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56 ノアと三年後4

 わずかに微笑みを浮かべる彼は、三年ほど前にお祭りで出会った時よりも、アウリス達と同様に大人の魅力が増している。


(まさかシグが、帝国の皇太子だったなんて……)


 あの時に渡したお菓子を「初めて人からもらう」と喜んでいた彼。まさか皇太子だとは思わなかったけれど、皇太子ならば道端で人にお菓子をもらうのが初めてなのもうなずける。


 ライラが驚いて言葉を失っていると、シーグヴァルドの横に立っていたオルガが一歩前へ出た。

 オルガもまた、二十一歳となり妖艶さが増している。見た目は完全に敗北していると、ライラは少しだけ顔をひきつらせた。


「ちょっとライラ! 人の旦那様に向かって、気安く愛称で呼ぶなんて失礼だわ!」

「うるさいよオルガ。俺がライラに、シグと呼んでくれと頼んだんだ、口を挟まないでくれる?」

「ひどいですわ殿下! わたくしだってまだ愛称で呼ぶ許可をいただいてませんのに!」

「貴女とは、程よい距離を保っていたいんだ」


 盛大にため息をついたシーグヴァルド。他国の王子妃を奪った割には夫婦関係は良好ではなさそう。

 オルガ自身を気に入ったという理由で、妃にしたわけではないのかもしれない。


 そういえばライラと会った時のシーグヴァルドは、大切な人を迎えに来たと言っていた。その直後にオルガが失踪したので、あの時は彼女を迎えにきたのだろうか。

 そうとも知らずに、手土産の提案までしてしまったライラは、気まずさでいっぱいになる。


「ライラは、シーグヴァルド殿下とお会いしたことがあったのかい?」

「えぇ……。三年前のお祭りで、ぶつかってしまったとお話した彼ですわ」


 アウリスも当時のことをは覚えていたのか「あの時の……」と眉間にシワを寄せる。

 それからライラを隠すように、前へと出たアウリス。


「シーグヴァルド殿下、義妹と会われたのは身分を隠しての際と聞きました。義妹も驚いて愛称が飛び出してしまったのでしょう。どうぞお許しくださいませ」

「なぜ、アウリス殿下があやまるの? 俺はライラに愛称で呼ばれたいんだけど」

「しかし、帝国の皇太子に対して相応しくありません」

「ライラは精霊神と並び立つ存在なんだよね? 神にも等しい皇帝の息子である俺とは、愛称で呼び合う相手として相応しいと思うけど。貴方にいちいち指図されたくないな」


 相変わらず表情に乏しいシーグヴァルドだけれど、ライラに対してとは違い、アウリスに対しては威圧的に感じられる。

 初めてあった時はシグが皇太子だとは思いもしなかったライラだけれど、こうしてみるとやはり帝国の皇太子らしい雰囲気が感じられる。


「くっ……」


 帝国との力関係でこれ以上は反論できないと判断したアウリスは、悔しそうに顔を歪める。

 いつも周りの雰囲気を察して、時には王子であるにも関わらず譲歩の姿勢を見せるアウリス。そんな彼にしては珍しい態度だとライラが思っていると、シーグヴァルドが小さい笑みを浮かべる。

 そしてアウリスの前まで進むと、アウリスから奪うようにして後ろに立っていたライラの手を握った。


「そろそろ晩餐会が始まるよ、今日は俺にエスコートさせて。帝国とこの国が友好関係にあることを、皆に示さなければね」

「……わかりましたわ。シグは意外と我がままでしたのね」


 シーグヴァルドはライラと対等な立場だと思っているようなので、これくらいは許されるだろうと思い愚痴ってみたライラ。

 彼はそれには答えず「会いたかったよ、ライラ」と小さく微笑んだ。





 こうして始まった、晩餐会。

 シーグヴァルドがライラをエスコトートしてしまったせいで、アウリスはオルガをエスコートしなければならず。

 会場は今、修羅場を見守る貴族達によって大変微妙な空気が流れていた。


 よりによって席順もひどいもので、シーグヴァルド・ライラ・アウリス・オルガと並んでいるのだ。

 本来なら賓客である皇太子妃のオルガは、国王の隣に席が設けられるべきなのに、国王はアウリスにオルガを押し付けた形となっている。

 勝手に皇太子と結婚したオルガを、客として扱うつもりはないという意思表示なのだろう。

 帝国の怒りを買いそうな行為ではあるけれど、シーグヴァルドは気にしていないようだ。


「シグ、こちらの前菜にはこちらのソースがよく合いますのよ」

「本当だ、ライラが勧めてくれる食べ物は何でも美味い。俺達は気が合うね」

「そちらはライラの好きなイチゴがベースのソースなので、俺が注文しておいたんです」

「へー。それよりもライラ、これはなんていう料理?」


 なんとか雰囲気を良くしようと思い、ライラがシーグヴァルドに話しかけているのに、なぜかアウリスが口を挟んでくるので雰囲気が一向に良くならない。

 ライラはノアに助けを求めたいほど困っていた。

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