27 ノアと信者の祈り3
ノアにエスコートされて入場したライラは、シンっと静まりかえる中をノアと共に進んで行く。
精霊神が出席する式に相応しい厳かな雰囲気だけれど、皆の顔は驚きに満ち溢れているのがよくわかる。
ノアが貴族の前に姿を現すのは、国王の代替わりの際におこなわれる加護を授ける儀式のみ。それも、姿を認識できないよう幻術魔法が掛けられているが、今のノアは魔法をかけない状態でライラをエスコートしている。
前回の儀式に出席した貴族ですら、ノアの本当の姿を見たのは初めてとなる。
今回はライラが神と同じ容姿を手に入れたと示さねばならないので、特別にノアの存在を見せることにしたのだ。
この提案をされた際に、なぜいつもは幻術魔法をかけているのか気になったライラは、オリヴェルに尋ねて見たが。
『ほら……、ノア様って俺達が想像している神とは少し違うというか。言動がちょっとね……』と、思いのほか残念な理由を伝えられてしまった。
確かに想像していた神の威厳などは感じられないけれど、ノアと一緒にいるのは楽しいとライラは思っている。
そんなノアだけれど、エスコートする姿が思いのほか優雅でライラは少し驚いた。
「ノア様はエスコートがお上手ですのね。ご婦人方がうっとりしていらっしゃいますわよ」
「上流階級の作法はひと通りユリウスに教え込まれたのでな」
「そうでしたの。ノア様の意外な一面を拝見させていただきましたわ」
「ライラは……、他の女性のようにはならないのか?」
「え?」
「いや……なんでもない」
成人の儀は王家のそれと同じ流れでおこなわれたが、今回はライラが従者となった経緯を国王が語る流れが追加された。
国王が語って聞かせたのは、仰心の厚いライラの前にある日、精霊神ノアが姿を現したこと。
ライラを気に入った精霊神は彼女を傍に置くため、神と同じ色の髪の毛と同じ色の瞳、そして同じだけの命を与えたこと。
ライラは婚約者だったアウリスとお別れをして、従者となる決心をしたこと。
事実とは少し異なるが、王家がアルメーラ家を軽んじたのではないと印象付けなければならないので、アウリスとの婚約破棄はライラの事情ということになった。
オルガが婚前に妊娠した事実があるので、これで納得する者は少ないだろう。それでもライラと王家が円満解決したことを示さねばならない。
当時のライラの状況を考えれば、どちらにせよ公爵家存続のためにアウリスはオルガと結婚しなければならなかった。王家がアルメーラ家を軽んじたのではないことは、ライラも理解している。
それにこの件に関しては国王陛下が頭を下げてくれたので、ライラも従者の仕事として受け入れることにした。
(これで信仰心が戻るのならば、ノア様への恩返しにもなるわ)
国王が語り終えると、筆頭公爵家の当主でありオリヴェルの父でもあるマキラ公爵が、前へと進み出てきた。
「精霊神様と並び立たれる存在となられたライラ様に、貴族を代表して成人のお祝いを申し上げます」
マキラ公爵が恭しく礼をすると、貴族達もそれにならう。ライラはその姿を見て違和感を覚えた。
ライラは公爵令嬢だけれど、地位でいえば当然爵位を持っているマキラ公爵のほうが上。
職業としてもライラは離宮に仕える聖職者達と同じ扱いになる予定なのに、この対応はどう考えてもおかしい。
これはどういうことなのだろうと国王に視線を向けてみると、国王もライラとノアに向けて礼をしているではないか。
ライラは焦ってノアを見上げた。
「ノア様……、わたくしはただの従者ですのに、皆様が勘違いをしていないか心配ですわ……」
「勘違いなどしていない。ライラは俺と同等の存在となったのだから、当たり前の対応だろう」
「えっ……」
(同等って……、そういう意味なの!?)
ノアは種を渡した際に、「精霊になるわけではない」と説明してくれたが、あれは単に身体の構造的な話だったようだ。
身体の構造的に完全な精霊にはなれないけれど、精霊と同じ扱いになる。だから聖域へ入れるようになった。
そしてライラはノアの種を飲んだので、精霊神と同じ扱いになり、神殿へも入れるように。ノアしか入れない神殿へ入れたことについて、もっと深く考えるべきだった。
ノアはライラの面倒を見てくれるような言葉ばかりかけていたので、そちらに意識が向いていたライラ。けれど、あの種の効果は『神と等しい存在』となるものだったのだと理解した。
今になって思えばノアもオリヴェルも国王さえも、ライラが従者になる件については微妙な反応をみせていた。
「ノア様の従者になる」とライラが張り切っていたので、皆で合わせてくれていただけだったのだと思うと、顔から火が吹き出そうなほど恥ずかしい。
ライラは今になって、自分がとんでもない存在になってしまったのだと自覚したのだった。





