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17 ノアと初仕事3

 赤やピンク、白のコスモスが視界いっぱいに広がっている。

 あまりの絶景にノアを探すのも忘れて魅入っていると、後ろから突然抱きしめられて――。


「イチゴの香りがする」


 耳や肩にノアの顔が触れる感覚があり、ライラの顔は一気に赤くなった。

 至近距離にノアの顔がありドキドキもするが、ここへ向かう直前にもイチゴを食べたのがバレバレで恥ずかしい。


「おっ……美味しく頂かせていただきましたわ!」


 恥ずかしさのあまり逃げたくなったが、がっちりと彼の両腕の中に納まっていてびくともしない。

 ノアから顔を逸らすのが精いっぱいだったが、無防備になった首筋にノアの吐息やら髪の毛やらが触れてくすぐったい。逃げるつもりが完全に逆効果となってしまった。


「どうしたライラ。苦しそうだが掃除で疲れたのか?」


 じわぁっと回復の心地よさに包まれるが、そうではない。

 ライラは恥ずかしさとくすぐったさの限界にきているだけ。


「つっ疲れておりませんわ……。それより、こちらのコスモス畑は……」


 なんとか平常心を保とうと思い尋ねてみると、ノアの顔はやっと首元から離れてくれた。

 しかし今度は、なぜかライラを抱き上げたかと思うと、彼は大空へと飛び上がる――。


 予期せぬ事態にライラは、「きゃー!」と叫びながらノアの首にしがみついた。

 一瞬前は離れて欲しいと思ったノアの顔に、自ら顔を寄せるという理不尽さを味わいつつ。


「落としたりしないから、目を開けてみてくれ」


 優しい声に促されて目を開けて見たライラの視界には、真っ先にノアの背中から生えている羽が見えた。

 ゆっくりと羽が動くたびに、鱗粉のようなキラキラしたものが辺りに舞い散ってとても幻想的だ。


 その現実離れした光景で恐怖心が和らいだライラは、辺りに視線を移動させた。

 下方には一面のコスモス畑。中央には真っ白な神殿が鎮座しており、まるでおとぎの国にでも舞い込んだような気分になる。


「ささやかだが、俺からの誕生日の贈り物だ」

「ノア様……ご存知でしたの?」

「一応は神だからな」


 神は信者全員の誕生日を把握しているのだろうか。さすがにそれは無理があるのではと、ライラは首を傾げた。

 けれど、先ほどのイチゴといい、このコスモスといい、ノアはライラの好みまで知っているようだ。

 神話では子孫の平和を見守り続けると、ユリウス王子とノアは約束を交わしている。

 その子孫であるライラは、これまでノアに見守られてきたのかもしれない。


「ありがとうございます、ノア様!素敵な贈り物ですわ」


 コスモスはライラが一番好きな花だ。

 領地にもコスモスが咲く丘があり、両親と共に毎年訪問していた思い出の花でもある。


 そんな思い出も、ノアはもしかしたら知っているのかもしれない。そうライラが思っていると――。


「……ライラの両親を助けてやれなくて、すまなかった」

「え……?」

「落石事故があった時、ライラの父親から「せめて妻だけでも助けてくれ」という願いが聞こえてきた。だが、俺はこの国の守護神として召喚されたから、この国を出ることはできなかった……」


(お父様もノア様に……)


「それにライラのことも……。俺は万能だが、ユリウスとの約束によりさまざまな制限がかけられている。いくらライラを助けたくとも、ユリウスとの約束が優先される……」


 両親の事故も、ライラが飲まされていた毒も、ノアが悪いわけではないのに彼は辛そうに顔をしかめる。


「今のわたくしがあるのは、ノア様が助けてくださったからですわ。両親の事故についても、ノア様のせいではありませんもの。気に病まないでくださいませ」

「ライラ……」


 思わずライラは、慰めるように彼の髪の毛に触れてしまった。

 神に対しては失礼かもしれないけれど、こうせずにはいられないほどノアは落ち込んでいるように見えたのだ。

 気分を変えるように、ライラはにこりと微笑んでみる。


「確か……、ユリウス王子の娘さんをノア様が甘やかしすぎてしまったために、わがままに育ってしまったのでしたわね」

「……そうだ。やはり、あの神話は燃やしておくべきだったな」


 神話によってライラに過去を知られるのが恥ずかしいのか、ノアはライラから視線をそらす。


 神話では、子孫を甘やかされたくないユリウス王子によって『僕の子孫が助けを求めない限りは傍観者を貫いてよ』と、ノアは約束をさせられている。

 そういった二人の約束を、何百年も経った今でも彼は守り続けているようだ。


「ユリウス王子とノア様は不思議なご関係ですわよね。王子は生贄だったというのに、ノア様のほうが制約を受けていらっしゃいますわ」

「あの魔法陣は神を降臨させるものとしては未完成だった。俺をこの神殿に縛り付け、ユリウスと契約させることで、人為的に神を作ったようなものだ」


「縛り付けて」という言葉に、ライラは彼が心配になった。

 ノアはこの国の守護神となってくれたが、それはノアが望む人生ではなかったのかもしれない。


「ノア様は、神になられたことを後悔していらっしゃいますの?」

「いや、ユリウスがいた頃は何もかもが新鮮だったし、ユリウスのおかげでライラとも出会えたしな」


 無邪気に微笑むノアは、今の人生を悲観しているわけではなさそうだ。

 彼は嬉しそうに言葉を続ける。


「それに、先ほど話したユリウスとの約束はあいつの子孫についてだ。ライラは俺の種を飲んだからその枠からは外れたと思っている。これからは俺の思うままにライラと接することができる」


 思うままにとは、掃除の時のような過保護な言動を指しているのだろうか。

 毎日のようにあのような対応を取られてしまったら、従者としての立場がない。

 それにこれから長い人生、ノアに甘やかされ続けたら自分もわがままに育ってしまいそうだ。

 危機感を覚えたライラは思わず、叫んだ。


「わっ……わたくしを、甘やかさないでくださいませ!」

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