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28 ノアと信者の祈り4

 成人の儀が終わると、次は国民へのお披露目となる。

 さすがに国民にノアの姿を見せるわけにはいかないので、ノアは幻術魔法をかけた。

 ライラの目にははっきりと見えるけれど、他の人にはぼんやりとしか彼を認識できないようになっているらしい。


 王宮のバルコニーへと出ると、庭を埋め尽くすほどの国民の姿が見える。

 ライラはアウリスの成人の儀に婚約者として出席した経験があるけれど、それに匹敵するか、それ以上と言っても良いかもしれないほどの国民が集まっていた。


「ライラ行くぞ」

「はい!」


 ノアはライラを抱き上げると、空中へと飛び上がる。そのまま国民の頭上をライラを見せるように飛び回った。

 精霊神の姿がはっきりと見えなくとも、こうして空を飛んで見せるだけでじゅうぶんに伝わるはず。

 国民の歓声は一層大きくなり、精霊神を呼ぶ声で溢れた。


「これで信者の信仰心は戻ったのかしら?」

「あぁ。これまでにないほど祈りが集まってくる」


 ノアはこの歓声から信者の祈りを感じているようだ。心なしか、いつもの彼より生き生きとした表情に見える。


「良かったですわ。これで元通りですわね」

「いや。少し集まりすぎているから、礼でもしてやるか」

「お礼?」


 ライラが首を傾げると、縦横無尽に飛んでいたノアはぴたりと動きを止めた。

 そして天を見上げたので、ライラも釣られて見上げてみると――。

 晴天の青空から、白くてフワフワしたものが舞い降りてきた。


 国民の歓声もいつの間にか静かになっていて、誰もが舞い降りてくるものに魅入っている。

 ライラも夢でも見ているかのような気分でそれを目に焼き付けていた。


「これは雪だ。この国よりも北の寒い地方で見られる現象だな」


 この国の国民は国を出たことがない者がほとんどで、ライラもその一人。本でしかその存在を知らなかった雪が、こんなにも綺麗なものだったとは思いも寄らなかった。

 ノアのお礼は、国民の目には奇跡のような光景として映っていることだろう。


「こちらが……。冷たいですわ」

 

 雪は手に触れるとすぐに溶けてしまう。まるでアイスのようだとライラは思った。


「イチゴも一緒に降らせてやろうか?」


 唐突に提案してくるノア。どうやらアイスを連想していたことはお見通しだったよう。


「もう……ノア様ったら。雪だけでも国民にはじゅうぶんなお礼となりましたわ。素敵な贈り物をありがとうございます、ノア様」


 本音をいうとイチゴが降る光景も見たいライラだけれど、この幻想的な光景を台無しにはしたくない。

 きっと国民も、神という存在を改めて認識することができただろう。



 この日の出来事は、数百年後に聖書へ追記された。

『精霊神ノアが、生涯を共に歩む者を見つけた日、天は喜び祝いの雪を降らせた』と。






「ノア様、ライラちゃんお疲れ様!国民からは絶大な支持を得られたようですね」


 離宮へ戻ると、オリヴェルが待ってましたとばかりに駆け寄ってきた。


「あぁ」

「ノア様は祈りをたくさん受け取られたようですわ。貴族の皆様の反応はいかがですの?」

「ライラちゃんがノア様の従者になったことについては、理解を示しているようだけれど、アルメーラ家についてはまだ様子見ってところだろうね」

「そうですの……。ノア様は平民の祈りだけでは、お力が足りませんの?」


 ライラは素朴な疑問をなげかけてみた。貴族と平民では平民のほうが圧倒的に数が多い。先ほどのノアはお礼をするほどの祈りを受けたのだから、貴族をそれほど意識する必要はないのでは思えたが――。


「平民の祈りは一時的な感情に左右されやすいから不安定だ。それに、ユリウスの血が混ざっている者の祈りのほうが糧にしやすいんだ」

「それでわたくしの祈りは特別だとおっしゃられていましたのね」

「まぁ……、それもある」


 歯切れの悪いノアの隣で、オリヴェルが困ったような顔になる。


「そうなると夜の作戦も、やっぱりライラちゃんには実行してもらうしかないね」

「そうですわね」


 ライラも同意をすると、ノアがぐいっとライラを抱き寄せる。


「ライラを他の男には触れさせたくない」

「今回ばかりは仕方ないですよノア様。ライラちゃんにばかり祈りを頼っていると、ライラちゃんの負担になりますよ」

「わたくしが祈るのは構いませんけれど、何かの事情で祈れない場合があると困りますわ。ノア様のご心配は嬉しいですが、わたくしはもう大丈夫ですわ」


 オリヴェルから提案されたのは、夜におこなわれる舞踏会にてアウリスと踊って欲しいというものだった。

 二人の関係が良好であることを貴族達に見せるため、自然に挨拶を交わして自然にダンスを一曲踊る。円満解決が事実であることを示したいのだとか。


 ノアは心配してくれているようだけれど、街でアウリスと会った時は思いのほか普通に話せたので、自分の中ではだいぶ吹っ切れているのではライラは思っている。

 ノアと楽しい毎日を送っているせいか、不思議とアウリスの存在が薄らいでいるような気がする。


「二回だ……」

「え?」

「俺はライラと二回踊る。それで手を打とう」

(二回踊ると、ノア様の心配が和らぐのかしら……?)

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