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31 アウリスとオリヴェルの密談

◆アウリス視点です

 舞踏会にて。ライラと別れたアウリスは、そのまま会場からバルコニーへと出た。

 王城から見える街の灯りは、いつもより明るい気がする。平民も、ライラが神と並び立つ存在となったことを祝っているのだろうとアウリスは思った。


「お義兄様……か」


 先ほどライラにかけられた言葉を呟くと、「本気で落ち込んでいるのか?」と後から声をかけられた。


「オリヴェルか……。想い人に義兄認定されたんだ、落ち込んで当然だろう」

「お前な……、もう少し気持ちを隠したら?」

「君みたいにはできそうにないよ……。よくこれまで、俺とライラが一緒にいる場にいられたね」

「何の話かな?」


 いつもと変わらぬ表情でグラスを差し出したオリヴェルに、アウリスは小さく笑う。


「俺が気がついていないと思っていたの? 君が親の反対を押し切ってまで離宮に仕える聖職者になったのは、ライラに対する愛情の現れだろう?」


 離宮に仕える聖職者達はその務めの性質ゆえに、離宮に住み込み、一生を独身で過ごす。ライラとの結婚が叶わないオリヴェルは、せめてライラが敬愛している神に一生を捧げたいと思ったのだろうと、アウリスは考えている。

 オリヴェルはアウリスと同じくらい、昔からライラを可愛がっていた。それが単なる友人に対するものでないことくらい、アウリスはとっくに気がついていた。


「離宮に仕えて、ライラちゃんに裏話でもしてあげられたらと思っていたけれど、思いのほか守秘義務が課せられることばかりでね。……まぁ、俺は任せる相手を間違えたようだ」

「それについては、返す言葉がないよ」


 アウリスは感情を飲み込むようにワインを一気に飲み干した。その姿を見て、オリヴェルが笑う。


「アウリスはもう少し俺を見習ったら? これからもライラちゃんと接していたいなら、警戒心を与えないことだね。特にノア様に対して」

「そうだね、精霊神様は恋敵としては厄介な相手だ。今回のお礼にオリヴェルにも一つ教えておくよ」

「なんだ?」

「神へ感謝する際は、言葉を選んだほうが良いよ。俺達の祈りの声は、確実に本人へ届いている」


 これは、精霊神が離宮を訪れたことを知ったオルガが機嫌を直した際に、アウリスが神に感謝した経験からの判断。

 その後でノアは「オルガの機嫌でも取っていろ」とアウリスに皮肉とも取れる発言をしている。


 アウリスの助言を聞いて、オリヴェルは露骨に嫌そうな顔をした。

 信者の多くは日々、神に感謝しながら生活しているので最もな反応でもあるが。


「うわぁ……、嫌なこと発見しないでくれない?」

「君は近くで接するから、なおのこと気まずいだろうね」

「まったくだよ……、有益すぎる情報に感謝するよ」


 オリヴェルもワインを飲み干すと今までとは一転、真剣な表情でアウリスを見た。


「ところで、公爵夫人の取り調べはどうなっている?」

「夫人は、思いのほか協力的だよ。今回は未遂だから、断頭台行きは免れたいんだろうね」

「それは国民が許さないんじゃないか?」


 ライラの件を公表してから今日までの準備期間中にも、アルメーラ家を(おとしい)れた夫人の処刑を望む声が、王都のあちらこちらで上がっているとアウリスも報告を受けている。

 神が存在する証としての象徴である家に対する犯罪は、神に対する大罪のように考えているようだ。


「だろうね。ただ、夫人が協力的なおかげで毒の密売組織を壊滅させることはできそうだよ」

「順調そうで良かったな。ライラちゃんには早く平穏な暮らしをさせてあげたいよ」

「この件が片付いたら、俺はいよいよライラと会えなくなりそうだけれど……」


 ため息をつくアウリスに対して、オリヴェルはにやりと笑いながら、アウリスの手から空のグラスを奪い取る。


「それはお前の自業自得だろ。さぁ! 俺はライラちゃんにダンスを申し込んでこようかな」

「珍しいね、オリヴェルがダンスを踊りたいなんて」

「うちの当主が、ライラちゃんにつきたいみたいなんだよ。たまには親孝行しなきゃね」

「そんなことをいって、本当は堂々とライラと踊る理由を得たいだけじゃないのかい?」


 その問いに対してはグラスを振るだけで、オリヴェルはその場を後にした。


 アウリスは元親友を見送りながら、あれくらい気持ちを隠さなければならないのだろうかと、気分が沈む一方だった。

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