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68 ノアとライラの関係7

 シーグヴァルドとの話し合いが終わり、ライラはオリヴェルと共に離宮へと戻った。


 帰る道すがら、シーグヴァルドと話した内容をオリヴェルに伝えたので、明日はまた国王や公爵達を交えて話し合いが必要そう。

 国内での政略結婚で解決できないとなると、国王はどのような判断を下すのか。考えただけも憂鬱になってくる。

 オリヴェルは、あまり心配するなと慰めてくれたけれど、ライラの不安は尽きない。


「ノア様~!」


 離宮の入り口に立っているノアを見つけたライラは、駆け寄ってノアに抱きついた。

 今日はノアに政略結婚を断られたので顔を合わせにくいと思っていたけれど、やはりノアの元にいるのが一番安心できる。

 そう思いながら見上げてみると、ノアは微笑みながらライラの頭をなでた。


「疲れたか?」

「えぇ。精神的に少し……」


 そう伝えると、ノアから回復時の心地よさが伝わってくる。彼の優しさはいつもこの回復に込められているようだ。

 ライラが肉体的、精神的に疲弊している時はいつもノアが癒してくれるのが嬉しい。


「ノア様、聖域をお散歩したいですわ」


 今は、ノアと二人きりでいたい気分。

 明日の話し合いの結果次第では、ノアと離れ離れになるかもしれないのだから。


 オリヴェルと別れの挨拶をしたライラとノアは、すぐに神殿へと戻った。




 神殿から外へ出ると、夜空には銀砂を散りばめたような無数の星が瞬いている。ここは王都や領地よりも星が綺麗だ。

 その星空の下では、聖域の森やコスモス畑に小さな灯りがいくつも漂っていて、様々な動きをしている。

 先ほど賓客用の道にあった精霊を模した灯りを綺麗だと思ったけれど、やはり本物は桁違いに幻想的だ。


 その中をノアと散歩しよう思ったけれど、ノアはライラを抱き上げると空へと舞い上がる。


「ノア様?」

「地上を歩くと、精霊達がうるさいのでな」


 精霊達はいつもライラ達を見つけては、少し離れたところからひそひそ話をしている。

 ライラはもっと精霊達と仲良くなりたいけれど、近づく精霊はノアが追い払ってしまうのだ。

 聖域に住み始めて四年ほど経つけれど、未だにノアと精霊達の関係がよくわからない。


 ライラは小さく笑いながら眼下に広がる聖域の森を見渡す。木々に宿っている精霊達の灯りがまるで星空のようだ。


「ライラが夜に散歩を提案するのは珍しいな」

「こういった機会も、もしかしたら何十年もお預けになるかもしれませんもの……」


 そう呟くと、ノアは眉間にシワを寄せてライラの顔を覗き込む。


「それは帝国へ嫁ぐという意味か?」

「まだ決まっていませんけれど、そうなると思いますわ」


 それからライラは、ノアにシーグヴァルドとの話し合いの内容を伝えた。

 戦争を回避するには、ライラが人質として帝国へ嫁ぐ必要がある。その事実も付け加えると、ノアは考え込むように黙ってしまった。

 彼の羽から舞い散っている鱗粉のようなものが、幻想的でありながらも儚く思える。


「……ライラは、皇太子と結婚したいのか?」

「わたくしだけの意見で決められることではありませんわ」

「俺はライラの気持ちを聞いている」


 いつになく真剣な表情のノア。

 人間同士の問題に干渉しない姿勢を見せてきた彼にとっては、珍しい態度だ。

 けれどライラの気持ちを話したところで、ノアに負担をかけてしまうだけ。

 ライラが黙っていると、ノアは続ける。


「俺の言葉を忘れたのか? ライラの一生を俺に預けてくれと言っただろう。ライラが俺の傍にいてくれるのなら、帝国から国を守るくらいしてやる」


『俺はライラを大切に思っている。俺に一生を預けてくれないか』


 四年前、ノアに助けられて種を渡された際に言ってくれた言葉。

 あの時は従属契約だと勘違いしたけれど、今なら単純にライラを傍に置きたかったのだと、日々感じる彼の愛情からも理解できる。

 その愛情がどういった類のものかまではわからないけれど、ノアはこれからもライラと一緒にいたいと思ってくれているようだ。


 昼間は『ライラの人生は、ライラが決めれば良い』と突き放すようなことを言っていたけれど、本心はそうではなかったのかもしれない。

 もしかしたら、オリヴェルが指摘してくれた『政略(・・)でなければ?』の答えも、今のノアなら話してくれるだろうか。


 そんな思いも浮かんだけれど、ライラはノアが置かれている状況を思い出した。


「……けれど、ノア様は人に危害を加えられないのでは」

「ライラが考えるべきはそこではない。これからも俺と一緒にいたいのか、それとも帝国へ嫁ぎたいのか。どちらだ?」


 シーグヴァルドと一緒にいるのは楽しいけれど、それは友人としてのこと。自分の気持ちだけを考えるなら帝国になど嫁ぎたくない。

 それに、ライラはもう気がついてしまったのだから。ノアを好きだという気持ちを抱えたまま、何十年も会えないのは辛すぎる。


「……ノア様と、一緒にいたいですわ」


 気持ちを伝えるのは正しい選択だろうかと不安に思いなが、ノアの服をぎゅっと掴む。

 しかしノアは、後ろの星空に負けないほどの笑顔を向けてくれた。


「後は俺に任せろ。ライラは疲れただろう、ゆっくりと眠っていてくれ」


 ノアの言葉と共に、ライラのまぶたは急に重くなり始める。


「ノアさま……だめ……」


 強制的に眠らせようとしているのだと気がついたライラは何とか言葉を発したけれど、ノアに届いたのかよくわからないまま深い眠りへとつくのだった。

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