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72 ノアの力4

 本棚から本を何冊か取り出すと、棚の奥にペンダントをはめ込む穴が現れる。


「こちらにペンダントをはめ込んでくださいませ」


 アウリスはうなずくと、そっと手を伸ばして本棚の奥にペンダントをはめ込む。すると本棚は消えて、水の膜のようなものが本棚があった場所に出現した。

 ライラは二度目だけれど、初めて隠し部屋を目にしたアウリスは驚いているよう。


「……これほどの隠し部屋は、王宮にもないんじゃないかな」

「こちらはユリウス王子に頼まれて、ノア様が作ったそうですわ。膜の先は異空間となっておりまして、一人で入ると父の隠し部屋へ、二人で入ると別の場所へたどり着くそうですの」

「異空間か……。精霊神様には驚かされることばかりだね」


 アウリスは感心するように、ため息をついた。


「こちらの隠し部屋で、あの手紙を見つけましたのよ」

「そうだったんだ。他にも帝国に関して、何か情報を得られるかもしれないね」

「えぇ。備えるに越したことはありませんもの。よろしくお願いいたしますわ」

「うん。この隠し部屋は俺が責任を持って引き継がせてもらうよ」


 やっと公爵家の全てを彼に渡せた。今のアウリスになら安心して公爵家を任せられる。

 ライラは肩の荷が下りたように、ほっと安心した。


 それからライラは、鍵を渡す際には必ず願おうと思っていたことを切り出してみることに。


「あの……お義兄様にお願いがありますの」

「ライラがお願いなんて珍しいね。何かな?」


 優しくにこりと微笑みながら、ライラの顔を覗き込むアウリス。

 むやみに触れてこない今の彼になら、頼んでも大丈夫だろうかとライラは決心した。


「二人で入る場所に、いつかわたくしを連れていってくださいませんか?」

「二人で? 良いけれどそちらには何があるの?」

「わたくしもまだ入ったことがないのでわかりませんわ。けれどそちらに神話の原本があると思いますの」


 大切な原本ならば丁重に保管されているだろうけれど、父の隠し部屋にはそれらしき保管場所は見当たらなかった。

 それに神話には、ユリウス王子の妻が書いたと思われる話もある。きっと二人で制作したのではないだろうか。

 ライラがそう思っていると、アウリスはくすりと笑顔をこぼす。


「なるほど。ライラはその原本を読んでみたいんだね」

「えぇ。お義兄様がお暇な時で構いませんわ。何年先でもお待ちしますので」

「そんなに待たせないよ。一ヶ月ほど我慢してね。その間に、領地の件を片付けるから」

「ありがとうございます、お義兄様!」





 それから一ヶ月後。

 アウリスは宣言通りに仕事を終わらせ、今日は約束の日。


 公爵邸へ向かうために聖域の森を歩いているノアは、朝からずっと不機嫌だ。それに対してライラは、うきうきしながらノアに抱きかかえられている。


「ライラ……。そんなに嬉しいのか?」

「もちろんですとも! 夢にまで見た原本を拝読できますのよ。楽しみで仕方ありませんわ」

「……俺は反対だ」

「ノア様は以前に、原本を読んでも良いとおっしゃいましたわ。この期に及んでまだ、過去を知られたくないと?」

「そうではない。あの空間に俺は入れないから心配だ……」


 ノアは、アウリスが何かしないか心配なのだろうか。

 けれど、あの後も何度か二人きりになる機会を作ってみたけれど、アウリスはライラと適切な距離を保っている。


「もしも危険があれば、すぐに外へ出てきますわ」

「あの空間への出入りは、二人同時でなければならない」


 どうやら一人で逃げ出すのは無理のようだ。けれど、アウリスが力ずくでライラをどうにかするとは思えない。


「わたくしは、お義兄様を信じておりますわ」


 エリアスが生まれた頃の彼は、オルガが失踪してしまい気が動転していたのだろう。きっと先が見えない不安から、元婚約者のライラに甘えてしまっただけ。

 今では立派に子育てをこなし、アウリス自身の評判も取り戻している。いつまでも、一番近くで接しているライラ達が疑っていては彼に失礼だ。


 そう自分自身を納得させるように考えをまとめたライラ。

 けれどこれは、ただの言い訳にすぎないのかもしれないと思った。

 本当はライラ自身の中にある、『誠実で優しいアウリス』を崩したくないだけなのかもしれない。

 これ以上、彼に裏切られたくない、彼にがっかりしたくない。――だから、彼を信じたい。


 ノアはライラの意思を感じ取ったのか、諦めたようにため息をつく。


「ならば、緊急脱出方法だけ教えておく。ペンダントにありったけの魔力を込めれば、ペンダントは壊れ異空間も消滅する。ペンダントを破壊したらもう隠し部屋は使えなくなるが、危険な時はためらうな」


 相変わらずノアは心配性だと思いながら、ライラはこてりと彼の肩に頭を預ける。


「じゅうぶんに気をつけますわ。けれどわたくしは、もっとノア様を知りたいですの。この気持ちもご理解くださいませ」

「……ああ」


 見上げてみると、ノアの顔が少し赤くなっている。

 久しぶりの、照れたノアだ。


 ひそひそ。ひそひそ。

 精霊達から冷やかしのような囁き声が聞こえてくるが、ライラの耳には届かない。

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