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21 ノアと買い物2

 翌朝。

 しばらくは離宮に滞在させてもらうことになったライラは、与えられた寝室のベッドで気持ちよく目覚めを迎えていた。


 ゆっくりと目を開くと、なぜか隣で寝そべっているノアと目が合う。

 驚いたライラが口を開こうとすると、すかさずノアに口を塞がれた。


「むむむぅむむむむぅ(おはようございます)」

「おはようライラ。目覚めのイチゴは美味いか?」


 うなずきながらごくりとイチゴを飲み込んだライラ。このイチゴはどこから出てきたのかと思えば、サイドチェストからイチゴが生えている。


(朝からイチゴが食べ放題だわ……)


 思わず顔が緩むライラだったが、誘惑に負けじとノアを見た。


「ノア様、もしかして一晩中こちらにいらっしゃいましたの?」

「あぁ、ライラの寝顔は見飽きないからな」

「もう……、わたくしは観賞物ではありませんわよ」


 頬を膨らませるライラの口に、イチゴがもう一粒ねじ込まれる。ライラはそれをもぐもぐさせながら、昨夜のことを思い出してみた。


 昨夜はあの後、歓迎を兼ねたライラの誕生日パーティーを、離宮の皆が開いてくれることに。

 大勢で集まるというのは本当に久しぶりで、ライラは楽しい時間を過ごさせてもらった。


 その時に、神殿が整うまでは離宮に滞在するようオリヴェルに提案されたので、この部屋を借りることとなった。

 ノアは眠りを必要としないそうなので、ライラは当然一人で眠るつもりだったけれど、何だかんだと寝るまで添い寝されてしまい、目覚めてみるとこの状態だった。


(一晩中わたくしを見ていただなんて……、ノア様は人間とは時間の感覚が違うのかしら) 


「起きたのなら、さっさと出かけるぞ」

「気が早いですノア様。まだお店は開店しておりませんわ。それよりも、朝のお祈りをさせてくださいませ」


 ライラが起き上がってお祈りを捧げようとすると、ノアに抱き寄せられてしまう。


「あっ……、ノア様またですの?」

「祈りに支障はないだろう」


 初めてノアの前で祈りを捧げた時もそうだったし、昨夜の祈りの際もそうだった。ノアはお祈りの際にはライラを抱きしめたいらしい。

 もしかしたら抱きしめると力を吸収しやすいのかもしれない。そう思ってライラは抵抗するのを諦めることにした。






 朝食を終えたライラは、外出着に着替えていた。

 早く出かけなければ、ノアが待ちくたびれてしまいそう。睡眠を必要としない彼は、昨夜から遠足前日の子供のごとく楽しみにしていたようだ。


「わたくしの準備は整いましたが……、ノア様はそのまま出かけられますの?」


 精霊神が街に出没すると大騒ぎになってしまう。どうするのだろうと思っていると、ノアはパチンっと指を鳴らした。すると彼の羽は消え、透き通るような若葉色の髪の毛はこの国でもよく見かける緑色へと変化する。


「わぁ!すごいですわノア様」

「これは幻術魔法だ。ライラの髪も目立つから変えてやろう」


 同じようにノアがパチンと指を鳴らすと、ライラの髪の毛も緑色へと変化する。

 不思議な気分で鏡を確認していると、オリヴェルが耳打ちをしてきた。


「ちなみに、指を鳴らすのは単にかっこうつけているだけだからね。ノア様は何も動作せずとも魔法が使えるんだよ」

「おいオリヴェル、余計なことを言うな……」

「ふふ、今のノア様はかっこよかったですわ」

「そうか……。ライラがそう思うのなら良い」


 そういえば神殿を掃除した際も、つむじ風を出現させる動作をしていたとライラは思い出す。

 従者相手にかっこうつけたいとは、ノア様も可愛いところがあると思いながら離宮を出発した。




 馬車を降りた二人は、成人祝いのネックレスを専門に扱う店へとやってきた。

 店内に入ると、何組かの親子がネックレスを見ているのが目に入る。本来はあのように親子で来店し、自分の瞳に近い色を両親に選んでもらうのだ。

 楽しそうに選んでいる親子を目にしたライラは、どうしても『羨ましい』という感情が湧いてしまう。

 突然この世を去ってしまった両親のことは、こういった出来事の積み重ねで実感していくことになるのだろう。


 立ち止まってしまったライラの手に、ノアの暖かい手が繋がれる。


「あちらに黄金色が見えるぞ。ライラのネックレスは俺が選んでやろう」

「ありがとうございますノア様」


 親子を目にして立ち止まってしまったので、気を遣ってくれたのだろうか。彼の優しさがライラにとってはとても嬉しい。

 ノアはこの店にいた親の誰よりも真剣な表情で、ネックレスの色を吟味してくれた。


「まぁ、若くて素敵なお父様ですわね。これほど真剣に選ばれるとは、よほど大切にされていらっしゃるのですね」


 店員に声をかけられ、ノアとライラは顔を見合わせた。髪の毛も瞳も同じ色なので親子だと思われたようだ。

 神殿掃除の際に、年寄り扱いされたと思って落ち込んでいたノアを思い出したライラは、慌てて訂正しようと思ったが――。


「この世で一番大切な存在だ」


 愛おしそうに微笑むノアと一緒に、彼の熱い思いが感覚として伝わってくる。


(ノア様……)

「あらあら、お嬢様は結婚に苦労しそうですわね」

「ライラを他の男にくれてやるつもりはない……」

(やっぱりノア様は過保護だわ……)


 今のやり取りを聞いて、ライラは自分がこの先結婚することなどあるのだろうかと考えた。

 種を飲んで従者となった今、まだ実感はないけれど人とは違う存在となってしまっている。

 それにライラは従者を辞めるつもりはない。それらを全て理解して受け入れてくれる人など、いないだろうと思った。





「ノア様、わたくしにぴったりの色のネックレスを選んでくださりありがとうございます。一生の宝物にさせていただきますわ」

「あぁ。帰ったら、付けて見せてくれ」

「はい、もちろんですわ!」


 店を出た二人は、せっかく街へ出たので他の店も見て回ることにした。

 ノアがこのようにして街へ出かけるのは、生贄となったユリウス王子との交流があった頃以来。

 何百年ぶりの街なので、ライラは先ほどから質問攻めにあっていた。


(ふふ、好奇心にあふれているノア様は小さな男の子みたいだわ)


 そう思いながら、ライラが通りを曲がった時だった――。

 見慣れた家紋の馬車が目に飛び込んできて、びくりと心臓が跳ねた。


 まさかと思いながらも店の入り口に視線を向けてみると、店から出てきたのはアウリスとオルガ。

 その後ろからは使用人が大量の荷物を抱えているので、どうやら必要な物を買い揃えにきたようだ。


 ライラと視線が合ったアウリスは、驚きながらも迷うことなく呟いた。


「ライラ……」

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