表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/102

19 アウリスが向かった先2

◆アウリス視点です

「どうしたの?俺を心配して駆けつけてくれたのかい?」

「まさか。ライラちゃんの荷物を回収したくてさ。これから行っても良い?」


 期待はしていなかったアウリスだったが、予想通りに親友はまだ許してくれないようだ。

 先ほどライラにわがままを言って彼を怒らせたばかりなので、当たり前だと思いながらアウリスは再び歩き出しながら返事をした。


「あぁ。ライラに不自由な思いはさせたくないからね。構わないよ」


 アウリスも急ぎ別邸へ戻り、二人から事情を聞かねばならない。

 無言でオリヴェルが後をついてくるのを感じながらも、馬車乗り場へと急いだ。




 別邸の敷地へはいるとすでに多くの騎士や、ライラの荷物を受け取りに来た離宮からの使者の馬車が列をなしているのが見える。

 それらを馬車の中から確認してから馬車を降りたアウリスの元へ、近衛隊長がやってきた。


「アウリス殿下、公爵夫人は王宮の控え室もこちらにもおりませんでした。今、捜索隊を出して探させているところです」

「そうか……。報告ありがとう、引き続き頼む」

「承知いたしました。それから、邸内で厄介な事態が起こりまして……」

「厄介?」


 眉をひそめたアウリスに対して、近衛隊長は言いにくそうに玄関へと視線を向ける。

 微かに言い争う声が聞こえてきて、アウリスはため息をついた。


「アウリス様ぁ~!この者達がわたくしの持ち物を持ち出そうとしていますのよ!どうにかしてくださいませ!」

「いえアウリス殿下、私どもはライラ様の所持品を離宮へお運びするために参りました」

「だから、それがわたくしの物だと言ってるのよ!!」

「ですから何度も申し上げているように、オルガ様ではなくライラ様の所持品を――」


 玄関ホールへ入るなりオルガと離宮からの使者に詰め寄られ、アウリスは頭痛がしてきて頭を押さえた。

 自分の母親が殺人容疑で逃亡中だというのに、揉め事の原因がくだらなすぎる。


「オルガよく聞いておくれ。ライラは精霊神様によって健康な身体を取り戻したんだ。だから君が、ライラの所持品を譲り受けることはできなくなったんだよ」

「そんな……、お母様がライラの病気は治らないから好きにして良いっっ」


 オルガが慌てて口を噤む姿を見て、ライラとの間で約束を交わしたのは嘘だったのだとアウリスは察した。

 彼女を信じた自分が馬鹿だったと思いながら、アウリスは離宮からの使者に視線を向ける。


「ライラの部屋は二階の右奥だ。必要な物は全て持ち出してくれ」

「困るわ!わたくしは何も持参していないもの!明日からどう暮らせば良いのよ!」

「明日にでも買い揃えるから、今夜だけ我慢してくれないかな?」

「アウリス様ったら……、わたくしに既製服を着ろとおっしゃいますの?」


 本当にくだらないと、アウリスは深いため息を吐いた。

 彼女はこの状況が何も飲み込めていない。ドレスの心配よりも、自分の身を心配するべきだ。


「オルガ……、公爵夫人の娘でありライラの状況を見過ごしてきた君にも、一応は疑いがかけられているんだよ。あまりわがままが過ぎると、留置所に入ってもらうことになるよ?俺としては妊婦の君に無理はさせたくない」

「わたくしが……?そっそうね、お腹の子のためにもここで大人しくしているわ」


 やっと自分の置かれている立場を理解したらしいオルガを、客室へと連れていかせる指示を出す。

 今日はすでに回数を忘れるほど吐いたため息を吐いていると、オリヴェルが声をかけてきた。


「アウリスはあいつのどこが気に入って、ライラちゃんを捨てたの?」

「やっと理由を聞いてくれる気になったのかい?」

「あ……、そうだね。ライラちゃんのことは離宮の管轄になるし、事情は把握しておこうかな」


 オリヴェルが気まずそうに頭を掻いているのを見て、アウリスは小さく微笑んだ。

 親友は完全に自分への興味を無くしたのかと思っていたけれど、そうではなかったようだ。

 理由を話せばさらに信頼を無くすのは覚悟しているが、親友には真実を伝えておきたいとアウリスは思った。



 ライラの荷物を運び出している間、アウリスの部屋へと移動した二人。

 お茶を飲みながら、アウリスはこれまでの事情を親友に話して聞かせた。


「うわぁ……。ほんとアウリスは、ライラちゃんが関わると馬鹿になるな」

「自分でもそう思っているよ」

「一度の過ちで全てを失う……か。アウリスが辛かったのは理解できるけれど、その辛さを紛らわそうとした先が最悪だったね」

「本当に俺は、どうしようもない男だよ」


 アウリスはお茶を飲んでからため息を吐いた。こんな時はお酒でも飲みたい気分だけれど、お互いにまだ仕事中だ。


「ちなみにライラちゃんには、説明したの?」

「ライラの性格なら、自分のせいだと落ち込んでしまうかもしれないから、話さないつもりだよ」


 婚約破棄を伝えた時のライラは、それでもアウリスの幸せを願ってくれた。

 そんな心優しい彼女に、浮気の原因がライラにあるように聞こえかねない事情など話せるはずがない。

 どんなに辛かろうと超えてはいけない一線を越えてしまったのは、自分自身だとアウリスは理解している。

 それでもライラが事情を聞けば、自分がそうさせてしまったのだと悩むに違いない。


「ライラちゃんは優しいもんなぁ……。俺からも話さないよう気をつけるよ」

「よろしく頼む」


 事情を聞き終えると、オリヴェルはすぐに立ち上がった。余計な雑談をするつもりはないようだ。


「それじゃ俺は指示を出しに戻るな」

「あぁ、話を聞いてくれてありがとうオリヴェル」

「ライラちゃんと接するのに必要だから聞いたまでだよ。今ので俺達の関係が修復されたとは思わないでくれよ」

「わかっているよ。ライラを頼む。それから――」


 アウリスは机の引き出しから小さな箱を一つ取り出すと、中を開いてオリヴェルに見せた。


「ライラに成人のお祝いを渡してくれないかな」


 これはアウリスが領地へ戻ってから直接ライラに渡そうと思っていたものだけれど、もう直接本人に渡すことはできそうにない。


「お前も懲りないやつだな……。先ほどライラちゃんに、適切な距離を保つと宣言したばかりじゃないか」

「ライラの両親はもういないんだ。義理の兄がその役目を代わりに果たすだけだよ」

「まぁ……、今の親が用意しているとは思えないしな。とりあえず預かるけど、ライラちゃんに受け取ってもらえなくても俺を恨まないでくれよ」


 オリヴェルはその箱を受け取ると、「じゃあな、()親友」と短く挨拶をして部屋を出ていった。


 無理な願いを聞いてくれた親友に感謝しつつ、アウリスも部屋を出る。

 今日中にオルガとその父親から事情を聞かねばならないので、あまりゆっくりもしていられない。

 オルガにはしばらく冷却時間が必要そうなので、アウリスは先に父親の元へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

gf76jcqof7u814ab9i3wsa06n_8ux_tv_166_st7a.jpg

◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ