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37 ノアと領地へ5

「そうでしたの。どうりで不思議な仕組みだと思いましたわ」


 この隠し部屋は異空間に繋がっているという。鍵はこのペンダント。どうみても鍵には見えないけれど中央にはめられている石は、宝石ではなく魔石だと父から聞いている。


 本棚の本を何冊か取り出したライラは、その奥にペンダントをはめ込む場所を確認した。


「わたくしはまだ隠し部屋には入ったことがありませんが、こちらにペンダントをはめ込むのですわよね?」

「あぁ、一人で入れば隠し書斎に、二人で入れば別の場所にたどり着く」

「そのような仕掛けが……、両方とも見てみたいですわ!」


 大切な物を保管しておく場所という認識でいたけれど、思いのほか不思議空間のようだ。

 ちょうどここには二人いるしと、ライラは期待の眼差しをノアに向けたけれど――


「残念ながら俺は入れないんだ。俺から神話を隠すために作らされた部屋だからな……」

「どういうことですの?」

「原本は複製品よりも詳しく書かれているんだ……」


 そういえばノアは以前に、「神話は燃やしておくべきだった」と言っていたことを思い出したライラ。

 どうやらノアは、自分の過去を詳しく知られるのが嫌なようだ。

 神話が大好きなライラとしては原本を是非とも読んでみたいけれど、ノアの許可なしに読むのは気が引けるので、残念ながら今日は叶いそうにない。


 ライラは気を取り直して、ペンダントを本棚の奥に埋め込んでみる。

 すると本棚は消え、水の膜のようなものが本棚があった辺りを覆う。


「それでは行ってまいりますわ!」

「その中は異空間なので時間の感覚がなくなる。長居しすぎないよう気をつけてくれ」

「わかりましたわ。調べ物をしてすぐに戻ってまいりますね」


 ライラはおそるおそる水の膜に手を伸ばす。手に触れたと思ったけれど、特に感触はないようだ。そのまま目を閉じながら、一気に水の膜を通り抜けた。


 ――そっと目を開けてみると、見知らぬ書斎が目に飛び込んでくる。ノアが説明してくれた通りに、ライラは隠し書斎へとたどり着いたようだ。

 壁一面に本棚があり、本がびっしりと詰まっている。そして部屋の中央には書斎机が一つだけという、わりとシンプルな空間。

 辺りを見回してから、ライラは書斎机に座ってみた。ライラが座るには少し大きくゆったりとした椅子は、父が愛用していたことを感じられる心地よさだ。


(お父様はこちらでも、お仕事をしていたのかしら)


 綺麗に整頓されている机の上は、父の性格を表現しているよう。頻繁に使うであろう紙とペンの他には、砂時計がいくつか並べられている。

 長居しすぎないよう、時間を計るのに使っていたのだろうと思ったライラは、一時間用の砂時計をひっくり返した。


 それから引き出しを開けて情報となるものがないかと探し始めると、手紙が入った引き出しの中に一枚だけ封筒に入っていない手紙を見つけた。

 気になったライラは、それを開いて読んでみたが――


(えっ……。わたくしを……、妃に?)


 手紙には短く『ライラ・アルメーラ嬢を、妃に迎えたい』と記されている。

 まるでメモのような手紙は、どう考えても公式に送られたものではないけれど。父がわざわざ隠し書斎に残してあるということは、実際にどこかからきた打診なのだろうか。


 あまりに簡素な手紙なので、いまいち自分のこととしての実感が湧かない。

 ライラは引き出しにある全ての手紙を取り出して一通ずつ確認してみたけれど、その手紙に関連するような手紙は見つけられなかった。


(事件と関係あるかわからないけれど、アウリス様に報告はしたほうが良さそうね)


 その他の引き出しには、これといって事件に関連しそうなものは見つけられず。砂時計を確認してみると、砂の残りが後わずかだったので部屋をでることにした。

 さほど長くいたようには感じられなかったライラだけれど、ノアの助言通り異空間は時間の感覚がなくなるようだ。





 翌朝。ライラは久しぶりに自分のベッドで目覚めを迎えていた。慣れ親しんだ部屋での目覚めだけれど、あの頃とは景色が違う。

 公爵邸を出たあの日以来、ライラが目覚めると必ずノアがいて目覚めの笑顔を見せてくれる。


「おはようございます、ノア様」

「おはようライラ、ほら――」


 そして毎日のように、目覚めのイチゴを食べされてくれるのだ。

 朝から完全に甘やかされているけれど、ノアの好意を無下にはできない。ライラはこの瞬間だけは、素直に応じることにしている。


(決してイチゴが食べたいわけではないわ。ノアの気持ちを断るなんて、失礼だもの)


 ライラの目覚めは、言い訳から始まる。


「美味いか?」

「はい。わたくし、朝から幸せですわ」


 ライラがにこりと微笑むと、ノアも嬉しそうにライラを抱きしめる。

 二人にとっては毎朝のやり取りだけれど、ここは公爵邸。


 顔を洗うためのお湯をライラの部屋に運んできたメイドは、二人の姿を目にして盛大な悲鳴を上げた。

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