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45 ノアとお祭り5

 アイスを食べ終えたライラとノアは、広場の露店を見て回ることにした。

 すっかり日も暮れたお祭り会場は、色とりどりのランタンの灯りが賑やかな雰囲気を増している。

 このランタンは精霊を表現しているという。ライラが見た精霊達も、遠くから眺めるとこのように丸い光に見えていた。


「もしかしてこちらのランタンは、お祭り初期からありましたの?」

「あぁ。ユリウスの妻に精霊らしい雰囲気が欲しいと相談されて、ユリウスと俺で考えたものだ」


 長い年月を経て、お祭りが始められた経緯などは忘れされられてしまったようだけれど、こうしてノア本人から当時のことを聞けるのは嬉しい。

 精霊祭りは、精霊神みずから立ち上げに参加したお祭りだったようだ。


 このお祭りは、食べ物を売っている露店が多いけれど、各地から集まった行商人による珍しい物を集めた露店も各所にある。

 たまに国外の貴重な品も入手することができるので、貴族も多く足を運ぶお祭りだったりもする。

 ライラが毎年楽しみにしているのは、精霊のぬいぐるみや人形が売られている露店。

 可愛いものから芸術的価値があるものまで、幅広くいろいろな店で売られているので、見るだけでもとても楽しい。


「ノア様に似た雰囲気のお人形がありますわ」


 たくさん売られている人形の中に、若葉色の髪と黄金色の瞳が可愛い人形を見つけて足を止めたライラ。

 神話や聖書にて、ノアの髪色や瞳の色は語られているのでノアに寄せた人形は多いけれど、この人形は顔も何となくノアに似た雰囲気がある。


「ふむ。確かに似ているな。だが、ライラに似た人形のほうが多いぞ」

「え?」


 全く意識していなかったライラだが、改めて人形を見回すと今年は妙にライラっぽい雰囲気のものが多いと気がついた。

 もしかして成人の儀を見た職人が、この人形を作ったのだろうか。

 思わぬところで自分が影響を与えていたようで、ライラは恥ずかしくなった。


「俺はどの人形よりも、ライラが一番可愛いと思うがな」


 恥ずかしいと思っていたところに、耳元でそんなことを囁くノア。


「からかわないでくださいませ……」


 相乗効果で顔まで熱くなってしまったではないかと思いながら、ライラはノアに見られないよう顔を逸らしたが――

 逸らした先にあった露店の商品に、目が釘付けになってしまった。


「ライラ……、あのイチゴは食べられないぞ」

「わっ……わかっておりますわ。少し気になっただけですのよ」

「ならば、もっと近くで見てみよう」


 ノアはライラの肩を抱きながら、隣の露店へと誘導する。

 先ほどから手を繋いでいても人混みで離れそうになっていたので、肩を抱かれるとノアに守られているような気分になる。


「ライラはどのイチゴが美味そうに見えるんだ?」

「ふふ。そうですわね、こちらのブローチが美味しそうですわ」


 ノアが変な聞き方をするので、笑いながらブローチを指さしたライラ。艶やかなイチゴに葉っぱと花が添えられた可愛いブローチだ。


「店主、このイチゴのブローチを二つくれ」


 まさかノアが購入するとは思わなかったが、二つもどうするのだろうと首を傾げたライラ。


「ノア様もイチゴがお好きでしたの?」

「オリヴェルが、デートではペアの記念品を買うものだと言っていた。どうせならライラが気に入った物をと思ってな」


 どうやらノアはまた、オリヴェルの偏った情報に惑わされているようだ。

 オリヴェルの助言を粛々と実行しているノアの姿が可愛くて、ライラは小さく笑みをおこぼした。


「ノア様、そちらの情報は少し不足しておりますわ。ペアの記念品はお互いに贈り合うほうがより記念になりますのよ。ノア様の分はわたくしから贈らせてくださいませ」


 ライラもお金を支払い、それぞれにイチゴのブローチを購入した二人。

 お互いの胸にブローチをつけ合うと、ノアは嬉しそうにブローチを見下ろした。


「ライラの言う通り、お互いに贈り合うほうが嬉しいな。ありがとうライラ、大切にするよ」

「こちらこそ素敵な贈り物をありがとうございます。大切に使わせていただきますわ、ノア様」




 それからライラとノアは、広場の中央で始まったダンスに参加してみた。

 これもオリヴェルから誘うようにと、助言を受けていたようだ。


「貴族のダンスとはずいぶんと違うな……。これで合っているのか?」

「こういったダンスは、雰囲気を楽しめば良いのですわ」


 ライラも実は、お祭りでダンスを踊るのは初めての経験。

 今までは王子の婚約者として、相応しい振る舞いをしなければならなかったライラ。平民に紛れてダンスを踊るなんて、もってのほかだった。

 幼い頃からずっとそのように育ったので苦痛に感じたことはなかったけれど、ノアといると知らなかった世界が開けたようですごく楽しい。

 これから先の長い人生、ノアと楽しく生きていけたらそれだけで幸せだ。

 ライラが改めてそんなことを思っていると、視界の端から視線を感じたのでそちらに顔を向けてみる。


 そこにはアウリスが一人で、じっとこちらを見つめているのが見えた。


 オリヴェルの姿は見えない。一緒にお祭りを楽しんでいると思っていたけれど、そうではなかったようだ。

 アウリスはライラと目が合ったというのに、にこりともせずに見つめたまま。

 いつもとは雰囲気の違う彼の視線に耐えられなくて、ライラはノアの陰に隠れた。


「どうしたライラ?」

「あの……、アウリス様を見かけたもので。そろそろ皆様と合流する時間ではありませんこと?」

「そうだな。名残惜しいが……、またデートしてくれるだろう?」

「えぇ、もちろんですわ。楽しい時間をありがとうございました、ノア様」


 ノアと一緒にアウリスの元へ向かうと、アウリスはいつもの優しい雰囲気で迎えてくれたのだった。

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◆作者ページ◆

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