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10 ノアの離宮3

「しっ承知いたしました、ノア様」


 オリヴェルがお腹を抱えて笑いながらサロンを出ていってからしばらく、彼はライラの食事を持って再び戻ってきた。


「ノア様に治してもらったようだけれど、念のため消化に良さそうなものを用意してもらったよ」


「ありがとうございます、オリヴェル様。――わぁ、美味しそうですわ」


 カボチャをペースト状にしたスープとフレンチトースト、野菜のクリーム煮とデザートとしてイチゴもある。

 久しぶりの食事はどれも美味しそうだけれど、オリヴェルはライラの食事しか用意しなかったようだ。


「ノア様は、お食事は必要ありませんの?」


「食べることはできるが、特に必要はないな。信者の祈りが俺にとっては食事みたいなものだ」


 それならばと、ライラは目を閉じて食事前の祈りを捧げた。いつもなら食事に向かって祈るが、本人が目の前にいるので直接ノアに向けて。


 お祈りを終えて目を開けてみると、ノアは嬉しそうに微笑んでいた。


「ライラの祈りが一番美味いな」


「それは聞き捨てなりませんね。信者に優劣をつけないでいただけませんか?」


「怒るなオリヴェル。ライラは特別だ……」


「まぁそのお気持ちはわかりますが。――さぁライラちゃん、遠慮せずに食べてね。足りなかったらおかわりも持ってくるよ」


 オリヴェルに促されてうなずいたライラは、ナイフとフォークを手に取りフレンチトーストにナイフを入れた。

 久しぶりのフレンチトーストはキラキラ輝いて見える。

 ライラはそれをぱくりと口の中へ運んだ。


 忘れていたふんわりと甘い食感が口いっぱいに広がる。 


「美味しい……」


 もう二度と食べ物を口にすることはないと諦めていたライラ。

 もしあの夜ノアが助けてくれなければ、再び日常の楽しみなど得られることもなかった。


 ノアと神殿にいた時は非現実的な感覚でいたが、こうして日々の生活の一部を体験することで健康であることのありがたさが心に染み入る。

 感謝の気持ちでいっぱいになり、ライラの瞳には涙が浮かんだ。


「ノア様……、わたくしを助けてくださり……、本当にありがとうございます」


 改めてお礼を述べると、ノアは「たいしたことはしていない」とライラの頭をなでた。

 ノアの手はとても暖かい。

 まるで身体を回復してもらった時のような心地よさに癒され、ライラの涙はいつのまにか止まっていた。



 

 デザートまで綺麗に食べ終えたライラが、食事を食べきるのは半年ぶりだと喜んでいると。


「さっきは命の危険があるほど衰弱していたと言っていたけれど……、ライラちゃんは病にかかっていたの?」


 オリヴェルの疑問に対して、ライラは戸惑ってしまった。

 今回の件についてライラは何一つ証拠を持っていないので、事情を話してしまえばオリヴェルに迷惑がかかってしまうかもしれない。

 どう説明しようかと困っていると――。


「あいつが変なものをライラに飲ませていたから、回復に苦労したぞ」


 絶対的存在である神にとっては、人の事情など関係なかったようだ。


「あいつ……とは?」とオリヴェルからさらに質問されてしまったので、ライラは正直に話すしかないと諦めた。


「実は……、叔母様に甘い粉を摂取させられておりましたの……。その甘い粉がどういったものなのかわかりませんが、それによってわたくしは食欲を失っていたようで……。多量の粉を摂取させられそうになった時は、匂いだけで気持ち悪さと眩暈に襲われましたわ」


「そんなことが……。毒……にしては、聞いたことがない症状だな」


 驚きつつも、腕組をして考え始めたオリヴェル。

 公爵家の者ともなると毒を盛られる危険もあるので、その辺りの知識はそれなりにある。

 ライラも同じだが、ライラ自身がずっと気がつかなかったほど、あの甘い粉は不可思議なものだった。


「あれは、この国にはない植物だ。おそらくこのような造形のものだろう」


 ノアがテーブルに手をかざすと、テーブルから見たこともない植物がはえてきて、みるみるうちに葉を茂らせる。


「ちょっ……!ノア様、こんなところに生やして大丈夫ですか!?」


 顔をしかめながら身を引いたオリヴェル。ライラも思わずノアの陰に隠れた。


「直接口に含まなければ問題ない。開花すると厄介なようだが、これ以上は成長しないように操作してあるので問題ない」


「そうなんですか……。確かに、これは見たことがない植物ですね。そんなものが巷で流通しているなら厄介だ。アウリスが継ぐ家でもあるし……、陛下のお耳にも入れておいたほうが良いな」


 ライラとノアが直接国王陛下に説明することになり、オリヴェルは木箱を持ってきてノアが生やした植物を中に入れると、足早にサロンを出ていった。

 それと入れ替わるようにライラの着替えが到着したとの知らせが――。





 着替えるために部屋を移動したライラは、鏡の前に立って思わず息をのんだ。


(わぁ……、本当にノア様と同じ髪色と瞳の色になっているわ)


 羽こそ生えていないが、まるで精霊のような容姿。

 髪の毛はすでに確認していたが実際に全体像を見ると、今までの自分とは別人のようだ。


 ライラが自分自身に見惚れている間にも、メイドは素早く着替えをさせていく。


「ライラ様は、精霊神様の従者に選ばれたとか」


「えぇ、そうなの。光栄なことだわ」


「わたくしも儀式場に居合わせておりましたが、お二人で現れた時は聖書の挿絵から飛び出てきたかのような神々しさでしたわ」


「……ありがとう」


 あの時のライラは寝間着を見られたのが恥ずかしくて悲鳴を上げてしまったが、そう思ってくれていたならなおさら自分の言動が恥ずかしい。

 これからは従者として、ノア様に恥をかかせないように気をつけなければ。



 ライラが着替えたのは、ドレスに下着、靴や髪留めに至るまで、全てライラの所持品だった。

 どうやら王都にある別邸まで、着替えを取りにいってくれたようだ。


 けれど同時に、別邸の使用人にライラが王都へ来ていることが知られてしまったことになる。

 今日中に叔父達にも伝わってしまうだろうが、叔母はどう家族に話したのか少し気になった。

 そもそも叔母はあの夜、ノアによって屋根裏部屋の窓から強制退室させられてしまったので、無事かどうかもわからないが。


 メイドはライラの身支度を整え終えると、「お二人のお幸せを願っておりますわ」と締めくくった。


(幸せ?)


 職業が決まった者へかける言葉としては相応しくない。

 ノアが待っているサロンへ戻りながら、どのような意味だったのかとライラが考えていると。


 廊下の前方から、全速力で走り寄ってくる人が――。


「ライラ!!」

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