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71 ノアの力3

「それについては、ノア様が具体的な策を陛下に提示したみたいだよ。俺も内容は聞いていないけれど、帝国とのいざこざについてはノア様のほうが詳しいみたいだね」


 ノアは自信があるように「後は俺に任せろ」と言っていたけれど、本当に具体的な策があったようだ。

 国王にしか伝えなかったということは、ノアにとっては切り札のようなものなのかもしれない。


 ノアの言う通り、この件に関してはお任せして良さそうだと思いながら、ライラは料理長自慢のお菓子をぱくりと頬張った。

 口の中でほろっと崩れるイチゴ味の焼き菓子は、ライラのお気に入りでもある。


 当面の心配事が全て消えた気分で顔を緩ませていると、「ところでライラ」とアウリスが声をかけてきた。


「はい、お義兄様?」

「領地に関する重要書類に関して、聞きたいことがあるんだけど」


 アウリスはそう伝えながら、オリヴェルのほうをちらりと見る。


「おっと、俺はお邪魔なようだね。廊下で待っているから何かあれば呼んでね」

「申し訳ありませんオリヴェル様。あまり長くならないようにいたしますわ」


 オリヴェルを見送ってからアウリスに向き直ると、彼は嬉しそうにライラを見つめていた。


(書類の場所を聞きたいのよね?)


 何がそんなに嬉しいのだろうかと思いながら首を傾げると、アウリスも真似をして首を傾げる。


「俺達は親しい間柄だから、二人きりでも大丈夫だよね?」

「ふふ、そうですわね。わたくしはお義兄様を信頼しておりますわ」


 そういえばアウリスと二人きりになるのは、何年ぶりだろうとライラは考えた。

 エリアスが生まれてすぐの頃は、アウリスの様子がおかしいこともあったけれど。あれ以来、アウリスと会う際は必ずオリヴェルが一緒に来てくれる。

 先ほどもオリヴェルは『何かあれば呼んでね』と言っていたけれどあれは、アウリスが義兄としての一線を越えるようなら、助けに行くという意味なのだろう。


 けれど結婚話が出た時のアウリスはその気が無さそうだったし、もうおかしな言動を心配する必要もないのではと思える。

 今日はそれを確認する良い機会かもしれない。


 アウリスは呼び鈴を鳴らして、メイドにお茶を入れ直させ。再び二人きりになると、彼は仕事をする時の顔に変わった。


「今回、ライラの叔父が帝国にいるとわかったので、正式に俺が爵位を受け継いだんだ」


 爵位は、オルガの出産を終えて落ち着いてから継承する予定だったが、二人が失踪してしまったのでアウリスはずっと代理という形で領地を運営してきた。


「正式にアルメーラ公爵となりましたのね。これからも公爵家をよろしくお願いいたしますわ」

「うん。ライラも女主人として、これからも公爵家を支えてくれると嬉しいな」

「もちろんですわ。眠っていた期間の遅れを取り戻さなければなりませんわね」


 アウリスは安心したように微笑むと、すぐに顔を引き締め直す。


「けれどオルガが皇太子の妃となったことで、またアルメーラ家への風当たりが強くなっていてね。特に一族の者達から、『一族というだけで非難の対象となっている』と苦情がきているんだ」

「そうでしたの……。皆様にもご迷惑をおかけしてしまいましたわね」

「それで父上とも相談したんだけど、一族に公爵家の土地を分配しようと思っているんだ」

「土地を?」


 アルメーラ領は公爵家の直轄地と分家の土地に分かれているけれど、一族の全員が土地を所有しているわけではない。多くの者は公爵家に関わる仕事をすることで生計を立てている。


「これで一族の不満を少しは解消できるだろうし、ライラも報告してくれただろう。皇太子はユリウス王子の子孫を多く集めたいようだと。その者達に土地を与えれば、国を出ようと思う者も減るかと思ってね」


 つまりアウリスは『不満の解消』と『引き留め』両方の意味で、土地を一族に分配しようと考えているようだ。

 アルメーラ領は王都からも近くて良い土地ばかりなので、どの土地を割り当てられてもそれなりの収入を見込める。ユリウス王子の子孫を引き留めるには良い材料かもしれない。


「良い考えだと思いますわ」

「ありがとう、ライラが賛成してくれて安心したよ」

「ユリウス王子の子孫が国から減ると、ノア様にとっても不都合ですもの」


 いくら子孫を帝国に集めたところでノアを呼ぶことはできないけれど、国から子孫が大勢いなくなればノアが受け取る祈りが減ってしまう。

 アウリスもそれについては、理解するようにうなずく。


「それで土地の権利書などが必要なんだけど、執事長に聞いたらライラでなければわからないと言われてね」

「えぇ、存じておりますわ」


 ついに鍵を渡す時がきたようだ。ライラは服の中にしまい込んでいたネックレスを引き出して、首から外した。

 四年間ずっと身につけていた父のネックレス。手元からなくなるのは少し寂しいと思いつつも、アウリスにそれを手渡す。


「そちらが隠し部屋の鍵になっておりますの。鍵穴はこちらですわ」


 ライラはソファーから立ち上がると、アウリスを連れて本棚の前へと移動した。

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