11 アウリスとオルガの結婚披露パーティー
◆アウリス視点です
ノアとライラが離宮へ到着した頃。
王宮の庭では、アウリスとオルガの結婚披露パーティーが開かれていた。
午前中の結婚式も含めて、パーティーの規模は想定していたよりも小さなものとなった。
急に結婚相手が変更になったことに激怒したアウリスの友人達が、次々と欠席の表明をしたのだ。
アウリスのライラに対する溺愛ぶりは誰もが知るところだっただけに非難は相当なもので、欠席と共に絶交も多く告げられてしまった。
当初は、結婚式の前にライラの状態を公表するつもりでいた。
しかしオルガ自身が妊娠したことを周りに言いふらしてしまったので、言い訳にしかならないライラの事情は伏せざるを得ない状況に。
アウリスやアルメーラ公爵家に見切りをつけた貴族達の欠席も相次ぎ、王子との結婚式とは思えないほど寂しい式となった。
王子と結婚し貴族中から祝福されるとばかり思っていたオルガは激怒し、披露パーティーが始まるまでの休憩時間には、アウリスがひたすらオルガの怒りをなだめなければならず。
お腹の子に悪影響があるからと、なんとか機嫌を取ってから披露パーティーに望んだが、不運はそれだけでは収まらなかった。
気候の良い季節だというのに、突然の豪雨。
ごく短時間ではあったが参加者も料理もびしょ濡れとなってしまい、残念ながら庭での披露パーティーは途中で中止に。
夜の舞踏会で仕切り直そうとアウリスは提案したが、オルガが嫌だと駄々をこねたので急遽、舞踏会の準備中だった王宮の大広間が披露パーティーの会場となった。
部屋で着替えを済ませたアウリスはオルガの元へ向かったが、彼女の部屋の前へ到着すると廊下まで聞こえてくるほどのわめき声が聞こえてきた。
アウリスはまたかと思いながらため息を付いてから、従者にドアを開けさせた。
「アウリス様ぁ~!ひどいわ!あんまりだわ!わたくしが何をしたというのよぉ~!」
部屋へ入った瞬間、オルガは彼を責めるように駆け寄ってきた。
オルガはずぶ濡れになった花嫁衣装から舞踏会用のドレスに着替えていたが、そのドレスを見てアウリスは眉間にシワを寄せる。
それは去年、ライラの社交界デビューを祝ってアウリスが贈ったドレスだ。
ライラがこれでもかというほど喜んでくれたのは、記憶に新しい。
そのドレスを着用し初めて化粧を施したライラは目を見張るほど綺麗で、アウリスは舞踏会の間ずっと彼女にどきどきさせられていたのを覚えている。
ドレスの他にも様々なライラの所持品をオルガは使用している。
けれどそれについてはライラが許可しており、いずれは譲ってくれる予定だとオルガは嬉しそうに話していた。
二人の間で決めたことならば文句を言うつもりはないが、大切な思い出までもオルガにすり替わっていきそうで気分が悪い。
しかしその気持ちは押し殺して、アウリスは微笑んだ。
「さすがに天候まで俺のせいにしないでくれよ。さぁ、披露パーティーの続きをしにいこう。精霊神様が離宮を訪れられたそうだし、不運もこれで終わりだろう」
先ほどアウリスの元に、そう連絡が入った。国王が離宮を訪問するので披露パーティーには出られないと。
「まぁ!精霊神様が!?わたくし達をお祝いしてくださるのかしら!」
オルガも生贄となったユリウス王子の血を引いた子孫ではあるが、精霊神が彼女を祝福するとは思えなかった。
彼女は子孫であるにも関わらず、驚くほど信仰心がない。
結婚式では二人そろって神への祈りを捧げる場面があるが、信仰心のある信者なら誰もが暗記しているであろう祈りの言葉をオルガは何度も間違え、参列者から失笑が漏れていた。
ライラとの結婚だったなら神の祝福という奇跡もありえただろうが、精霊神が訪れた理由は別にあるのだろうとアウリスは予想した。
けれど、オルガの機嫌を損ねるわけにはいかない。
「そうだと良いね。さぁ、皆が待っているよ。早く行こう」
「えぇ!皆に自慢しなければ!」
あっさりとオルガは機嫌が良くなったので、アウリスは神に感謝した。
ここまでオルガに気を遣うのも、全てはライラのため。
ライラと最後の時間を過ごすためだ。
オルガとの結婚が決まってからライラは会ってくれなくなったが、結婚後は公爵邸に住むのでなんとしてもライラを最後まで看病するつもりでいる。
この件に関してはオルガも理解を示してくれたが、気まぐれなところがある彼女はいつ考えを変えるかわからないので、アウリスは強く出られなかった。
オルガと体を重ねたのは一度きり。
日々衰弱していくライラを見ていられず。一瞬でも気を紛らわせたくて、オルガの誘いに乗ってしまったアウリス。
気をつけたつもりでいたが、その一度でオルガは身籠ってしまった。
なぜあんな馬鹿なことをしてしまったのか。
死にゆく彼女に負担をかけたくないのに、自分が一番ライラを傷つけてしまった。
妊娠についても、少しでもライラの負担にならないよう伏せておこうとオルガと決めたが、彼女はうっかり話してしまったらしい。
こんなことになるなら、初めから正直に話して誠心誠意謝るべきだった。
何度も愛する者を裏切ってしまい、自分自身に嫌気がさす。
アウリスは悔やんでも悔やみきれない日々を送っていた。
オルガと大広間へ移動中、義父となったライラの叔父が血相を変えて二人の元へやってきた。
「どうしましたの?お父様」
「アウリス殿下!、今しがた使用人から連絡が入ったのですが、ライラが王都へ来ているそうです!」
「ライラが……?」
アウリスは驚きよりも、疑問が湧いた。
ライラが馬車に耐えられるような状況だったならば、とっくに王都へ連れて来ていた。ライラが王都へ来るなど、現実的にありえない。
「ライラの着替えが欲しいと、別邸に使者が来たそうで。その使者は離宮の者だったとか……」
離宮からの使者と、精霊神ノアの訪れ。
どう考えても、ライラを王都まで連れてきたのは精霊神だ。
精霊神は基本的に人へ干渉することはないが、一つだけ例外がある。
それは生贄となったユリウス王子の子孫の願いだ。
ライラは何かしらの事情で、精霊神に助けを求めたのだろうとアウリスは思った。
「なんですって!?」
そう叫んだのはオルガだ。
彼女は悔しさをにじませながら、エスコートされていたアウリスの腕を強く握る。
しかし掴んでいた手はすぐ、アウリスによって振りほどかれてしまった。
「アウリス様?」とオルガが彼の顔を見ようとしたと同時――。
アウリスは離宮に向かって走り出した。