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人間の真似をしたいノア1

 ノアとライラの想いが通じ合った後の出来事。



 その日の朝。ライラはノアの髪の毛を、ブラシで丁寧に解いていた。

 ライラが助けられた頃のノアは肩よりも髪は短かったが、近年は伸ばし続けていて肘の辺りまで伸びている。


「ノア様の髪の毛は美しいので、解かすのが楽しいですわ」

「そうか。ならば、これからも伸ばし続けよう」


 何千年も生きているノアは、たまに気晴らしで容姿の雰囲気を変えたりするようだが、今は『ライラに世話されたい』という理由で伸ばし続けていた。


「ふふ、どこまで伸びるか楽しみですわ」


 ライラはノアの髪の毛が、愛おしくてたまらない。

 透き通るような白髪が、光の加減で若葉色に変化する様子は、永遠に見ていたいほど幻想的で。なにより、自分自身の髪もノアと同じ色であり、二人が繋がっている証拠でもある。

 種の意味を知るまでは、神と同列視されることに苦手意識があったけれど、今はすんなりとそれを受け入れられる。この容姿は、ノアの愛情表現そのものだから。


 ノアの髪の毛を整え終えたライラは、彼の胸にイチゴのブローチを留めた。百年ほど前のお祭りで、お互いに贈り合ったこのブローチは、今でも二人にとって大切な宝物となっている。


「身支度が整いましたわ」


 ここまでが、いつもの日課。ノアに微笑みかけると、ノアも「ありがとう」と微笑み返してくれる。

 この後は、儀式場でのんびり過ごしたり、聖域の森を散歩したりと、時間に追われないのんびりとした一日が待っている。神との暮らしは『まどろむ』という言葉が相応しい。


 しかし今日のノアは、なぜか自分自身と入れ替わりで、ライラを鏡台の前に座らせた。


「ライラの髪の毛も解いてやろう」

「あの……、ノア様にお手間を取らせるわけには……」


 ノアにわざわざ解いてもらうのは申し訳ないと思ったが、彼は思いのほか手馴れた様子で毛先から丁寧にブラシで解いていく。

 手際の良さに感心していると、ノアが鏡越しにライラと目を合わせる。


「今日は街へ行きたいのだが、ついてきてくれるか?」

「えぇ、構いませんけれど、ノア様が街へ用事とは珍しいですわね」

「少し、してみたいことがあってな……」


 なぜか気まずそうに視線を逸らしたノア。彼にとっては聖域が居場所であり、神殿内にある魔法陣の上が最も居心地の良い場所だ。

 そんな彼が、街でしてみたいこととはなんだろう? とライラは考えている間にも、ノアはライラの髪を解かし終え、髪飾りまで器用につけてくれた。




 ノアに連れられて離宮へと移動したライラは、聖職者に馬車の用意をしてもらおうとした。しかしなぜか、聖職者の方から「こちらへどうぞ」と心得たように案内される。

 ノアとは別々の部屋へと案内されると、そこにはメイドの姿が。


「外出のご用意を、整えさせていただきます」

「わぁ……、綺麗なドレス……。こちらは?」


 メイドの横には、見たこともないデザインのドレスが用意されていた。

 先日、加護を授ける儀式に出席するために仕立てたドレスは、格式あるデザインだったが、このドレスは今までの型とはまるで異なる、新しいデザインだ。


「精霊神様がご用意してくださったものでございます。最近の流行でございますよ」

「ノア様が? なぜ、わざわざドレスまで用意してくださったのかしら……」


 街へついてきてほしいと言われただけなのに、予想もしていなかった展開。ライラは首を傾げたが、メイドはその疑問には答えてくれなかった。



 新しいドレスに着替えて待っていると、ノアもスーツを着込んだ姿で部屋へと入ってきた。

 ノアのスーツはライラのドレスと同じ生地で作られており、各所に同じデザインが取り入れられている。


「ノア様、素敵なドレスをありがとうございます。ノア様とお揃いで嬉しいですわ」

「あぁ。よく似合っている」


 照れたように視線を逸らせたノアは、「これも、留め直してくれ」とイチゴのブローチをライラに差し出す。


 使用人でも事足りるのに、わざわざライラに留めてもらいたいらしい。

 ノアの胸にブローチを留めると、今度は「ライラのブローチを留めたい」とノアが言い出したので、ライラは一度ドレスから外してから、ノアに留め直してもらった。


(今日のノア様は、どうしたのかしら? なんだか、お祭りのデートを思い出すわ)


 まるで誰かに教わったかのように、順序立てておこなっている様子が、あの時のようだ。


「では、行こうか」

「はい!」


 馬車の中でノアは、自分自身とライラに幻術魔法をかけて、髪色を人間のような緑色に変化させ、ノア自身の羽も消した。

 こうして人間に紛れるのは本当に久しぶりで、ライラはわくわくしてきた。


「ノア様、今日はどちらへ向かわれますの?」

「そうだな。まずは公園でも散歩しようか」


 街に用事があったのかと思えば、ノアはそんな提案をする。

 不思議に思いつつも馬車を降りたライラは、公園へノアを案内しようとしたが、ノアは場所がわかっているようにライラを連れていく。


 のどかな公園を散歩しつつも、ノアは行き先が決まっている様子。たどり着いたのは、公園内にある大きな池だった。

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◆作者ページ◆

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