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20 ノアと買い物1

 日も暮れて夜になった頃。

 コスモスの花束を両手いっぱいに抱えたライラが、ノアに連れられて離宮へと移動すると、聖堂内では聖職者達が掃除をしているところだった。


(神殿のゴミを全てこちらへ移動させたのだから、そうなるわよね……)

「皆様、ご迷惑をお掛けしてしまいまして、申し訳ありませんでした」


 ライラが謝ると、オリヴェルがにこやかに二人の元へとやってくる。


「気にしないでよ、ライラちゃん。ノア様のお世話をするのが俺達の努めだからさ。ところでそのコスモスは?」

「ノア様が誕生日の贈り物にと、神殿の周りに咲かせてくださいましたの。離宮にもおすそ分けしようと思いまして」

「へぇ、ノア様も意外とキザなことをするんですね」


 オリヴェルが面白そうにノアへ視線を向けると、ノアは照れたように視線をそらす。


「大切な人の誕生日を祝って何が悪い」

「いえいえ、素晴らしい従者愛だと思っただけですよ」

「…………」

「それよりライラちゃんの荷物を取ってきたから、確認してほしいんだ」

「荷物?」


 寝室へと連れていかれたライラは、そこにある荷物の数々を目にして驚いた。

 それらは全て別邸のライラの部屋にあったものばかり。


「わざわざ運んでくださいましたの?」

「新しくそろえるには時間がかかるし、気に入っているものもあるかと思ってね」

「ありがとうございますオリヴェル様。嬉しいですわ」


 それらを確認してみると、どうやらライラの所持品だけではないことに気がつく。

 父のカフスボタンや、母のネックレスなどがライラのアクセサリーと一緒に納められていた。


「こちらは……」

「ご両親との思い出になる品も必要だと思ってね。ライラちゃんがご両親に贈ったものなんだろう?」

「どうしてそれを……?」

「あー……、アウリスから聞いたんだ。帰りがけに、これも渡してくれってね」

「そうでしたの……」


 カフスボタンもネックレスも、アウリスと一緒に選んだもの。

 ライラが相談をする相手はいつだってアウリスで、大切な場面にはいつもアウリスが隣にいた。

 彼と顔さえ合わせなければいつかは忘れられると思っていたけれど、簡単には忘れられないほどにアウリスはライラの心に入り込んでいる。


「それからこれもアウリスから預かったんだけど…‥、嫌なら俺が送り返してくるから」


 オリヴェルはポケットから小さな箱を取り出して、ライラへ差し出した。

 これも両親の形見だろうかと思いながら、それを受け取って中を確認したライラは目を見張る――。

 箱に納められていたのは、青いガラス玉が連なったネックレスだった。


「アウリス様がこちらを……?」

「義理の兄として渡したいって言っていたよ」


 この国では成人のお祝いに、両親からこのネックレスを贈られる風習がある。

 本人の瞳の色と同じガラス玉が使われ、貴族も平民も関係なく成人した者は一年間、同じネックレスを身に付ける。

 成人後も元気に長生きしてほしいという願いから、ガラス玉が切れ間なく連なったネックレスとなっている。


 両親は亡くなってしまったし、ライラの寿命は残りわずかだと思われていた。

 わざわざ用意してくれる者などいないと、ライラは諦めていたが――。


(アウリス様のお気持ちがすごく嬉しいけれど、また思い出が増えてしまうわ……)


 このネックレスを受け取るべきかライラが迷っていると、ノアが横からネックレスを覗き込んできた。


「これは確か、瞳の色を贈るのではなかったか?」

「はい。アウリス様は事前にご用意してくださっていたようですわ」


 アウリスがそれを用意した頃のライラは瞳の色が青だったが、今はノアの種を飲んだことにより瞳の色が黄金に変わっている。

 ノアは少し考え込んでから、にやりとライラの顔を覗き込んだ。


「では、黄金色のネックレスは俺が贈るとしよう」

「え!?ノア様が?ですが……」

(ノア様はお金をお持ちなのかしら……)

「案ずるな。――オリヴェルそういうわけだから、金をくれ」

(え……)


 妙な空気が流れる中、オリヴェルは呆れた表情を浮かべる。


「ノア様、それですと残念な人にしか聞こえませんよ……。――ライラちゃん、大丈夫だからね!ノア様には結界の謝礼として毎年予算が組まれているから」

「そっ……そうでしたのね」


 ライラはほっとしてから、再びアウリスが用意してくれたネックレスを見る。


「こちらはどうしましょう……」

「本人が義兄として振る舞いたいのなら、受け取っても差し支えないだろう。次に会う時には義兄と呼んでやれ」


 婚約者から義兄妹へと変わってしまうことに抵抗感があったライラだったが、ノアが何でもない事のように提案してくれたので、少しづつでも受け入れてみようという気になれた。

 ライラ自身は新しい一歩を踏み出したのだ。いつまでもうじうじしていられない。

 いつかこのネックレスを見て、かつての自分を懐かしく思えるようになりたいと思った。


 そんなことを考えていたライラだったので、オリヴェルとノアの会話は全く聞いていなかった。


「ノア様、ライラちゃんに義兄と呼ばせるのは悪意がこもっていませんか?」

「知らん。義兄は家族だ。従者よりマシだろう……」

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