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76 ノアの力8

 ライラが目覚めると、そこは見知らぬ天井だった。

 寝る前のことを思い出しながら視線を移動させると、ソファーに座って本を読んでいるアウリスが目に留まる。


(ここは、隠し部屋の……)


 現在地を思い出したライラは、自分がなぜここで眠っていたのかも思い出す。

 寝具に包まっているということは、泣き疲れて眠ってしまったライラに、アウリスが寝具を掛けてくれたのだろう。


(泣き疲れて眠るなんて、子供みたいだわ)


 恥ずかしさのあまり寝具を頭まですっぽり被せると、アウリスの声が聞こえてきた。


「ライラ、起きたの?」

「……おはようございます、お義兄様」

「そんな恰好で言われても、起きたのかわからないよ?」


 アウリスの楽しそうな声が聞こえてくる。

 これ以上子供っぽいとは思われたくない。ライラは渋々、寝具から顔を出した。


「……せっかく連れて来てくださったのに、寝てしまい申し訳ありませんわ」

「気にしないで。それより、読書を再開したら?」


 アウリスはそう提案すると、素っ気なく読書を再開してしまった。

 何時間寝てしまったのだろうと気になり、窓の外を確認したライラ。

 しかし、当に夕方の日差しになっても良さそうな頃なのに、ここへ来た時と変わらず午前中のような爽やかな日差し。この空間は日が暮れたりはしないのかもしれない。


 ライラはベッドから出ると、アウリスが座っている向かい側のソファーへと腰を下ろした。

 テーブルに視線を向けると、ライラが読もうと思っていた三冊がすでに用意されている。

 けれどもう、三冊も読む時間はないと思いながら砂時計を確認したライラは、眉をひそめた。


 六時間の砂時計が、まだほんの少ししか落ちていない。


 ライラは砂時計をひっくり返してから、神話目録を読み、そして泣き疲れて眠ってしまった。

 冷静な心を取り戻す程度には、ぐっすりと眠った気がする。それなのに、この砂時計はどう考えてもおかしい。


 ライラはアウリスに視線を向けたけれど、彼は気がつく様子もなく読書に熱中している。

 いや、アウリスがライラの視線に気がつかないはずがない。これは長年の経験でいえること。

 彼に視線を向ければ、必ず気がついてくれるのがアウリスだ。


 きっと彼は、この状況を説明する気がないのだろう。

 いったいあれから何時間ほど経過したのか。漠然とした不安を感じながら、ライラは意を決して口を開いた。


「お義兄様、今日はそろそろ戻りませんこと?」

「急にどうしたの?」

「あまり時間が過ぎると、ノア様が心配してしまいますわ」

「それなら心配しないで。執事長には一泊するかもしれないと伝えてあるから」

「けれど、ノア様ならきっと心配しますわ。もう少し滞在するにしても、一度戻ってノア様に直接お伝えしなければ」


 ライラが信じているアウリスならば、そう願えばきっと一緒にノアの元へ戻ってくれるはず。

 信頼を裏切らないでほしい。

 そう願いながら彼の言葉を待ったけれど、アウリスの視線はひどく冷たいものだった。


「ライラは優しいね。けれど休日くらい、ライラの自由に過ごしても良いと思うよ」


 視線とは裏腹に、優しい声が家の中に響く。

 その対比があまりに極端で、ライラは暗い森にでも迷いこんだように背筋が寒くなってくる。


「……ノア様は心配性ですもの、安心させて差し上げなければ。わたくしに何かあれば、ノア様がお力を使いすぎるかもしれないと教えてくださったのは、お義兄様ですわ」

「ここにいるのは、俺とライラだけだよ? 仮に何かあったとしても俺が守ってあげるから大丈夫だよ」


 ライラの訴えも空しく。他愛ない雑談でもしていたかのようにアウリスはお茶を飲んでから、読書を再開する。


 いまだ彼は、義兄として振る舞っているので、ノアが心配しているようなことは起きないだろう。

 ならば、このままアウリスが満足するまで、ここに留まるべきか。


 そんな考えも浮かんだけれど、ライラは今すぐにでもノアの元へ戻りたい。

 二人で何事もなく公爵邸へ戻り、アウリスは信頼できる義兄だと証明したいし、ノアを安心させたい。

 何より、ライラ自身がノアの元へ戻って安心を得たい。


「……わたくしは先に外へ出ておりますわ。読書が終わりましたらお兄様も出口へ来てくださいませ」


 やはり帰りたいという意思は見せておいたほうが良い。

 そう思ったライラは、ソファーから立ち上がって外へ出ようとしたが――


「待ってライラ!!」


 アウリスは、それまでの冷静さを失ったかのように立ち上がると、ライラの腕を掴んで強引に引き寄せる。


「きゃっ!」


 ライラは体勢が崩れて、アウリスに向かって倒れ込んでしまう。

 それを支えるように、彼はきつくライラを抱きしめた。

 まるで、逃がさないとばかりに。 

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