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25 ノアと信者の祈り1

「そう。アルメーラ公爵家はユリウス王子の子孫でもあるから、象徴的な家だということは本人であるライラちゃんが一番よく知っているよね」


 神話や聖書ではノアの次に多く登場するのが、ユリウス王子でありアルメーラ家。国民は直接精霊神に会うことは叶わないので、神との親交があったアルメーラ家を、神が存在する証拠のように思っている。


「えぇ。ユリウス王子の印象が悪くならないよう、行動にはいつも気をつけるようにと育てられてきましたわ」

「そのため国民もアルメーラ家にはいつも注目している。今回の王家の対応は、そのアルメーラ家を軽んじたように見えたんだろうね」

「そのことが原因で、ノア様に対する信仰心が薄れてしまいましたの?」

「理由はさまざまだと思うけどね。王家が軽んじる家に不信感を持ち、神は存在しないのではと疑ったり。祈りを拒否することで王家への不満を示してみたり。今回の件を防ぐことができなかった神への怒りだったり」

「俺はライラを助けたぞ……」


 ノアが不貞腐れたように不満を漏らすと、オリヴェルは苦笑する。


「そちらはまだ公表していませんから」

「では、わたくしがノア様の従者となったことを公表したら、ノア様への信仰心は元にもどるのかしら?」

「その可能性は高いと思う。少なくともこれ以上ひどくはならないだろうね。その辺りを、国王陛下と話し合ってみるよ」

「よろしくお願いいたしますわ」


 オリヴェルが退室するのを見送ってから、ノアに視線を向けたライラ。

 ノアはまだ少し疲れたような顔をしている。


「ノア様、もう一度お祈りいたしますわ」

「頼む。一度、神殿へ戻ろう」






 ライラは神殿へ戻るなり、一緒に運び込んだ荷物をせっせと広げ始めた。

 魔法陣の上に絨毯を広げ、クッションを並べるとそこへノアを座らせる。


「オリヴェル様から、魔法陣の上に物を置いても効果は発揮できるとお聞きしましたの。床に直接座るよりもくつろげると思いますわ」

「確かにこれは良いな……、今まで気がつかなかった」


 気がつかないどころか、今まで掃除すらしたことがなかったノアだ。人間的な生活にはそもそも興味がないのかもしれないとライラは思いながら、次にお茶をいれてノアへと差し出す。


「こちらはカモミールティーですわ。ノア様はアイスをお気に召したようでしたので、飲食によってのリラックス効果は得られると思いますの」

「ふむ」


 言われるままにお茶を飲んだノアは、顔を緩めながら息を吐く。


「暖かいな。昔の拠り所のようで心が休まる」


 昔の拠り所とは草の精霊だった頃の話だろう。ハーブティーは素材そのままの味を楽しめるので、拠り所にいるような心地よさを得られるのかもしれない。

 ノアはゆっくりとお茶を飲み終えると、ライラに向けて両手を広げる。


「ライラ、おいで」

「はい」


 ノアには早く元気を取り戻してもらいたいので、ライラはいくらでも抱きしめられるつもりで彼の腕の中に納まる。

 アルメーラ家の騒動のせいでノアへの祈りが減っているなら、代わりに何度でも祈ろう。


「ライラも疲れただろう。少し眠ると良い」

「それですと、ノア様にお祈りできませんわ」

「祈りの言葉は必要ない。俺を想ってくれるだけで良い。俺の夢でも見てくれ」

「ふふ、夢を選べたら良いのですけれど」






 ライラが目覚めると、ノアはすっかりと疲れが取れた様子で気分よさげにライラの頭をなでた。


「よく眠れたか?」

「はい……、申し訳ありませんノア様。本当に寝てしまいましたわ」


 窓から見える空には、銀の粒を散りばめたように星が瞬いてる。

 完全に熟睡してしまったようだと、ライラは焦る。彼を癒すつもりが、これでは立場が逆だ。


「あの……ノア様。わたくし、お祈りできておりましたか?」

「あぁ。一週間ほどこうしていられたので気分が良い」

「え……一週間?」


 少し仮眠しただけのつもりだったのに、それほどの日数が過ぎていたことに驚くライラ。


「ノア様は、その間ずっとこうしていらっしゃいましたの?」

「俺にとって一週間はさほど長い時間には思わない。ライラもそのうち慣れるだろう」


 慣れるとか慣れないの問題ではないような気がすると、ライラは心配になった。

 人は飲まず食わずで一週間も眠り続けていられるものなのだろうか。


「もしかしてノア様、わたくしが衰弱しないよう回復してくださったのではありませんこと?」

「あぁ、ライラは俺と違って信者の祈りを糧にできないからな」

「わたくしの眠りを維持するために、ノア様がお力を使われたら意味がありませんわ」

「ライラはいくらでも、こうしていて良いと思ったはずだ……」


 ノアは不貞腐れたようにライラから視線をそらす。


 確かにライラはそう思ったが、お互いに回復し合うのは無駄ではないだろうか。けれどノアはこうしている時間が好きなようだ。わざわざライラの疲労を回復して、時間を引き延ばすほど。


「ノア様がお望みでしたら構いませんけれど、あまり無理はなさらないでくださいませ。そういえば一週間で信者の祈りはどうなりまして?」

「悪いままだな」

(オリヴェル様は国王陛下と話し合われたはずだけれど……)


 まだライラがノアの従者となったことを公表していないのかもしれない。

 状況を把握するため、ライラとノアは離宮へと移動することにした。

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