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65 ノアとライラの関係4

 またしてもノアに助けを求めたい状況に陥っているけれど、今はノアとも顔を合わせにくい。

 どのみち自分自身で解決しなければならないと思ったライラは、オリヴェルの後ろから二人の横に出る。

 その動作に気がついた二人は言い合いを止めて、ライラに注目した。


「心を開いて欲しいとおっしゃるなら、シグもわたくしに説明してくださいませ」

「なにを?」

「なぜ、妃として迎えたいのか。それから、わたくしの両親について」


 本当にアルメーラ家とノアの関係について帝国が情報を得ているのなら、排除するのではなく妃として迎える意味を知りたい。

 それに両親について、少しでも情報が欲しい。昨日アウリス達と話したことは、ほとんどが推測にすぎないのだから。


 ライラが緊張しながらシーグヴァルドを見つめていると、彼は微かに表情を緩めた。


「そうだね。ライラには事情を話したほうが、俺の妃となる決意が固まるかもしれない」


 優しい声を発したシーグヴァルド。それからオリヴェルに視線を向けた時には、無表情に戻っていた。


「けれど部外者には聞かせられない」

「ライラちゃんを他国の者と二人きりにはさせられません」

「オリヴェル様! わたくしは大丈夫ですわ。シグと話をさせてくださいませ」


 身の危険があればノアが助けてくれる。それはオリヴェルもじゅうぶんに理解しているはずだ。

 オリヴェルは少し悩む仕草をしたけれど、二人きりで話すことを了承してくれた。




「誰にも聞かれたくないから」と、シーグヴァルドと共に夜会会場を出たライラとオリヴェル。

 三人は、シーグヴァルドが滞在している賓客用の宮殿へと足を向けた。


 宮殿へ続く道には、ぽつりぽつりと小さな灯りが設置されている。

 この国が誇れるものは何と言っても精霊神なので、精霊が飛び回っているような雰囲気を演出しているのだとか。

 本物の精霊を見たことがあるライラでも、幻想的で綺麗だと思える。

 うっとりと眺めていると、隣でオリヴェルがシーグヴァルドに声をかけた。


「帝国の宮殿はさぞかし豪華なんでしょうね」

「豪華さでは帝国のほうが勝るけれど、ここでは異国の雰囲気を楽しませてもらっているよ」


 先ほどまでの二人は険悪な雰囲気だったのに、今は気軽に雑談を交わしている。

 普通に会話しているシーグヴァルドは、お祭りで会った『シグ』のようだ。

 穏やかに露店のお菓子を食べて喜んでいた彼のほうが、本当の彼だと良いのに。


 そんなことを思いながら彼が滞在している部屋へと到着すると、シーグヴァルドとライラの後に続いてオリヴェルが一緒に部屋へと入ってきた。

 それに気がついて振り返ったシーグヴァルドは、オリヴェルの前に立ちはだかる。


「俺はライラと二人で話したいんだけど?」

「やっぱり駄目でしたか。親しくなるには時間が足りませんでしたね」


 どうやらオリヴェルが気軽に話しかけていたのは、ここへ入り込む隙を狙ってのことだったようだ。

 彼らしい作戦にライラは思わず笑みをこぼす。


「ふふ。あまり心配しないでくださいませ。シグはひどいことをするような方ではありませんわ」

「ライラちゃんは純粋すぎるからなぁ……。扉の前にいるから、何かあったらすぐに叫んでよ」

「わかりましたわ」


 心配な顔をしつつも出ていくオリヴェルを見送ったライラ。心配をかけないためにも、しっかりしなければと気を引き締めた。

 話を始めてもらおうと思いシーグヴァルドに振り返ると、彼は意味ありげに微笑む。


「本当にライラは純粋だね。男の寝室へ、一人でのこのこ入るなんて驚いたよ」

「シグ……まさか……」


 思わず一歩後ずさったライラを見て、シーグヴァルドは小さく笑い始める。

 表情が乏しい彼にしては楽しそう。こんなふうにも笑えるのだと、身の危険も忘れてライラは魅入ってしまった。


「冗談だから、安心して座って。ライラに飲ませたいと思っていたお茶があるんだ。少し待っていて」


 ライラをソファーに座らせながらそう提案したシーグヴァルドは、淡々とした口調だけれど心なしか嬉しそうに聞こえる。

 彼は皇太子とは思えぬ慣れた手つきでお茶の準備をしていくけれど、平民に紛れてお祭りを楽しんでいた彼を思い出すと、違和感はさほどない。


 出されたお茶を一口飲んだライラは、顔をほころばせた。


「とても美味しいお茶ですわ。それに、お花のような良い香りがしますわね」

「これは茶葉に、帝国でしか咲かない希少な花を混ぜて香りを移すんだ。皇族しか飲めないお茶なんだよ」

「まぁ! 貴重なお茶を飲ませていただけましたのね。ありがとうございます、シグ」

「少しでも帝国に興味を持ってもらえたらと思って」


 シグは続いて「お茶菓子もどう?」と言いながら、箱を取り出す。

 お皿に乗せずにそのまま箱を開いてテーブルに置いたけれど、それがシーグヴァルドらしくも感じられる。

 どんなお菓子だろうと箱を覗いたライラは、懐かしさと、妙な嬉しさがこみ上げてきた。


「気に入ってくださいましたのね、そちらのお菓子」

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