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14 ノアの離宮6

『義兄として』と言われても、アウリスに会えば嫌でもかつての自分達を思い出してしまう。

 ライラとしては、アウリスとはもう会わないほうがお互いのために良いのではと思った。


 けれどアルメーラ公爵家の直系であるライラが、叔父一家とアウリスに全てを任せてしまうのは無責任な気がする。

 貴族の娘として生まれたからには、それなりの務めを果たさなければ。


 それに、アルメーラ公爵家の当主となるアウリスには渡さなければならないものがある。父の隠し部屋に入るための鍵だ。

 隠し部屋には土地の権利書などの重要書類や、神話の原本が保管されている。


 父が遠出する際には、必ずライラに預けていた大切な鍵。

 叔母には何度か書類のありかを聞かれたが、知らないと隠し通した。

 その鍵は今も肌見放さずに持っている。


 けれど今のアウリスにはまだ渡す気になれない。

 安心して領地を任せられるとライラが思えるようになってから渡すつもりだ。


「個人的な事情ではお会いしたくはありません。……けれど、公爵家に関することでお会いしなければならない場合もありますわ」


 条件付きだけれど『会いたくない』とはっきり言えたライラは、心が少し楽になった。


「うん……。わがままを言ってしまったね。ライラが絡むと抑えが効かなくて……ごめん」


 アウリスは寂しそうに微笑むと、叔母を捕縛しにサロンを後にした。


「これでよろしかったでしょうか、ノア様」

「構わないが、あいつと会う際は俺も同行するからな」

「従者の身ですのに、ご迷惑をおかけしてばかりで申し訳ありませんわ」

「人の事情を考えずにライラを連れ去ったのは俺だ。俺だけを見てくれるのはライラが役目を終えた後でも構わない。何百年でも待つつもりだ」


 公爵家とは今後も関わるかもしれないが、ライラのノアに対する気持ちはしっかりと決まっている。

 何百年も待つ必要はないのにと思いながら、ライラは首を傾げた。


「従者としての決意は固いですわよ?」

「そのようだな……、嬉しいよ」


 ノアは眉をへにゃりと曲げながら微笑む。困っているのか喜んでいるのかわからない笑顔だ。


 ライラは視線を感じて、オリヴェルと国王に視線を向ける。彼らも微妙な顔つきで肩を震わせていた。


 よく意味がわからないけれど、それよりもライラは国王に相談したい事がある。


「国王陛下、わたくしは貴族の娘としてこれからどのように振舞うべきなのでしょう。ノア様の従者になることで本来の努めから逃げているように見えてしまわないでしょうか。結果的にノア様の評判に傷がつかないか心配ですわ」


 健康な身体を取り戻したライラは、本来なら他の貴族令嬢のように政略結婚や国に関わる仕事をするなど、何かしら国の役に立たねばならない。

 それが嫌で精霊神に願ったと思われても困る。


 本来は国王に相談するべき話ではないかもしれないが、国王は義父となるはずだった人物。幼い頃から本当の娘のように可愛がってもらっていた。

 両親が亡くなった際も「これからは本当の父のように頼ってくれ」と気にかけてくれた。

 アウリスとの結婚ありきの発言だったとは思うが、ライラが貴族社会のことで相談できる相手はもう国王とオリヴェルしかいない。


「そうだな、ライラがアルメーラ家から離れる理由を公表しなければ貴族が混乱する。信仰心が厚いライラをお気に召した精霊神様が、ライラを従者として取り立てた。国としては離宮に仕える者達と同じく聖職者という扱いにしよう。いかがでしょう精霊神様、ライラの立場について他に案がございましたらお伺いいたしますが」


 国王の意味ありげな微笑みを、ノアは渋い顔で返した。


「いや……、今はそれで良い」


(今は?)


 従者以外にもなにやら立場があるようだ。神に仕える役職は他にどのようのようなものがあるだろう。

 巫女か?聖女か?とライラが考えていると――。


 ふわっとライラの頬に、ノアの手が触れる。

 と同時に、ノアの思いの熱さが伝わってきてライラの心臓は忙しなく動き始めた。


 種を飲んで以来、たびたびやってくるこの感覚はなんなのだろう。


 ノアに視線を向けてみると、彼の視線も熱く感じられて見られていることが恥ずかしくなる。


「いつかは正式な儀式をおこないたいと思っている。その時は、国中の信者達に祝ってもらおうな」


 よくわからないけれど、ノアにとっては特別な儀式のようだ。

 嬉しそうなノアが望む式ならライラも見てみたいと思い「はい」と微笑むのだった。

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