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61 ノアと三年後9

「すまないライラ……。ライラの両親がどのような目的で視察へ出かけたのかは知っていたが、俺は人間に干渉できないから、どうしてやることもできなかった」


 ノアは四年前、ライラの誕生日に両親を助けられなかったと話してくれた。

 あの時は、この国の守護神だから国を出て両親を助ける事ができなかったと話していたけれど、そういった事情で事前に回避することもできなかったようだ。

 両親の事情を知っていながら手出しできなかったノアは罪悪感を抱いているようだけれど、ライラは彼を責めるつもりなど微塵もない。

 ノアを安心させるように、ライラは彼の背中をさすった。


「ノア様のせいではありませんわ。人の事情は人が解決しなければなりませんもの、ユリウス王子は子孫に対して正しい判断をしてくださったと思いますわ」


 生贄となったユリウス王子との約束で、ノアは様々な制約を受けている。

 もしそれがなければ優しすぎるノアによってアルメーラ家は、人では太刀打ちできないほどの優遇を受けていただろう。

 ユリウス王子は人に対して、平等な判断をしたのだ。


「それに両親は、本当に事故だったという可能性もありますわ」

「そうだね、憶測だけで帝国に対して憎悪を向けるのは良くないよ。今はライラちゃんの結婚をどう回避するかを考えなければ」


 オリヴェルはそう言いながら時計を確認して「もうこんな時間か……」と呟いた。


「ライラは疲れただろう? 今日はもう神殿へお帰り。結婚についての話し合いは明日しよう」


 アウリスに促されたので、ライラはノアと共に神殿へ戻ることにした。




 ライラとノアがサロンを出た後、二人きりになったアウリスとオリヴェル。

 アウリスは突然表情を変えると、オリヴェルの胸ぐらに掴みかかった。


「ちょっ、いきなりなんだよアウリス!」

「ライラと結婚なんて、絶対に許さない」

「それはお前が決めることじゃないだろう。王子なら国の平和を第一に考えろよ」

「うるさい。ライラがいない人生なんて地獄にいるようなものだ……」


 アウリスは突き放すようにオリヴェルを放すと、うなだれるようにして両手で額を押さえる。

 衝動的すぎるアウリスの態度に、オリヴェルはため息をついた。


「帝国に取られるよりはマシだろう? それとも、まだライラちゃんとの結婚を諦めていないわけ?」

「…………」

「そんなに心残りなら『子供の母親』になんて言い訳せずに、想いを伝え直したらいいじゃないか」

「……本心を打ち明けてライラに受け入れてもらえなかったら、俺はもう生きていけない」

「お前は何が起きようとも、前を向いて歩ける人間だと思っていたんだけどな……」





 ノアに抱きかかえられて神殿に運ばれたライラは、魔法陣の上に広げられている絨毯の上に下ろされてほっと息を吐いた。


「ノア様ありがとうございます。けれど、わたくしをもう少し歩かせなければ太ってしまいますわよ?」

「ライラは太っても可愛いだろう……」

「そのような誉め言葉は、嬉しくありませんわ」


 わざとらしくライラが頬を膨らませてみたけれど、ノアはその膨らんだ頬を両手で包み込んだままライラをじっと見つめるだけ。

 先ほどのことでまだ気分が沈んだままなのだろうかと、ライラは心配になった。


「ノア様、両親のことで責任を感じないでくださいませ」

「あぁ……」

「それとも、わたくしの結婚問題が気がかりですの?」

「……ライラを他のやつの嫁にはやりたくない。だがライラの事情は重視するつもりだ」


 どうやらノアは、ライラの結婚には反対のようだ。けれどこれまでの彼の考え通り、ライラの人間としての役割を阻害するつもりもないようみえる。

 ライラが公爵邸で女主人の役目を果たすことに賛成してくれたように、結婚すると決めたら賛成してくれるのだろう。


「今回は国同士の問題ですので、わたくしの気持ちだけでは決められませんわ。帝国との関係を崩さずに、ノア様の従者を続けられたら良いのですけれど……」


 いくらノアを最優先にしたいと思っていても、国に危機が迫っているのならそうもいかない。

 ライラがそう伝えると、ノアはしばらくライラを見つめてから口を開いた。


「ライラが望まぬ役目まで、背負う必要はない。いくらでも俺を頼って良いから……」


 ノアは憂いに満ちた表情でそう呟くと、ライラに顔を寄せてきた。

 頬に触れている彼の手から想いの熱さが伝わってきたせいか、ライラの顔も熱く感じられてくる。


 今まで何度となくノアの想いの熱さを感覚として味わい、そのたびにどきどきさせられてきた。けれど、こんな表情でライラに顔を寄せてくるノアは初めてだ。


(まっ……待ってくださいませ!)


 ライラは慌ててノアの両手首を掴むと、彼の手から開放された自らの顔を、隠すように下に向ける。

 ノアの手は頬から離れたというのに、火を噴きそうなほど顔が熱い。


「わっわたくし、本日は自室で休ませていただきますわ!」

「待てライラ! 魔法陣の上で休んだほうが疲れが取れるだろう」

「今日は疲れておりませんわぁ~!」


 逃げるように神殿の儀式場を出たライラは、自室へと駆け込みベッドにもぐりこんだ。

 頼るもなにも、あんなことをされたら明日からノアと顔を合わせられる自信がない。


(ノア様は、口づけしようとしたのかしら……)

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