26 ノアと信者の祈り2
ライラとノアが離宮へと移動すると、真っ先に聖堂内をうろうろしているオリヴェルが目に入った。
彼は二人が移動してきたのを目に留めると、安堵したように駆け寄ってくる。
「心配したよライラちゃん!一週間も神殿に籠りっきりで大丈夫だった?あちらにはまだ何もないだろう?」
「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんオリヴェル様。ノア様のおかげで大丈夫でしたわ。それよりも、ノア様への信仰心については進展などありまして?」
一週間も眠り続けていたとは言いにくいイライラは、さっさと本題を尋ねる。
するとオリヴェルは、曖昧な表情でサロンへと案内してくれた。
「実は状況がさらに悪化していてね。公爵夫人が逮捕されたことが、すでに王都中に知れ渡っているようなんだ。」
「そうでしたの……」
「いずれは公表されることではあるけど、時期が悪かったね。だから、こちらもそれを払拭できるだけの手を打たなければならなくなったんだ」
「払拭できるだけ……とは?」
従者になったことを公表するだけでは足りないとなると、他にどのような策があるのだろう?ライラが首を傾げると、オリヴェルはにこりと微笑む。
「ライラちゃんの成人の儀を、国主催でおこなっても良いかな?」
「そんな……!それでは、王家と同じ扱いになってしまいますわ!」
貴族はそもそも成人の義などおこなわない。成人の誕生日をいつもより盛大に祝うくらいだ。
いくら注目を集めたいからといって、王家と並ぶような行為は逆に反感を受けるのではとライラは心配になったが――。
「ライラちゃん、君のその容姿にはそれだけの意味があるんだよ。人間ではありえないその美しい髪の毛を見れば、誰もが納得するはずなんだ。精霊と等しい存在になったとね」
ライラは改めて自分の髪の毛を見下ろした。オリヴェルの言う通り、これほど透き通るように輝く髪の毛など人間ではあり得ない。
自分自身のことなのであまり客観的に見ることができなかったライラだけれど、改めてノアが説明していた『同等の存在』という言葉が浮かんでくる。
オリヴェル達から見ても、自分はもう人の枠から外れているのだとライラは感じた。
「わかりましたわ。成人の義をおこなうことでノア様への信仰心が戻るのでしたら、従者としての務めを果たさせていただきますわ!」
「さすがライラちゃん!こういう時は公爵令嬢らしい決断力の良さだね」
「お褒めいただき光栄ですが、わたくしが了承する前に準備は始まってるのではありませんこと?」
「バレたか。ライラちゃんなら引き受けてくれると思ってね!でも今日からは大体的に公表するよ!」
オリヴェルの宣言通り、その翌日から水面下で行われていた準備は、国主導の行事として王都中に知れ渡ることとなった。
唯一精霊神の神殿へ入ることを許され、精霊神と同じ容姿を手に入れたライラのことを、人々は神話の復活だと喜んだ。
そして準備に一ヶ月が過ぎ、ライラの成人の儀当日がやってきた。
本日のライラの衣装は、この日のために半ば強制的に仕立てられてしまった真っ白なドレス。
生地も装飾も最高級品のものが使用され、とにかく豪華でキラキラしている。
アルメーラ家の評判が落ちてる時期に、このようなドレスは反感を買うのではとライラは心配になったが、ノアの輝きに見劣りしない服装が必要だとオリヴェルに説得されて諦めた。
唯一、ノアが贈ってくれた成人祝いのネックレスだけが、シンプルで落ち着く。
「ライラちゃん、めちゃくちゃ可愛いよ!今すぐ俺のお嫁さんにならない?」
「おい……オリヴェル。今日を貴様の命日にてやろうか」
「おや?ただの主と従者の関係であるノア様に、そんな権限があるのですか?」
「俺の従者にしたからには、俺がライラの幸せを保証しなければならない……」
ライラの姿を見るなり、なぜか言い争いを始めた二人。この二人はしょっちゅうライラの前で言い争いをしているけれど、離宮に仕える聖職者の中で『ノア様』と呼ぶことを許されているのはオリヴェルだけのよう。
ノアにとっては友達のような存在なのだろうとライラは思っている。
「ふふ、ノア様ったらそこまでしていただかなくても、わたくしの幸せは自分で切り開きますわ」
「そうか……、ライラはいつもながら頼もしいな……」
今日はノアも、ライラとお揃いの生地と装飾が施された衣装を身にまとっている。
これでライラの頭にベールをつけたら、新郎新婦のようだとライラは思った。
けれど神が結婚するとしたら、相手は女神だろう。ライラでは不釣り合いだと思いながら小さく笑うと、それに気がついたオリヴェルが首を傾げる。
「どうしたの?ライラちゃん」
「ノア様がご結婚するとしたら、お相手はどのような女神様かと思いましたの」
「ライラ連続攻撃は止めてくれ……、心へのダメージが大きい……」
(連続攻撃?)
ノアは何を言っているのだろうと疑問に思っていると、儀式の準備が整ったと知らせがきた。





