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57 ノアと三年後5

 しかしノアに助けを求めても良いのは、物理的に危険が迫った時だけ。

 この場はなんとか、自分だけで切り抜けなければならない。

 先ほどからライラの方にばかり顔を向けているアウリスにむけて、ライラはにこりと微笑んでみた。


「お義兄様、久しぶりにお義姉様とお会いしたのですもの。話し合うことがたくさんあるのではございませんこと?」

「オルガは俺よりも、若い男と話すほうが楽しいみたいだよ。それよりも俺はライラが心配で」


 アウリスの指摘通り、オルガは王太子の息子十五歳と楽しそうに談笑している。

 王太子の息子は引っ込み思案で有名なのに、今日はどうしたのだろうとライラは首を傾げる。

 そういえば先ほど、アウリスが王太子の息子に耳打ちしていたけれど、まさかアウリスが甥にオルガを押し付けたわけでもないだろうに。


「ライラのことなら俺に任せて。アウリス殿下は、オルガと子供の引き渡しについて話しなよ」


 シーグヴァルドは完全にエリアスを引き取るつもりのようだ。それを受けたアウリスは、沈んだ表情で黙ってしまった。

 先ほどはライラが女主人を続けると伝えたことで、アウリスの不安は和らいだようだけれど、やはり息子を手放したくはない様子。

 そんなアウリスを見ていられなくて、ライラは代わりに疑問に思っていたことを尋ねてみることにした。


「シグ……、本当にエリアスを引き取るつもりですの? 後継ぎなら、シグの子供でなければなりませんわよね」


 他国の王子との間に生まれた子を引き取っても、争いの元にしかならない。

 オルガはそれでも、息子を引き取りたがっているのだろうか。

 それならもっと早くに、エリアスに会いにきてあげたら良かったのにとライラは思った。

 エリアスは母親がいないことを理解し始めているというのに。


「俺は現皇帝のように、人を安易に排除したりしない。必要な人材を集めて帝国を発展させるつもりなんだ」

「国の発展にエリアスが必要ということですの?」

「そう。アルメーラ家の人間は多ければ多いほど良いよ」


(え……)


 アルメーラ家は取り立てて何かの技術に優れた一族ではない。それなのに帝国から必要とされていることが、漠然と恐ろしい。

 そんなライラの感情を無視するように、シーグヴァルドは無表情のままでライラの手を握ってくる。

 ライラのことも欲しいと言われているような気がして、寒気を感じた瞬間――

 突然アウリスに抱き寄せられる。


「ライラはもう普通の人間ではありません。ライラのことは諦めてください」

「お義兄様……?」


 まるで何かを知っているような口ぶりでけん制するアウリス。

 対してシーグヴァルドも、平然とした態度でアウリスに視線を向ける。


「無理強いはしない、オルガも自ら帝国へきたのだから。けれど前回はこっそりやりすぎて失敗したから、今度は堂々とお願いしてみるよ」


(失敗? お願い? 二人は何の話をしているのかしら……)


 シーグヴァルドはライラに向けて小さく微笑むと、それから彼の隣に座っている国王に顔を向ける。


「国王陛下。実は今回の訪問では、帝国からお願いがあったんです」


 よく通った声でシーグヴァルドが国王に声をかけると、会場はしんっと静まりかえった。

 帝国からのお願いなど、一方的な要求に決まっている。

 貴族達も、どのような要求を突き付けられるのかと固唾を呑んで国王と皇太子に注視した。


「……お願いとは、どのようなものですかな? わが国でお役に立てることなら良いのですが」

「警戒なさらずとも、お互いの国にとって利益となることです。実はもう一人、妃を娶りたいと思っているんです。オルガは美しいけれど、未来の皇后は任せられないので」

「なんですって! わたくしのどこが不満なのよ!」


 この重苦しい空気も読まずに自己主張できるオルガは、ある意味皇后に向いているのではとライラは思った。けれど呑気にオルガを観察している場合ではない。

 貴族達もオルガの性格についてはライラ以上によく理解しているけれど、失笑する余裕すらない様子で、会場は静まりかえったままだ。


「オルガ黙って。――国王陛下、今回娶る妃は未来の皇后をお約束しましょう。これで両国の友好関係は盤石なものになると思いませんか?」

「つまり、この国から妃を娶りたいということですかな……」

「そうです」

「ありがたいお話ですが、しかし……、我が国には適任者が……」


 これが国内のことならば貴族が喜ぶ話だけれど、他国に嫁がせる娘は誰でも良いわけではない。

 この大陸においての常識では、他国の妃として送るなら国を統治している一族からと決まっている。この国ならば王家か、王家の親戚にあたる三つの公爵家。

 そしてこの国の王家と公爵家の中で、未婚の成人女性は現在ライラしかいない。


 国王はもとより、貴族達もライラに注目した。

 しかしライラは未だ、アウリスに抱き寄せられた状態。ライラは慌ててアウリスから離れようとしたが、アウリスの腕はびくともしない。


「お義兄様、皆様に誤解されてしまいますわ。放してくださいませ」

「俺の評判が落ちるだけで事を納められるなら、いつまででもこうしているよ……」

「アウリス様……」

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◆作者ページ◆

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