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32 アウリスの捜査の結果

◆アウリス視点です

処刑シーンなどがありますので、こちらは飛ばしていただいても結構です。

 オリヴェルに話した通り、公爵夫人の取り調べは順調に進んだ。


 夫人は元々、アルメーラ公爵家を恨んでいたようだ。

 公爵家の次男と結婚したのに本家からの援助が何もなく、夫は公爵家に関わる仕事も与えられなかった。つまり、勘当も同然の扱いを受けていたようだ。

 ライラも、両親の葬儀の際に久しぶりに叔父一家と会ったようなことを言っていたので、親戚付き合いはほとんどしていなかったようだ。

 ライラの叔父にも話を聞いてみたアウリスだが、その件についてはあまり話したくないのか、親に反対された結婚だったとしか述べなかった。


 公爵家を恨んでいた夫人は、夫が中継ぎとして公爵位を得たことで、公爵家の乗っ取りを計画した。

 ライラさえ消してしまえばと思い、毒を盛り衰弱に見せかけて殺害しようとしたらしいが、アウリスには引っかかる点があった。


 夫人がライラに毒を盛り始めたのは、彼女らが一緒に住み始めてすぐの頃。

 それほど短期間で、計画の準備をするのは不自然だった。


 ただ、その点について夫人は、昔馴染みの伝手を使ったと供述している。

 実際に昔馴染みから、毒の密売組織をたどることができ、この件に関わった者は逮捕することができた。


 けれどアウリスは、何か裏があるのではと気になって捜査を続けさせていたが――

 この件について、あまり時間を費やすことは叶わなかった。


 日に日に夫人の処刑を求める声が高まり、平民が毎日のように王宮の門へ押し寄せるようになったのだ。


「これ以上時間を置くと、成人の儀で取り戻した信頼を損ねてしまう」


 王命により、夫人が逮捕されて四ヶ月後に裁判がおこなわれ、死刑という判決が下された。




 刑の執行日。王都の大広場に断頭台が設置され、多くの者がその瞬間を確認しようと押し寄せていた。


「オルガ、大丈夫かい……?」


 刑の執行を見届けるため、アウリスはオルガと彼女の父親を連れてこの場へと出席していた。

 出産を二ヶ月後に控えたオルガには、この場には来させたくなかったアウリスだったが、犯罪者を出した家の罰として欠席は許されなかった。


 オルガは先ほどから、父親にしがみついて泣きっぱなし。

 彼女が身を預ける相手が自分ではないことに、アウリスは複雑な気持ちでいた。


 母親が逮捕されてすぐの頃は、呑気に自分の心配ばかりをしていたオルガだったが、街の様子や貴族達の反応から、母親が無事では済まないと察したのだろう。

 それからは毎日のようにアウリスを責め、夫婦仲は最悪な状況となっていた。


「気安く話しかけないでくださいませ! お母様一人助けられずに、何が王子よ!」

「…………」


 この国では、貴族が犯罪者となった場合は、一族ごと罰を受ける場合が多い。

 それでもアウリスが捜査を指揮し、一定の成果を上げられたことなどを踏まえて、爵位や領地の没収は免れたというのに。

 平民に襲われないよう警備も増やし、できる限り安全にオルガが出産する環境は整えたつもりだったけれど、そういったことはまるで評価してくれないようだ。


「申し訳ございません、アウリス殿下……。私どもはこれから、大切な家族を失います。冷静ではいられぬ状況ゆえ、どうか非礼をお許しくださいませ」


 娘をかばうように、公爵が頭をさげる。

 アウリスも家族だという認識がまるでなさそうな彼の発言に、アウリスはさらに複雑な気分になる。

 けれどアウリス自身もこれまで、ライラを優先するような言動が多かったのも確か。二人から信頼を得られないのは自業自得だと、小さくため息を吐いた。




 公爵夫人が断頭台へ上げられると、広場は大きな歓声に包まれた。

 辺りから聞こえてくるのは、神を賛辞する言葉や、夫人への罵声。

 この事件に巻き込まれ、愛するライラを死の淵へと追いやられたアウリス自身も、夫人を憎む気持ちはあるが、それ以上に平民達の怒りが強く感じられてアウリスは圧倒されていた。


「お父様……怖いわ……」

「お前は見るんじゃない」


 オルガ親子もこの異様な雰囲気に、不安を感じているようだ。

 それでもオルガは母の姿を見ずにはいられないのか、断頭台に視線を向けた。


 夫人の罪状が読み上げられた後、夫人は膝をつかされ首を台に押し付けられる。


 もっと取り乱すのかと思っていたけれど、夫人は落ち着いた態度で恐怖すら感じていないように見受けられる。

 事情聴取していた頃は、減刑を求めて焦っている様子も見られたが、判決が出てからの夫人は牢の中でもこのような状態だった。


 すでに諦めがついているのだろうか。アウリスがそう思っていた時――

 夫人の瞳がギラリと輝くように見開かれ、この場に不釣り合いな笑みを浮かべた。

 そして、何か言葉を発しているように口が動く。


「待てっ!!」


 アウリスがそう叫びながら椅子から立ち上がったと同時に、刑は執行された。


 民衆の叫び声と共にオルガの悲鳴が響き渡る中、アウリスは重大な事柄を見過ごしていたような気分になり、冷や汗が出てくる。


「アウリス殿下、馬車の準備が整っております」

「あぁ……」


 従者に声をかけられたアウリスは、これまでの捜査について考えを巡らせようとしたが――

 寒気がするほどの視線を感じて、動きが止まった。


 ゆっくりと振り返ってみると、広場にいた者達がこちらに視線を向けているではないか。


「悪魔の夫と、娘があそこにいるぞ!」

「アルメーラ家の乗っ取りを阻止しろ!」


 夫人の処刑だけでは怒りが収まらない者達が、次はオルガ親子を標的にしたのだと悟ったアウリス。

 同時に、こちらへ向かってくる群衆から守るように、騎士達がアウリスを囲い始める。


「俺より、妻と義父上を!」

「殿下! ここは危険です。お早く馬車へ!」

「妻を! お腹の子を優先せよ!」

「殿下!!」


 アウリスが指示しても、オルガ親子を守ろうとしない騎士達。命令に背くなど初めてのことだ。

 誰かがこうなると予想して、騎士に命令したのだとアウリスは察した。

 それが誰かなど、今は考えている余裕はない。オルガ親子は震えて動けずにいる。


 アウリスが騎士の制止を振り切ろうとしていると、群衆の中から何かが飛んでくるのが目に入った。


「オルガ!!」


 力任せに騎士を押しのけたアウリスは、オルガをかばうように前へ出る。

 同時に、飛んで来た斧がアウリスに直撃した。


「アウリス様!?」


 驚いたような声をあげたオルガの声を聞きながら、アウリスの意識は遠のいたのだった。





 それから数時間後。広場での出来事についての報告を受けている者がいた。


「殿下が標的をかばってしまい、作戦は失敗に終わりました」

「アウリスは?」

「幸い、命に別状はございません。怪我の完治までには数週間かかる見込みです」

「そう……。せっかく当主のご機嫌を取って騎士を配置させたのに、無駄になってしまったね」

「我々のミスです。どのような処罰もお受けいたします」

「君達のせいではないよ。あんなやつを助けるなんて……、アウリスは本当お人好しだ」

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