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30 ノアと信者の祈り6

(ノア様が、ヤキモチ……?)


 ライラが首を傾げていると、アウリスはライラの手を頬から離した。すると、それが合図だったかのように強風と雨が止む。


「もしかして、今のはノア様のお力でしたの?」

「そうだと思うよ。街での雷を思い出してみて。俺がライラに何をしたのか」


 あの時は口元にイチゴの果肉がついていると、アウリスに指で拭われたことを思い出したライラ。成人したというのに恥ずかしい限りだ。


「思い出したようだね」

「はい……」

「ライラの誕生日も豪雨に見舞われたけれど、あの時も何かあったの?」

「あの時は、ノア様とオリヴェル様がわたくしのことで言い合いをしていたような……」


 けれどヤキモチとは違うのではとライラは思った。

 ノアは過保護なので、ライラが嫌な目に遭わないか心配なのだろう。


「精霊神様ご自身が自覚しているのかはわからないけれど、ライラに何かあれば精霊神様がお力を使いすぎるかもしれない。これからはライラが気をつけてあげて」

「はい。教えてくださりありがとうございます。アウリス様」

「本当は黙っておきたかったんだけどね……。これは今日のお礼だよ」


 もう彼はオルガと新たな人生を歩み始めているけれど、こうしてまだライラを気にかけてくれるようだ。

 アウリスは婚約者だったけれど、ライラにとっては頼れる兄のような存在でもあった。恋心はなくなってしまっても、優しくされると少しは嬉しく思ってしまう。


「あの……アウリス様!」


 ライラは街でアウリスで会った時に伝え損ねていたことを、伝えてみようと決意した。


「どうしたの?ライラ。顔が赤いけど……。そんな表情を見るのは久しぶりだね、可愛いよ」


 アウリスに顔を覗き込まれ、さらに顔が熱くなるライラ。

 けれど新しい一歩を踏み出すためにも、アウリスにはどうしても気持ちを伝えたい。


「わたくし、こっ……これからは、『アウリスお義兄様』とお呼びしたいですの!」


 あまりに緊張していたライラは、思いのほか声が大きくなってしまった。

 会場はシーンっと静まり返る。

 そして、アウリスは完全に硬直した。


 見つめ合った二人を観察しながら、貴族達が囁き始める。


「確かアウリス殿下とライラ様は五歳差でしたわよね」

「婚約はライラ様が五歳の時に決まったとか」

「お二人はご兄妹のようにお育ちになられたのでしょうね」

「アウリス様の溺愛ぶりは有名でしたが、可愛い妹という位置づけでしたのかしら」

「それでしたら、婚約破棄後にオルガ様と情熱的なご結婚をされたのも納得できますわ」

「ライラ様の信仰心の厚さも有名でしたもの。殿下との婚約は、ライラ様が成人して精霊神様の元へ召し上げられるまでの、偽装だったのかもしれませんわね」

「お二人の関係性について、やっと納得できましたわ」


 囁き声は思いのほか大きく、二人の所まではっきりと聞こえてくる。アウリスは次第に顔色が悪くなってくるが、ライラはアウリスの反応が気になってそれどころではなかった。


「アウリス様……」

「うん……、構わないよ。義兄として接したいと言い出したのは俺だしね」

「ありがとうございます、お義兄様……。少し照れますわね」


 ライラが照れ隠しに微笑むと、二人の元へノアがやってきた。


「曲が終わった。次は俺と踊ってくれるだろう?」

「喜んで、ノア様。――それでは、失礼いたしますわ。アウリスお義兄様」

「じゃあな、ライラの義兄よ」


 仲良くダンスを始めようとする二人を見て、アウリスは複雑な気分でその場を後にした。





 舞踏会が終わった後、ノアが神殿へ帰ることを希望したのでライラも一緒に帰ることにした。


「今日はお疲れ様でした、ノア様」


 彼が気に入ったらしいカモミールティーを差し出したライラ。この一ヶ月で徐々に神殿には家具が増えて、今ではソファーとテーブルも完備されている。

 ノアは受け取ったお茶を満足そうに飲んでから、ライラに微笑みかけた。


「ライラも良くやってくれたな。ありがとう」

「従者として当然ですわ。貴族からの信仰心は増えまして?」

「王家やアウリスが、俺達と良好な関係であることは示すことができたのだろう。元々信仰心のあった者は祈りを再開しているようだ」

「あの……、それは元々、信仰心のない貴族もいらっしゃるということですの?」


 この国を守護してくれている神を信仰しないなど、ライラにとっては信じられない話だ。


「元々、王家に不満がある時は祈らないという風潮があったようだな。俺が信者の祈りを糧としていることに気がついた者が過去にいて、そういった風潮ができたのかもしれない」

「ノア様について詳しく知られると、政治利用されてしまうかもしれませんのね……。今までノア様が人に干渉しなかったのはそういった理由もありますの?」


 今回はノアが派手に露出してしまったので、政治利用を企む者が出てくるかもしれないとライラは心配になる。


「そうだな。だが、今回は俺自身も望んだことだ。前に、正式な儀式をおこなって信者から祝ってもらおうと言っただろう?少し形式は異なるが、俺はライラを皆に見せることができて嬉しかったよ」


 ノアは嬉しさを体現するように、ライラをぎゅっと抱きしめる。久しぶりに彼の思いの熱さが伝わってきて、ライラはなんだか幸せな気持ちになれた。


 ノアの気持ちとしては、従者という扱いとは別の形でライラを信者に見せたかったのかもしれない。けれどライラが従者になると張り切っていたので、譲歩してくれたのだろう。


(本当はわたくしを、どのような扱いにしたかったのかしら?)


 ライラの心にはふと、そんな疑問が湧いた。

 とても大切にされていることだけは理解できるけれど、それはどのような気持ちなのだろうか。

 これまでのノアの言葉を思い出しながら、彼の気持ちを考えようとしたライラ。けれど急に眠気がやってきて、それは中断された。


「ライラはしばらく、寝ていたほうが良い」


 ノアは眠り込んだライラを抱き上げると、自分の居場所である儀式場の魔法陣へと向かった。

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