表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/102

82 ノアの力14

 決心が鈍らないうちにとアウリスは、その足でライラを連れて出入り口があった道へと向かった。

 出入り口があったと思われる場所に到着し、足元を確認したライラ。

 そこには、初めて来た日にアウリスが置いたお菓子が、そのままの状態で残っていた。

 これだけを見ると、あまり時間が経っていないように錯覚してしまう。

 けれどアウリスには何度も神話を読み聞かせてもらっていたので、相当な時間が過ぎている気がしてならない。


 ノア達には大いに心配をかけてしまっただろう。しかしペンダントを壊さずに問題を解決できて良かったとライラ自身は思っている。

 ここはアルメーラ家の当主が先祖代々守り続けてきた大切な場所。自分達の事情で壊したくはなかった。

 それに無理やり外へ出ても問題は解決しなかっただろうし、アウリスと話し合えて良かった。


「ライラ……、俺のことを忘れないでね」


 アウリスは首から下げているペンダントを見つめてから、不安そうな顔つきでライラの手を握った。

 外の世界へ戻ってからのアウリスの立場を考えると、不安になる気持ちも無理はない。


「これでお別れのようなことをおっしゃらないでくださいませ。わたくしはこれからも、アウリス様の家族であり続けますわ」

「うん……、ありがとうライラ」


 ライラが安心させるように微笑むと、アウリスは決心をしたようにうなずく。

 そしてライラの手を引いて、ゆっくりと歩き出した。


 数歩ほど進んだところで、アウリスの手に水の膜のようなものが触れて、透明な波紋が広がる。

 アウリスはそれを確認すると、ライラを連れてそのまま膜の中へと身体を滑り込ませた。





 入った時と同じく目を閉じて膜を通過したライラは、突然に地面の感覚がなくなり驚いて目を開けた。


「きゃーー!!」


 アウリスの執務室へ出たと思ったのに、なぜか落下している。

 わけもわからず混乱していると、「ライラ!!」と懐かしい声とともにライラは何者かに抱きとめられた。


 じんわり温かくライラを包み込んでくれる存在。

 ライラは彼の首にしがみついた。


「ノア様!」

「無事で良かった。帰りが遅くて心配したぞ」

「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんでしたわ!」

「俺の元へ戻ってきてくれたなら、それで良い」


 ずっと心配をかけてしまったのに、ノアはそれだけで済ませてしまった。

 過保護で心配性なノアだけれど、彼はいつも大きな心でライラを受け入れてくれる。


 久しぶりにノアの顔を見たくて、首から離れたライラ。

 しかし、ライラに微笑みを向けてくれたノアの表情は、驚くほどやつれていた。

 それと同時に、辺りの景色が目に映る。


 執務室だと思っていたそこは、なぜか屋外で。辺りには、がれきが散乱している。

 まるで戦争か何かで、建物が破壊されたような有様。

 そのがれきの中に見覚えのある壁の一部を発見し、ライラはここが公爵邸だったのだと理解した。


 ここで何が起きたのか。

 不安になりながら、ライラはノアに視線を戻す。


「ノア様、こちらは……」

「すまないライラ……。何とか異空間へ入れないかと思って、力を使いすぎた」


 どうやら公爵邸は、ノアによって破壊されてしまったよう。

 ノアのやつれ具合は、ずっとライラを助け出そうと力を使っていたからなのか。

『ライラに何かあれば、精霊神様がお力を使いすぎるかもしれない』とアウリスには教えられたけれど、ライラの想像以上にノアには心配をかけていたようだ。

 ライラは再び、ノアの首に抱きつく。


「わたくしのために……、本当に申し訳ありませんでしたわ」

「謝らなくて良い。それよりも、ライラの生家を壊してしまった……」

「形あるものはいつか壊れるものですわ。けれど、ノア様にとっても思い出深い場所でしたのでは……?」


 この公爵邸は増改築を繰り返してはいるけれど、元々はユリウス王子とその妻が住んでいた邸宅。

 何百年にも渡り、ユリウス王子の子孫を見守ってきたノアにとっては、ライラよりも愛着のある場所だったのではないだろうか。


「ユリウスとの思い出よりも、ライラがいなくなるほうが耐えられなかった」

「ノア様……」


 まるで大切な物がその手に戻って来たかのように、ライラに頭をすり寄せるノア。

 ライラは、神話目録を読んで悲しんだ自分が、いかに浅はかだったのかを思い知らされた。

 ノアがライラを伴侶として求めていなくとも、これほど大切にされている。

 それが何よりも幸福なことだと。


「俺を想ってくれるのか? ライラの心がさらに温かくなったな」

「ノア様の心は熱いですわ」

「当たり前だ」


 異空間にいたせいか、この熱さもあの時は忘れてしまっていた。

 ノアの熱さを感じていたら、あれほど悲しむこともなかっただろうに。


 ノアの熱に包まれながらライラは自分の鼓動を感じていたけれど、辺りが騒がしくなってきて鼓動が感じられなくなってしまった。

 下方に視線を向けると、離宮の聖職者達ががれきを上り下りしながらこちらへ向かってくるのが見える。

 それに気がついたノアは地上に降り立つと、ライラを降ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

gf76jcqof7u814ab9i3wsa06n_8ux_tv_166_st7a.jpg

◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ