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60 ノアと三年後8

 離宮のサロンへ移動した四人。ノアとライラが座った向かい側に、アウリスとオリヴェルが腰を下ろした。

 先ほどまでの話をアウリスがノアに話して聞かせてから、さらにこれまでに知り得た情報を話していく。


「そもそもの発端はライラの叔母が処刑される際に、ある言葉を発したのが気になったからなんだ」

「処刑時に? そんな情報は当主からも聞いていないけれど」


 オリヴェルは訝し気にアウリスを見る。オリヴェルの家であるマキラ公爵家は国の騎士団を総括している。

 叔母の処刑もマキラ公爵が主導しおこなわれたので、叔母が言葉を発したのならば近くで聞いていた騎士によって報告が上がっているはず。

 アウリスはオリヴェルを見て、納得したような表情を浮かべる。


「やはりあれは口が動いただけで、言葉にはなっていなかったんだね。後日問題にならなかったから、俺の思い過ごしかと思って今まで誰にも言わずにいたんだ」

「叔母様の件と両親が関係しているかもしれないとお義兄様が思われたのは、その言葉のせいですのね?」


 墓地で尋ねられた時のアウリスは、なんとなく引っかかっているというような雰囲気だった。

 ライラがそう尋ねるとアウリスはうなずく。


「うん。処刑される直前、公爵夫人は『帝国の光』と発したように見えたんだ」

「帝国の……」


 ライラは心臓が嫌な動きをするのを感じて、思わずノアの腕にしがみついた。

『帝国の光』とは、皇帝を賛美する言葉として帝国人がよく使うと聞いている。

 叔母が人生の終わる瞬間にそのような言葉を発したとするならば、帝国と大きく関わっていたという証拠になる。

 先ほどは帝国が両親を殺そうとしていた疑念が湧いたけれど、ライラ自身も帝国によって殺されそうになっていたのだろうか。

 血の気が引く感覚に襲われていると、しがみついているノアの腕からじんわりと回復時の心地よさが伝わってくる。ノアが度々ライラに施してくれるこの回復の力は、単純に身体を癒すだけではなく心を落ち着かせる効果もあるのだと、この四年間で知った。


「恐れることはない。ライラのことは俺が必ず守る」

「ノア様……」


 ノアは、ここぞという時は必ず助けてくれる。ライラが漠然とそう思えるほどに、ノアとライラとの間には絆ができている。

 気持ちがあっという間に落ち着いていくのを感じながら、ライラはアウリスに視線を移動させた。

 アウリスは険しい表情をしていたが、ライラと目が合うと表情を緩める。


「それでライラの両親とも何か関係があるかと思って、ライラに聞いてみたんだよ。両親が亡くなってからライラが狙われるまでの手際が良すぎたしね」

「一連の出来事は、シグの策略だったのかしら……」


 シーグヴァルドはライラとの結婚が叶わず、両親とライラを殺そうとしてライラについては失敗した。

 そこで方針を変えてオルガを妃に迎えたということなのだろうか。

 アルメーラ家を帝国に引き入れたい様子だったので、オルガと結婚した理由はそれで納得できるけれど、方針がちぐはぐすぎる。


「これは俺の推測に過ぎないけれど、両親と叔母の件は皇帝の意思に思える。『帝国の光』とは皇帝を賛美する言葉だしね」

「そういえばシグは、『現皇帝のように、人を安易に排除したりしない』と言っていましたわね。シグは皇帝とは別に単独でオルガお義姉様と結婚して、エリアスやわたくしも帝国に引き入れようとしているのかしら」

「俺もそう考えているよ。どちらにせよ帝国はアルメーラ家を特別視していて、帝国に引き入れられないのならば消し去りたいと思っているんだろう」

「なぜそこまでして、アルメーラ家を……」


 ライラが呟くと、アウリスとオリヴェルの視線はライラの隣へ向いた。


「もしかして、帝国の狙いはノア様ですの……?」

「まぁ……、帝国にとってノア様は厄介な存在だしね」


 ライラの問いに、オリヴェルは困ったように答える。

 帝国がノアという存在を排除するためにアルメーラ家へ接近しているのならば、帝国はノアとアルメーラ家の関係を詳しく把握しているということになる。


「国内でもノア様の情報は厳しく規制されているのに、なぜ帝国が……」

「帝国との関係は今に始まったことではない」


 ライラの疑問に対して、ノアは不愉快そうに顔をしかめる。


「どういうことですの……?」

「あいつらは魔獣を手なずけて戦うのが得意なようだが、俺が結界を張ったことでこの国には容易に手を出せなくなったんだ。それを何百年も恨んでいて、事あるごとに俺をどうにかしようと小細工を仕掛けてくる」


 そう告げたノアは、ライラを勢いよく抱きしめた。

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