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人間の真似をしたいノア3


「精霊は、百年ごとに出会いをお祝いしますの?」

「いや、精霊は関係ない。それより、今日は特別演目らしいぞ」


 はぐらかされたような気がしたが、ノアはオペラを楽しみにしていたようだ。せっかくノアが連れて来てくれたので、ライラも疑問は後にしてオペラを楽しむことにした。


 精霊神がオペラ劇場を訪れた記念なのか、特別演目というのは『ライラの成人の儀』の話だった。

 ノアが姿を見せた日のことは、こうして物語として語り継がれるほど、国民にとっては歴史的な出来事だったのだろう。今日もこうして姿を見せてこの物語を鑑賞したことは、長く語り継がれることになるのかもしれない。


 ライラ役のオペラ歌手は、光を背負い、宙吊りになりながら歌っている。あの日のライラとノアのように。


 自分の物語を見るのは気恥ずかしいが、ライラはあの日を思い出して懐かしさがこみ上げてきた。

 あの日も今日のように、ノアとお揃いの衣装をまとって国民の前へと姿を見せた。真っ白な衣装だったので、ノアと結婚するのはどんな女神だろうかと想像したのを覚えている。


 そう。

 あれは、ライラの成人の儀というよりも、まるで結婚式のように国民から祝福されたのだ。

 ノアも『今回は俺自身も望んだことだ。前に、正式な儀式をおこなって信者から祝ってもらおうと言っただろう? 少し形式は異なるが、俺はライラを皆に見せることができて嬉しかったよ』と言っていた記憶がある。


「……ノア様。わたくし今更ながら、気がついたことがございますの」

「そうだろうな……。むしろこれだけ見せて、気がつかれないほうが悲しい」


 オペラ歌手による、結婚式のような幸せな歌が紡がれる中、ノアは複雑な表情でライラ見つめながら続けた。


「種の意味を知っていたオリヴェルと国王が、結婚式の代わりにあの儀式を提案してくれたんだ。俺としても早くライラを国民に見せたかったから、あのような形式となった……」

「わたくしが勘違いをしていたばかりに、皆様には苦労をおかけしてしまいましたわ……」


 ライラが勘違いをしなければ、二人は人間と同じように結婚式も挙げていたのだ。


「わたくし、ノア様と結婚したという実感があまり湧かなくて……。今日は、結婚記念日でしたのね。初めに教えてくださればよろしかったのに」


 想いは通じ合ったが、それ以降も今までと変わらぬ生活を送っていた二人。

 今日が初めての夫婦らしいイベントだったので、これほどノアは張り切っていたようだ。


「ライラがそう思うのも、無理はない。俺は人間のことに疎いので、夫としては役不足な部分が多くてすまないと思っている」

「そんな……。わたくしこそ、ノア様の存在が大きすぎて、従者という認識のままでしたわ。わたくし、ノア様の妻……になったのですわよね」


 言葉とは、実に不思議な力がある。

 初めて自分で『妻』と名乗ったライラは、急にノアと結婚したという実感が湧いてきた。


「そうだ。これから少しずつでも、俺を夫として見てほしい。そしていつか、国民全員が羨むような、夫婦になりたいと思っている」

「ふふ。ノア様の夢は壮大ですわね。わたくしも、一緒にその夢を叶えられるような妻になりたいですわ」

「ちなみに、今日の俺はどうだっただろうか……」

「今日はとても素敵なデートを楽しませていただきましたわ。どのように計画を立てられましたの?」


 どう考えても、ノアだけの計画とは思えない。離宮の者達が計画を立てたのだろうかとライラは思ったが。


「今日は、ライラの両親の結婚記念日を真似てみた」

「え……」


 まさか、ここで両親が出てくるとは思わなかったライラは、言葉を失った。

 いつも仲の良い家族だったが、両親の結婚記念日だけは毎年ライラを置いて二人だけで出かけていた。

 恋人同士のようなデートを両親がしていたとは、本当に驚きだ。


「……今日はノア様に、素敵な思い出をたくさんいただいてしまいましたわね。本当にありがとうございました。来年は、わたくしがお返しをさせていただきたいですわ」


 百年も前に亡くなった両親の思い出を、今になって聞けるとは思っても見なかった。

 来年は、ノアにとって素敵な思い出となるような結婚記念日にしたいと、ライラは心から決意する。


「それは、今から楽しみだな。だが今日は、まだ終わっていないぞ。ライラの両親はいつも、丘の上のレストランでディナーをしていた。予約してあるので、オペラが終わったら一緒に行こう」

「まぁ。わたくし、両親に連れて行ってもらったことがありませんわ。両親の秘密の場所ですわね。楽しみですわ」

番外編を一気に二本あげさせていただきましたが、早速お読みくださりありがとうございました!


そして近々、新連載を始めたいと思います。

次のヒーローもヘタレ気味ですが、もしよろしければ……(笑)

離婚したい王太子妃と、それを阻止したい王太子の話です。


追記。連載開始しました。

https://ncode.syosetu.com/n4545ho/

『私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく夫を追い込みます』


追記2。ノアの短編を検索除外にするので、こちらにリンク貼っておきますね。

https://ncode.syosetu.com/n7270hf/

『引きこもり令嬢の元へ、王子が求婚にやって来ました。え?初めてお城を出た?外が怖くて帰れない?』

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◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


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