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67 ノアとライラの関係6

 ノアは信者の祈りによって力を得ている。ユリウス王子の子孫からはより多くの祈りを得られると、ノアから聞いたのは四年前。

 それまではオリヴェルもその事実を知らなかったようなのに、帝国がそこまでの情報を得ていたことに驚きを隠せない。


 この国では徹底してノアに関する情報を隠し続けてきたけれど、帝国は何百年も調査し情報を蓄積してきたのだろうか。帝国の執念深さが恐ろしく感じられる。


 ライラは落ち着くためにお茶を飲もうとカップに手を伸ばしかけたが、その手に力が入りそうにないと気がつき、手を膝の上へと戻す。


「お答えできませんわ」

「そうだろうね」

 

 平常心を保ったつもりのライラだけれど、上手くできていたかわからない。

 シーグヴァルドは気分を害する様子もなく、言葉を続ける。


「現皇帝は、直系のアルメーラ家を皇族と結婚させれば、精霊神を帝国に呼び寄せられると思ったんだ。けれど、縁談を断られたのでアルメーラ家の排除に舵を切った」


(あっ……、帝国は勘違いをしているのだわ)


 帝国は、アルメーラ家がノアに力を与える能力を、代々継承しているように思っているようだ。

 本当は信者からの祈りで力を得ているし、ノアは聖域にある神殿に宿っている。いくらアルメーラ家の者を帝国に集めたところで、ノアを帝国に呼べるわけではない。


「では、アルメーラ家を排除するために叔母様を利用しましたのね」

「うん。彼女は先帝の隠し子なんだ」

「えっ……?」


 それはアウリスも知り得ていない情報だ。叔父と叔母はそれが原因で、ライラの祖父母から結婚を認められなかったのかもしれない。

 きっとそれに関する重要書類は隠し部屋にあるのだろう。未だ、アウリスに隠し部屋の鍵を渡していなかったことを、ライラは悔む。


「けれど彼女は失敗した。それどころか、神にも等しい存在などというものまで生み出してしまった。現皇帝はそれに激怒し、直系ではないアルメーラ家にまで手を出そうとしたんだ。それはさすがにやりすぎだと思って、俺がオルガを妃に迎えることにしたんだよ」

「シグは、お義姉様を救ってくださいましたのね」


 他国の王子妃を奪うなんてシーグヴァルドらしくないと思っていたけれど、彼には彼なりの理由があったようだ。

 自分の中にあるシーグヴァルドの印象が崩れなかったことに、妙な安心感を得つつ微笑みかけると、彼はやや申し訳なさそうに微笑み返す。


「俺自身も打算があったんだけどね」

「打算?」

「帝国は、アルメーラ家の直系に精霊神を留まらせる力があると思っているけれど、俺は子孫の数が重要だと思っているんだ」


 ユリウス王子の子孫が大勢いたほうが、ノアは多くの力を得られる。そういった意味では、シーグヴァルドの考えは的を得ている。


「子孫を集めるために、わたくしとも結婚を?」

「それもあるけれど、現皇帝はライラの排除を諦めていない。今は俺がなだめているけれど、それもいつまで持つか。結婚は、ライラを守るためでもあるんだよ」


 そこまで話したシーグヴァルドは、じっとライラを見つめる。単なる無表情とは違う真剣さが伝わってくるようだ。


 帝国の利益を考えつつも、皇帝のように利用するためだけではなく、シーグヴァルドはライラを助けようとしてくれている。

 それを全て信じるわけにはいかないけれど、彼からは初めて会った時のような誠実さが伝わってきた。


「ライラ、俺と結婚してよ。五十年が嫌なら、現皇帝の寿命が尽きるまででも良いよ」

「心配してくださるのは嬉しいですけれど、わたくしのことならノア様が守ってくださいますわ……」

「帝国はこの国が知り得ない方法で狙ってくる。仮にそれを精霊神が阻止できたとしても、戦争はどう? 慈悲深い精霊神が人を殺めるとは思えないな」


 確かにそうだ。ライラ一人ならノアが守ってくれるだろうけれど、戦争となれば話は別。それを回避するために国内での政略結婚の相手を探していたのだから。


 けれど、政略結婚は皇帝の意思を知らなかったから考えられた作戦。

 国内での政略結婚によってシーグヴァルドは引き下がるかもしれないけれど、皇帝はどうだろう。

 シーグヴァルドの話を聞いたライラには、国内での政略結婚など無意味に思えてならない。


「……すぐには結論を出せませんわ」

「俺が帰国するまで、ゆっくり考えて。けれど、これだけは忘れないで。俺はただ、平民に紛れて祭りを楽しめるライラが好きなんだよ」


 シーグヴァルドは箱からお菓子を一つ取り出すと、わずかに微笑みながらそれをライラに差し出す。

 彼にとっても、あのわずかな時間が楽しい思い出になっていたようだ。そのことが素直に嬉しく感じられる。

 ライラはお菓子を受け取りながら、にこりと微笑んだ。


「わたくしも、お祭りを楽しんでいたシグが好きですわ」

「俺達、両想いだったんだね」

「ちっ……、違いますわっ、今のは友人としてですの!」

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