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75 ノアの力7

「ライラの話を聞いたら、俺も読みたくなってきたよ。午後は俺も読書をしようかな」

「ぜひお勧めいたしますわ」


 食事中に話した原本と複製品の違いについて、アウリスも興味を示してくれたようだ。

 原本について感想を言い合える相手ができるのは嬉しい。

 ライラはすでに読み終えた三冊をアウリスに渡し、自分は次の原本を取り出すために戸棚へと向かった。


 六時間ほどで三冊読めたので、今回は三冊まとめて持ち出そうかと思いながら戸棚の中を見回す。

 原本は五十冊くらいあるので、アウリスには何度か連れててきてもらう必要がありそうだ。

 けれどアウリスの忙しさを考えると、読破には数年かかるかもしれない。

 一人でここに籠れたら良いのにと思いながら、続きの三冊を取り出そうとしたライラは、ふと原本ではない本があることに気がついた。

 その本だけ綺麗に製本されている。


(なんの本かしら?)


 気になってその本を手に取ってみたライラ。しかしそれは本ではなく、本の形をした箱だった。

 留め金にはペンダントをはめ込む鍵穴がある。どうやら重要なものが入っているようだ。


「ライラ、どうかしたの?」

「お義兄様」


 ライラの様子が気になったのか、戸棚の前へとやってきたアウリス。ライラが持っている箱を覗き込むと、心得たようにペンダントを服の中から取り出した。


「わざわざ鍵をするなんて、重要書類かな? 開けてみようか」

「お願いいたしますわ」


 なんだか宝箱でも見つけたような気分になりながら、ライラは箱を差し出す。アウリスが鍵穴にペンダントをはめ込むと、かちゃりと音がして箱の留め金が開いた。

 そっと箱を開けてみると、中には原本と同じく紙を紐で綴っただけの本が。


「神話目録と書かれておりますわね。目録がそれほど貴重なのかしら?」


 首を傾げるライラに「読んでみたら?」と、アウリスが微笑む。

 ライラはうなずくと戸棚の横にあるベッドに腰かけてから、箱に納められている目録を取り出した。

 アウリスが隣に座ったので、彼にも見えるようにしながら目録を開く。

 そこには、神話を書くことになった経緯が書かれていた。



 ノアが国を守るという契約は、本来なら生贄を差し出した国と結ぶべきであった。

 しかしノアは、その生贄と友人になることで国を守ると契約してしまう。

 そのため契約を維持するには、国内にユリウス王子の血を受け継ぐ子孫が存在し続けることが必要となった。


「こんな契約だったとはね。俺も知らなかったよ」

「わたくしも知りませんでしたわ。それに、シグの考えは的外れではありませんでしたのね」

「うん。つくづく帝国は恐ろしい存在だよ」


 ユリウス王子の子孫を集めれば、ノアを帝国に呼び寄せられるかもしれないと、シーグヴァルドは思っていた。

 ノアは国を出られないので、そんなことをしても呼び寄せることは出来ないが、もしも聖域のある一帯が帝国の領土となればそれも可能かもしれない。

 この国を攻め落とすのは困難でも、聖域のある一帯だけならば――

 帝国には絶対に知られてはならない事実だと思いながら、ライラはページをめくった。



 ノアはユリウス王子との繋がりを感じていたので、ユリウス王子の娘を伴侶に欲しがった。

 けれど娘をノアに差し出せば、国内にユリウス王子の子孫がいなくなってしまう。

 そこでユリウス王子は、数代後の子孫なら伴侶にしても良いと、ノアと約束をした。


 この神話は、ノアに結婚相手が見つかるよう、ノアがどういった神なのかを紹介するために作られたのだと記されている。

 けれど邪な心でノアと結婚したがる者が現れぬよう、神話が作られた経緯はこうして鍵をして保管することにしたようだ。


 経緯を読み終えたライラは、手の力が抜けてしまった。膝から滑り落ちそうになった本を、アウリスが受け止めてくれる。


「ライラ……、大丈夫?」


(ノア様は何百年もの間、伴侶に相応しいお相手を探していたのだわ……)


 この事実をどう受け止めたら良いのか。

 ノアはいつもライラのことを「大切な存在だ」と言ってくれるけれど、伴侶にしたいとは一度も言われたことがない。

 これまでのライラは、政略結婚でなければ違う答えが返ってくるかもしれないと期待していた。

 けれど伴侶としてライラを迎えるつもりがあったのならば、今のような関係にはなっていなかっただろう。


 ノアは、ライラをそういった対象として見ていない。


 そう思った瞬間、涙が溢れそうになった。

 けれど、アウリスに泣いている姿など見せたくない。ライラはドレスを強く握りしめながらアウリスに微笑みかけた。


「わたくしもこれからは、ノア様にお相手が見つかるようお手伝いしなければなりませんわね。エリと結婚する方には、素敵なご令嬢を生んでいただかなければなりませんわ」

「エリの結婚だなんて、気が早すぎるよライラ」

「ふふ、そうでしたわね」


 笑顔がぎこちないのはライラ自身よくわかっている。けれどアウリスはそれを指摘することなく微笑むと、ベッドから立ち上がった。


「喉が渇いただろう? イチゴジュースを作るから少し待っていて」


 昼食が入っていたバスケットを手に取ったアウリスは、そう言い残して足早に家を出ていく。

 扉が閉まったことを確認したライラは、我慢して感情を吐き出すようにベッド倒れ込んだ。




 それからしばらくして、家へと戻ってきたアウリス。

 こぼれそうなほどイチゴを詰めたバスケットをテーブルに置くと、彼はベッドに寝ころんでいるライラの元へと向かった。


「……ライラ、泣き疲れて眠ってしまったんだね」


 ライラの目元から枕に向かって涙の後が残っている。アウリスはその涙の後を隠すように、優しくライラに触れた。


「フラれた相手と、これから何千年も一緒に暮らすつもり? 俺ならライラをもっと幸せにできるよ」

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