に現実へ戻された気分で、手を握り込んだ。


「オリヴェル様は……、結婚式へは出席しませんの? アウリス様のご友人ですのに……」


 今の時刻はよくわからないが結婚式は午前中におこなわれ、午後は庭での披露パーティー、夜は舞踏会と一日いっぱい予定が詰まっているはず。

 友人ならば、一日中参加するのが一般的だ。


 しかしライラの疑問に対して、オリヴェルはため息をついた。


「……俺は怒っているんだ。あれだけ愛していたはずのライラちゃんを裏切って、あんな女と結婚するなんて……。こんなことになるなら、いっそ俺が――」


 オリヴェルがそこまで口にしたところで、言葉は中断された。なぜなら、部屋の中が急に薄暗くなったのだ。

 異変に気がついたオリヴェルとライラは、同時に窓へと視線を向ける。


 窓からは日の光がたっぷりと差し込んでいたはずなのに、一瞬にして外は土砂降りの雨が降り出していた。

 この時期に豪雨なんて珍しいと思っていると、なぜかライラはノアに抱き寄せられた。


「オリヴェル……、お前は何を言うつもりだ?」


 怒っているようなノアの低い声が響くと、オリヴェルは冷静にそれを受け止めた。

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